「……………………」
 部屋の真ん中でジャミルは立ち尽くし、途方に暮れていた。このまま待つべきか、それとも迎えに行くべきか。頭の中は迷うのに、身体が動かない。もしかしたらという嫌な予感をせずにはいられない。
 ギィ……。不意に後ろの扉が開く音がした。振り返ると扉の隙間から人影が見える。輪郭だけで誰だというのはすぐにわかった。
「ジャミル。先に帰っていたんだ。おいら、遅刻だったね」
 ダウドが住処の中へ入り、屈託の無く笑う。
「見て」
 盗んだ宝石を出し、手の平に乗せて見せた。
 ジャミルは何かを言おうと口を開くが、声を発せずに頭を振る。両手を握り締めた後、開いてダウドの両肩を叩き付けるように鷲掴みにする。ダウドは目を丸くして驚き、反動で宝石が零れ落ちた。
「お前なぁっ!」
 大きく引き寄せ、揺らす。
「おっせーんだよ!」
 歯を剥き出しにし、尖った八重歯が見えた。ジャミルは睨み付け、相当怒っている様子であった。
「一体何してやがった!」
 身体を回し、室内の方へダウドを持って行く。
「お前…………」
 ジャミルは頭を垂れる。ただ驚くだけであったダウドは、彼の手が震えているのに気付いた。掴む力が弱まり、引き摺るようにその場に膝をつく。
「ジャミル?」
 きょとんとしてダウドはジャミルを見下ろした。やおら膝を曲げ、触れようとするが、どう触れれば良いのかがわからず戸惑う。





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