帽子
空を見上げて、ミリアムは溜め息を吐いた。
「はぁ」
どんよりと曇り、雨が降り注ぐ。止みそうな気配はない。
グレイ一行は、森の中を歩いている最中に雨に降られ、適当な木の下にガラハド、グレイ、ミリアムの順で雨宿りをしていた。
「どうする?」
幹に寄りかかり、グレイに問う。彼が表情を変えずに見つめるものは、葉から滴る滴であった。
「少し様子を見よう。ぬかるんだ場所で魔物に狙われたら、ひとたまりもない」
「そうだね」
ミリアムは納得した顔で、小さく頷く。
「………………」
ガラハドが眉を顰めて顔を上げる。雨が頭に落ちて、驚いたのだ。
その様子を横目で気が付いたグレイは、おもむろに手を伸ばしたかと思うと、ミリアムの帽子を取った。
「ちょっと、何すんのよ!」
奪い返そうとするが、高く持ち上げられ、手を伸ばしても、飛び上がっても、届かない。
ぽすっ。ガラハドの頭に、帽子が乗せられる。
「貸してやれ」
雨音で聞き取りづらいが、そのような事を言ったようだった。
「なにそれ!」
トレードマークの帽子を勝手に取られて、ミリアムはヒステリックに怒る。
「ガラハドは好きで頭が禿げた訳では無い」
いや、確かにそうだけど。
ミリアムとガラハドは突っ込みに困った。
「しょうがないわねー。ガラハド、有り難く思いなさいよ」
「う、うむ」
微妙な空気が流れる。
「俺が貸したんだぞ」
「元々あたいのよ!」
さらにグレイの空気の読めない発言に、ガラハドは何となく咳払いをしてしまう。
しとしとしと。雨は静かに降り続ける。
降り出す前は、汗がじんわりと浮かぶくらいの、やや暑い気温であったが、急に冷え出した。
ミリアムは素肌が出ている二の腕を、しきりに摩っていた。
「…………………」
その様子を横目で気が付いたグレイは、ベルトをはずし、上着を脱ぎ出す。
「なにやってんのよグレイ。風邪ひくよ」
止めようと伸ばしたミリアムの手に、上着が押し付けられる。
「それでも着ていろ」
ベルトを付けながら、ぶっきらぼうに呟いた。
「変な奴」
言葉とは裏腹に、ミリアムの声は嬉しそうで、やがてクスクスと笑い出す。ガラハドもつられて笑っていた。上着はグレイの体温で温まっており、冷え切った二の腕に染みるように伝わっていく。
「…………………」
グレイは腕を組んで、またぼんやりと雨を見つめる。
「くしっ」
くしゃみをするが、何事も無かったように振舞う。
「何か掛けるものがあったはずだ。ちょっと待ってろ」
ガラハドはそう言って、道具袋を開けようとすると、頭の上に乗せられたミリアムの帽子が落ちそうになる。
「探している間、持っていてくれ」
帽子が、グレイの頭の上に乗せられた。
助け合いの冒険者。
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