あなたが欲しい物



「ねえ、惜しかったと思わない?」
 町を出るなり、ミリアムはグレイに話しかけてきた。
「なにがだ」
 グレイは聞き返す。
「ほら」
 後ろを向くミリアム。同じように振り返ると、ミルザブールの城が見える。
「テオドールさんが、跡を継がないかって」
 グレイ一行は激闘の末に偽者のテオドールを倒して、騎士団領に平和を取り戻した。その際に、テオドールがグレイに跡継ぎの事を口に出したのだ。しかし、グレイの返事を問う前に、話は無かった事になってしまった。
「継がせる気が無いんなら、思わせぶりな事言うんじゃないわよってね」
 ミリアムは前に出て振り返り、グレイと向かい合って、怒った素振りで腕を組んでみせる。


「グレイ、王様になっていたかもしれないよ」
「興味ない」
「そうねー、合わないかも」
 指でフレームの形を作ってグレイの姿を映し、王冠を被ったイメージを浮かべた。
「あんたと付き合い長いけどさ、あんたが何を欲しいのか、あたいはいまいちわからない」
 手を下ろし、歩く速度を落としてグレイの隣に並ぶ。
 背を屈めて、下から前髪に隠れた顔を覗き込むように、質問攻撃を開始する。


「お金に興味ないでしょ」
「ないな」
「豪華な部屋とか住んでみたいと思わない?」
「思わない」
「剣の腕は凄いけど、そんなには執着してないよね」
「剣の道を究めたい訳じゃないさ」
「お宝は好きでしょ」
「好きだ」
「でも中身より、経過なんでしょう?」
「探すのが楽しいんだ」


 グレイの瞳がきょろりとミリアムの方を向く。
「良くわかっているじゃないか」
「あたいがわかっているのは、グレイが良くわからない奴ってだけ」
「…………………」
 微かに、グレイが笑ったように見えた。


「次はどこへ行くの?」
「スカーブ山はどうだ」
「えー、魔物が強くなっているのに、あえてそこに行くの」
 ミリアムは苦い顔をする。
「何かが、ありそうじゃないか」
「あんた馬鹿でしょ」
「嫌か?」
 グレイの問いに、首を横に振る。
「結構、好きよ。グレイ、そんなあたいはどうかしら?」
「俺も好きだ」
「あら、両想いじゃない」
 なぜかおかしさがこみ上げて、ミリアムは声を上げて笑ってしまう。


「山だって谷だって、あたいはグレイに付いて行くからね」
 ノースリーブの腕を捲くる真似をした。
「好きにしろ」
「そんな事言うと、本当にどこまでも付いて行っちゃうわよ」
「好きにすれば良い。俺も好きにしている」
「じゃあ、そうさせてもらう」
 ミリアムは自信たっぷりの顔で、ニッと笑う。そして、後ろを付いて来ている仲間達に、手で作ったメガホンを向けた。


「グレイがスカーブ山へ行くってー!」
 仲間達の顔が、先ほどのミリアムと同じ顔になる。
「大丈夫!みんなついてきなよ!」
 ミリアムの威勢に、彼らは賛同して両手で大きな丸を作った。
「良いって」
 グレイの方を見る。
「では行くか」
 マイペースな反応に、安心感と心強さがあった。彼といれば、世界の全てに触れられるような気がした。










さらっと両想い。
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