それは、戦闘中の出来事だった。


女の命



「ミリアム、下がれ」
 グレイの声にミリアムは下がり、彼女を庇うように彼は前に出る。
 間合いを取って、刀を抜き放つ。


 一閃が空と、何かを切る感触がした。目の前を、金色の筋が舞う。
 グレイとミリアムは、ハッと見張る。
 金色の筋は、ミリアムの髪であった。
 刀の刃が偶然、髪を切ってしまったようだ。




「やれやれ」
 ガラハドが息を吐く。
 魔物を退治した後、地面に散らばったミリアムの髪を、身を屈めて拾う。
「しょうがないよ」
 そう言うミリアムの、ツインテールの片方は無くなっており、リボンの片方が音もなく落ちた。
「すまない」
 グレイはぼそりと呟き、ミリアムに詫びる。
 表情は変わらないが、どことなく沈んでいるようだった。
「だから、しょうがないって」
 ミリアムは明るく笑う。


「……………………………」
 金属を引き摺る音を立てて、グレイは一度収めた刀をもう一度抜いた。
 空いた手で後ろの髪を押さえ、のこぎりのように髪を切り始める。
「「グレイ!」」
 ガラハドとミリアムが止めようと近付くが、黙々とグレイは切り続ける。
 長く、ボリュームのあった髪は、さっぱりとした短髪になってしまう。
「どうだ」
 グレイはミリアムに短くなった髪を見せる。
「どうだって、あんた何やってるの。もったいない」
「ミリアムの髪も、もったいなかった」
「ふー。ま、良いわ」
 肩を上げて、後ろを向く。
「もう片方も切って。あんたとおそろいになってあげる」
「良いのか」
「ええ、バサッとやって」
 ミリアムが口で言った通り、ばさりと生き残ったテールも刀によって切られてしまう。


「急なイメージチェンジだけど、悪くないわ」
 髪を整えて、微笑んで見せるミリアムに、グレイの目は穏やかになる。
「ガラハド、あんたもどう?」
 2人の視線がガラハドの髪を刺す。


「貴重な髪を切ってたまるか」
 日に反射して、ガラハドの薄い脳天が鈍い光を放った。
「いるか?」
 グレイが切った髪を拾い、ガラハドに差し出す。
「いらんわ!」
 手を払った。
 ミリアムが噴き出し、つられてガラハドも笑う。グレイも笑っているようで、背中がひくひくと動いていた。










グレイが、ちょっとめんどうくさい性格かも。
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