グレイが新しい趣味を見つけた。
趣味
グレイ、ガラハド、ミリアムの3人は、タルミッタの食堂で旅の目的地について打ち合わせをしていた。
「グレイ」
「………………………」
グレイは背中を向けて、何やら熱心に手元に集中させている。耳は傾けているようだが、あまり気分のいいものではない。
「グ〜レ〜イ」
「………………………」
ガラハドとミリアムは、まるで玩具に夢中な子供を嗜める親のような口調で、グレイの名を呼び続ける。
「グレイ!」
ミリアムが水の入ったグラスを、わざと音が立つように置いた。
「……………なんだ」
グレイが振り返る。いかにも面倒くさいといった素振りであった。
「ちょっと手を休めて、あたい達の話を聞いてくれませんかー」
かつかつかつ。
ミリアムはテーブルに指を突いて鳴らす。
ガラハドは深い溜め息をついて、腕を組み直す。
「話は聞いている。俺には特に意見は無い。お前達の好きにしろ」
口早に言うとグレイは視線を落とし、手元に集中させようとする。
「もういい加減にしなよ。あんたのソレは、行き先には不要なものなのっ」
「俺の勝手だ」
「私たちは仲間なのだ。勝手も何もないだろう」
「………………………」
ふー。グレイは息を吐いて、黙々と没頭していたものをテーブルの上に乗せた。
それは毛糸と編み棒。
グレイは編み物をしていたのだ。
きっかけは、先週訪れたガト村。情報を集めている際に、グレイは1人暮らしの老婆に捕まり、話し相手に飢えていたのか、長話に付き合わされた。その時に教わったのが編み物で、グレイはすっかり虜になってしまったのだ。それからというもの、グレイは暇さえあれば編み物に没頭するようになり、ただでさえ絶対自由なのに、さらなる勝手さを持つようになってしまった。
「グレイ、よーく聞きなよ」
「まず手は膝に置けっ」
「………………………」
2人の言葉に口を尖らせるが、しぶしぶ手を膝に置き、話を聞く姿勢を取る。
「編み物しちゃいけないって言ってる訳じゃないの。話し合いの時にするのはやめなよ」
「私たちはドライランドのノースポイントへ行く。暑い所だ」
グレイはこくこくと頷き、相槌を打った。
「そもそもグレイ、あんたは何を編んでいるの?」
ミリアムの問いに、待ってましたとばかりにグレイが即答する。
「マフラーだ」
マフラー。ガラハドとミリアムは天井を見上げて、マフラーを巻くグレイを想像した。とても暖かそうなグレイが思い浮かぶ。
「ふーん、良いんじゃない」
「そうだな。お前らしい」
さきほどは叱りつけたが、今度は肯定的に受け止める。本人達は気付いていないが、飴と鞭であった。
効果があったのか、グレイは話し合い中には編み物をしなくなった。
その後、通りかかった馬車に乗り、ガレサステップを横断している最中、彼は声を上げる。
「出来た!」
出来上がったマフラーを掲げた。
ぱちぱちぱち。義理か、拍手をするガラハドとミリアム。
「見せてよグレイ。あら、結構上手いじゃない。ちょっと悔しいわ」
「案外器用なんだな。確かにちょっと悔しいな」
褒められ、鼻を高くして、勇んでマフラーを巻くグレイであったが。
「………………………」
目をパチクリと瞬きさせ、マフラーの両端を持って交互に見る。
明らかに短い。
「もう少し編めば…」
言いかけたミリアムは、口を開いたまま固まった。グレイはいそいそとマフラーをはずし、ミリアムに巻きだしたのだ。巻き終えると、数歩離れて彼女の姿を眺め、力強く頷いた。
「ミリアムにやる」
「え、ええー?」
どうしたら良いのかわからず、ガラハドに助けの視線を向けるが、彼もグレイと同じように頷いていた。
「ミリアム、似合うじゃないか」
「でも暑いよ」
「せっかくだ。貰っておけ。良いんだろうグレイ」
「ああ」
「わかったよ。受け取っておくよグレイ」
首に巻かれたマフラーに手を当て、ふかふかとさせてみる。ミリアムの口元に笑みが零れた。満更でも無いらしい。そんなミリアムを余所に、グレイは次回制作の構想を練り始める。
様子に気付いたのか、ガラハドがグレイの隣に移動し、問う。
「次は何を作るつもりだ」
「セーターだな」
「おい、マフラーがあんなに短いのに、大丈夫なのか」
そこへすかさずミリアムが入り込んだ。
「だったらガラハド、帽子を作ってもらいなよ」
「そうだな、次はガラハドにやろう」
ぽむ、と手を合わせてみせるグレイ。
「なぜお前達は私の頭の話になると、そう意気投合するのだっ」
ガラハドは2人を指差す。
「だってあたいたち、無敵のコンビだもん」
「無論だ」
グレイとミリアムは腕を組み、ふふんと笑ってみせる。
「なっ、私も入れろっ」
「「拗ねるな拗ねるな」」
声を揃えてガラハドを慰めた。
グレイが夜なべをして手袋編んでくれた。
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