「お上手なんですね」
「なにが?」
 ジャンの言葉に、クローディアは顔を上げた。



もしも



 クローディア一行は、買い物をする為に町へ寄ったが、ついでに食堂で食事もとる事にした。ここ数日は野宿が続き、非常食ばかりだったので、座って食べる久しぶりの料理が胃の中へ染みる。連れはブラウ、シルベン、ジャンの2匹と1人。食堂へは人間だけで入り、クローディアとジャンは2人席で向かい合わせになって腰をかけた。
 そんな黙々と食べている最中に、ジャンがそんな事を言ってきたのだ。


「これ、お上手なんですね」
 ジャンは同じ事をもう一度言って、手に持ったナイフとフォークを上げてみせる。
「あなたふざけているの?」
 不機嫌な雰囲気を漂わせてクローディアが言う。
「だって、森でずっと暮らしていたんでしょう?」
「そうだけど、テーブルマナーぐらいオウルから教わったわ」
 あまりに失礼な事を言われ、少々ムキになって答えてしまう。思い返してみれば、ジャンが旅の仲間に加わったのは最近で、こうしてナイフとフォークを使って食べる所を見せたのは初めてかもしれない。
「すみません…失礼でしたね。失礼ついでに、人里はよく下りてらっしゃったんですか?」
「たまに、ね。ゴールドマインしか行ったことは無かったけど」
「ゴールドマインですか。私も良く仕事で寄った事があるんですよ。もしかしたら…」
「出会っていたかもしれない?」
「そう!それですよ!」
 ジャンは思わずフォークをクローディアの方向へ向けてしまう。クローディアは眉をひそめる。
「……ジャン、下品よ」
「すみません…つい嬉しくて。私はあなたの前だとドジばっかりだ」
 申し訳なさそうに苦笑するジャン。そんな事はない、そう言いたかったが、不思議と照れ臭くて言えなかった。


「でも、会わなかったと思います」
「なぜ、そう言い切るの?」
 クローディアは手を止め、ジャンの話に耳を傾ける。
「あなたを見つけて、何も覚えていないはずがない」
「知り合いになる前の事よ?」
「名前を知らなくても、ただ通り過ぎるだけでも、あなたみたいな美しい人、記憶に無いはずがない」
「なにを言うのよ」
 顔が熱くなる。落ち着かない。動揺を悟られまいと、帽子のつばをしきりにいじった。
 ジャンが平然と言って見せるから、予想が出来ない。不意打ちが苦手だった。どんな顔をすれば良いのか、どんな事を言えば良いのかわからない。心が乱されてしまう。


「もう。いつまでも食べてないで、片付けて店を出ましょう」
 クローディアは皿に乗った料理を、肘を上げてガリガリとナイフで刻む。
「ひょっとして怒ってますか?わ、私また何かやらかしてしまいましたか?」
 ジャンはクローディアの顔を覗き込んで、様子を伺ってくる。今、目を合わせると、引いた熱がまた戻ってきそうだった。
「外でブラウとシルベンが待っているのよ。可哀想だわ」
「お優しいんですね」
「なにを言うのよ」
 ジャンの一言にクローディアの鼓動が早まる。視線を僅かに上げて、ジャンを覗き見ると、愛しい笑顔がそこにあった。










ぶきっちょなクローディアにしてみました。
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