このまま
「はぁ」
クローディアは溜め息を吐く。
彼女の膝には、ジャンが寝かされていた。
ここは洞窟。徘徊する魔物に見つからないように、隅の方で隠れていた。
魔物に襲われた時、ジャンはクローディアを庇って深手を負ってしまった。傷付いたジャンを引き摺って、この場所へ逃げ込んだ。回復術を施したものの、彼は気を失ったままであった。
「ジャン」
俯き、ジャンの顔を見据えて名を呼んだ。
「早く、目を開けなさい」
長い髪がさらりと、流れた。
「ジャン」
冷え切った指先が、ジャンの頬に触れる。小さく震えていた。
「…………ン……」
名を呼び続けるが、声は小さくなっていく。
ジャンはゆっくりと瞼を開けた。クローディアの顔が映り、目を丸くさせて飛び起きる。
「く、クローディアさん」
クローディアは静かに、人差し指を口元へ持っていく。洞窟内だったのを思い出し、ジャンは口を手で覆う。
「お怪我は、ありませんか?」
声のボリュームを極端に下げて問う。
「無いわ、あなたが守ってくれたから」
はぁ。もう一度、溜め息を吐いた。
「あなたが前に出たから、弓が放てなかったわ」
クローディアは静かな怒りを見せる。
「でも、それは過ぎた事ね。後から言っても仕方のない事だもの」
曇らせた瞳は、ジャンを映し続けた。
「死んでしまったのかと思ったのよ。目が覚めないかもしれないって思ったのよ。でも大丈夫って、信じていたわ」
「……………………」
彼女から目を離す事が出来ない。何も言えず、話に耳を傾けた。
「あなたは私を傷付けないように守ってくれる。あなたを失ったら私は悲しいわ。あなたが私を悲しませるような事、するはずがないもの」
俯くクローディアの衣服が、自分の血で汚れていた事にジャンは気付く。
「自惚れね」
「そんな事……」
ジャンは近付き、クローディアの両肩を掴んだ。
「………私は………」
言いかけるジャンの胸元を掴み、クローディアは顔を寄せ、額を付ける。反り返った帽子が地に落ちた。
「このままで、いさせて」
2人無言のまま、影を重ねていた。
2人このまま共にい続けること、ささやかな願いであった。
僕は死にませーん!101回目のプロポーズ。
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