舟の上にて



 ジャングルの奥地へ向かう為、グレイ、ガラハド、ミリアムの3人は舟で河を渡っていた。
 ふとミリアムの方を向いたグレイは、顔をしかめ、おもむろに手を上げる。


 ぺちっ。
「きゃー!」
 なんとミリアムの二の腕を叩いた。
「ちょっとなにすんのよグレイ!」
 口より先にヘルファイアが出る。グレイは慣れた動作で交わすと、後ろの方で爆音が聞こえた。
「これだ」
 叩いた方の手の平を、ミリアムの目の前にかざす。そこには潰れた虫が張り付いていた。
「きゃー!」
 ミリアムは虫が大嫌いで、またもや悲鳴を上げる。漫画のような立体文字が空高く飛んでいく。
「刺されていたら、病気になっていたかもしれないんだぞ」
 淡々とした口調でグレイは言う。
「でも何も、そんなに叩かなくても良いじゃない」
 口を尖らせて、彼女が見つめる二の腕は、ほんのり赤くなっていた。手形まではいかないが、指の跡が付いてしまっている。確かにグレイの意見は最もで、認めざるをえない。だが、胸の中のムカムカとしたものが無くなるはずもなく、面白くなかった。そんな中、ふとガラハドに目が行く。
 ぴたっ。今、彼の頭の上に虫が止まった。すかさずミリアムは手を上げて狙いを定める。


 べちっ!
 ほぼ同じタイミングで、グレイもガラハドの頭を叩いていた。
 つまり、ミリアムとグレイの連携技が、ガラハドに炸裂したのだ。


「……………………」
 ギギギ……。
 叩かれた部分を押さえて、ガラハドが振り向く。
 目が合った瞬間、ミリアムとグレイは同時に後ろで手を組んで、同じ方向に顔を背けた。
「事故だ」
「ほら、病気が…」
 視線は明後日の方を向いていた。


「!」
 グレイは目を丸くする。袖に虫が止まったのだ。ミリアムとガラハドは素早く視線を交わし、合図を送った。後ろへ下がっても、その先は河である。


 べしっ。
 勢い余って、グレイの足はよろけ、舟に躓いてしまう。大きく揺れ、グレイが頭から河へ落ちるのと同時に、舟はひっくり返った。
 水しぶきが高く舞い上がり、ずぶ濡れの3人が顔を出す。顔を見合わせて、苦笑を浮かべた。
「どうする?」
 ミリアムがガラハドへ問う。
「一旦戻ろう」
 ガラハドがグレイを見て、意見を求める。
「そうだな」
 こくりとグレイは頷く。


「「「……………………」」」
 引き返そうと進行方向を変えた冒険者達は、硬直した。
 空に昇って行く黒い煙。森が燃えていた。遠くの方から消火活動をする声が聞こえる。
 原因はミリアムが放ったヘルファイアだろう。
「俺達は引き返す訳には行かない」
 くるっ。グレイが方向を戻す。
「そうよ!何の為にここまで来たんだい!」
「そうとも!我らは冒険者!」
 くるっ。ミリアムとガラハドも方向を戻した。


「行くぞ!」
「「おー!」」
 グレイの掛け声にミリアムとガラハドは拳を掲げ、浮いている舟につかまって奥地へと泳ぎだす。
 ほとぼりが冷めるまで、町には帰れない。










大の大人が3人集まって、馬鹿をやってます。
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