□ミニSS
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心一つ (ジャミル×ダウド)
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白の世界 (ジャン×クローディア)
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海の底 (ジャミル&アイシャ)
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風の人 (冒険者トリオ)
心一つ
手の平をすりぬけ、指の間に入り込む。
肌と同じ暖かさを持った彼の手。
「どうしたの?」
「なんでもない」
ダウドの瞳がきょろりと動いて、隣に立つジャミルを見た。
少々垂れた……彼が頑なに“垂れてない!”という目は、頼りなくも心を覗き込んでくる。
「怖いの?震えていたよ」
「そんなこともある。大丈夫さ」
「そう?言うなら言った方が良いよ」
ジャミルはふん、と鼻で息を吐く。
「俺の悩みがダウドにわかるのかね」
「わかる気はないよ」
「あーそう」
「話したくなったら言ってね」
「なんだよその冷めた態度。腹立つ」
「ほらね、優しくするとこうだから」
これ以上話を続ければ、ダウドに言い負かされると、不意に口を閉ざすジャミル。
「さ、行くよ」
ダウドは前に出て、ジャミルの腕を引いた。
「おっ。お前、良い顔してるな」
「そう?」
「旅、楽しいか?」
「考え中」
「なんでだよ」
「ここで楽しいって答えたら、もっと厳しそうな所へ行く気なんでしょう」
「ダウド甘いな。そう言うって事は、楽しいって事だ」
ニヤリと勝利の笑みを浮かべる。
「ジャミルの超理論はそうやって誘導するのが手だろう」
「悪いか」
「悪いね。でも嫌いじゃない」
「おーそうか。じゃあ次はワロン行くぞワロン」
ジャミルは引かれた手を引っ張り返した。
「やだよー!やっぱりやだー!」
「あー聞こえない聞こえない」
途端に泣き言が入るダウドを無視し、ジャミルは進みだす。
二人の旅は、それなりに楽しく続いていた。
白の世界
「凄い」
吐息のように吐かれた感嘆の声は白く染まる。
クローディアは初めて、極寒の地バルハラントに足を踏みいれた。
一面に広がる白銀の世界は広大で、神秘に満ち溢れ、自分の位置を見失いそうな目まいさえも覚える。
「クローディアさん」
後ろから、仲間のジャンが歩み寄り、名を呼んだ。
「あまり遠くヘは行かないように」
「わかっているわ」
クローディアはしゃがみ込み、雪を手ですくって見せる。
「こんな綺麗な雪、見たことない」
「私もです」
中腰になり、雪を覗き込むジャン。
「この世界には、まだ見たことも聞いたこともないもので溢れているんだわ」
「未知は宝のようですね」
「そうね。もっと見てみたいわ。あなたも付いていてくれるわよね」
「はい。どこまでも」
すぐに、真っすぐな答えが返って来た。
「本当よ?」
試すかのように確認する。
世界をまわるのはジャンと一緒が良かった。
彼といると、何もかもが輝いて見えるのだから。
世界は美しい。
綺麗事も、彼といれば真実になった。
海の底
ジャミル一行は船に乗り、新たな大陸を目指していた。到着までの退屈な時間、ジャミルが甲板へあがると、海を凝視する仲間の姿が目に入る。
「海に落ちても知らねえぞ、アイシャ」
「ああ、ジャミル」
仲間……アイシャはジャミルに肩を叩かれて顔を上げた。
「海の上は大陸があるが、海の底は暗くて寒くて息も出来なくて。どこまで行っても、温かい場所なんてない」
まるで、とジャミルは続ける。
「俺の人生みたいなものさ」
「笑えないよ」
アイシャは真顔で言う。
「ここは笑う所だろ。お嬢ちゃんはわかってないね」
「わかんなくて良いよ」
彼女はジャミルの横を通り過ぎ、彼が目で追おうとすると舌を出して甲板を下りて行った。
あの顔は、他の仲間にジャミルがからかってくると告げ口をするつもりだろう。
わかっていてもやってしまった己の意地の悪さへの報いを想像し、ジャミルは一人舌打ちをした。
それでも反省の色はなく、遠い故郷の弟分を無性にからかいたくなる。
俺も子供だと、苦みを含んで口を曲げた。
風の人
波の音、海鳥の鳴き声、船が水の表面を割って港へたどり着いた。
「グレイ、お前も手伝え」
ガラハドに呼ばれ、グレイとガラハドの二人がかりで手に入れた宝の入った袋を移動させる。
「はい、こっちだよ」
方向はミリアムが誘導してくれた。
袋をおろすと中身が硬い音を立て、剣が布を破って顔を出す。
「誰よ鞘にしまわなかった奴」
「ガラハド、仕方の無いや」
「お前だグレイ」
責任転嫁に失敗したグレイは黙って鞘を探した。
「ねえ」
不意にミリアムが話を切り出す。
「この後どうする?」
今回の旅は宝を探し出すまで。その先は決まっていない。
「解散して、またそれぞれの道を行くだけだな」
「そうね、そうなるよね」
自分自身に言い聞かせるようにミリアムは頷く。
「そうしてまた、道が重なったら並んで歩くのだ」
ほら、とガラハドはグレイの背を指差す。
柔らかい風が彼の髪と衣服を揺らしていた。まるで、見えない何かが引っ張り、呼んでいるようにも映る。
「もう次の行き先は決まってるんだね。あたしも、今決めたよ」
「私もだ」
ミリアムとガラハドにも風が触れた。
「次出会っても、惚れちゃ駄目よ」
「随分と冗談がうまくなったな」
「全くだ」
「こんな時に乗らないでよね」
いきなり話に加わって来たグレイに、ミリアムは鼻を鳴らす。
行き先も生き方もはそれぞれ違う。
だが、またどこかで出会う。根拠の無い確信があった。
色は無いが、確かに感じる風のように。
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