鳥のさえずりが朝を告げる。目覚めたジャミルは、ダウドの部屋をしきりにノックしていた。
「ダウド。ダーウード。起きろ。朝だ」
小突く程度のノックは、叩きつけるまでに大きくなっていく。
ちっ。舌打ちをする。
「開けるぞ。俺はちゃんとノックしたからな。開けるぞ」
ダウドは返事もせずに入ると火が付いたように怒り、その事をぐちぐち言われるので、ジャミルは何度も確認をしてから、ノブに手をかけた。
「…………………あれ?」
ドアを開けるが、ベッドは物家の空である。
中へ入って見回すが、誰もいない。
「どっか行っているのかな。仕方ない、ダークを起こしてくるか」
頬を掻きながら、ジャミルは部屋を出た。
ダウドもダークもねぼすけで困ったものだ。リーダーは大変であると思うジャミルであった。
ダークの部屋の前まで来て、ダウドの時と同じようにノックをして呼びかける。
「ダーク。起きろー」
またもや返事は無い。ジャミルは次第にイライラが募ってきた。
「お前らいい加減にしろよ!」
勢い良くドアを開け放つ。
「は〜〜い?」
ベッドの布団が盛り上がり、そこから声の主のダウドが顔を出した。
「ジャミル、おはよう」
「お、おはよう」
目を点にしてジャミルは軽く手を上げる。
「もう朝?ごめんね、寝坊しちゃって」
「うん………いやさ………ダウド」
「ん?」
「ここダークの部屋じゃねえの?」
「そうだよ」
ダウドの返事と共に、ジャミルはつかつかと足早にベッドの方へ歩み寄り、布団を一気に引っ剥がす。
そこにはダークが眠っており、起きる気配を見せない。布団を掴んだまま、ジャミルは硬直してしまう。
「ジャミル、確かに起きなかったのは悪いと思うけど、そういう事しないでよ」
ダウドはムッとした視線をジャミルに向けた後、ダークの方へ優しい視線を向ける。
「あんまり眠ってなかったみたい。ギリギリまで寝かせてあげて」
指先でダークの髪を撫でた。
「ダウドが一緒に寝てやる必要は無いだろ」
「成り行きだよ」
さらっとダウドは答える。
「成り行きってなんだよ。だいたい俺がちょっとでも一緒に寝ようって言うだけで、嫌そうな顔するくせに」
ジャミルはイライラが再び募ってきて、言葉の節々に刺が出てしまう。
「だってジャミルの寝るは、違う寝るじゃないか」
「そうだよ、悪いか」
「悪いよ、開き直らないでよ」
声が裏返ってしまいそうになるのを押さえ、ダウドは反論する。
「ダークだってわからねえぞ。お前、誰にでも甘い顔するから」
「そんな事」
「ほーら、赤くなった」
ジャミルはからかうようにダウドの顔に指をさす。
「そんな事ないっ」
指摘されるままに、ダウドは頬を染めた。本当に赤くなったので、ジャミルは動揺してしまう。
「お、おいダウドお前……」
「ち、違う!違うよ!」
ブンブンと首を横に振る。余計怪しく見えてしまう。
「そそ、そんなに否定するなって、な?」
どうどうと落ち着かせようとするが、ジャミルの方も気が気ではなかった。頭が混乱してしまう。2人きりになった時に、ゆっくり、じっくり、しっかりと、問いただせねばならないと思った。
「……………………………」
ダークの目がゆっくりと開かれる。さきほどのダウドの大声で目が覚めてしまった。
むくりと身を起こし、口を開く。
「ジャミル、ダウドをいじめるな」
「いじめてねーよ!」
「……………………………」
「なんだよ!なんなんだよその目は!」
ジャミルは拳を握って声を上げる。
「ダークお前、記憶を取り戻していくにつれ、嫌な奴になってないか?」
「そうか?きっとそれが素なんだろう」
熱くなるジャミルをよそに、涼しげな顔で乱れた髪を整えるダーク。
「そうだダウド」
ダークはダウドを見た。
「昨晩は有難う」
「ううん」
ダウドは小さく首を横に振る。
ダークが、笑ったように見えた。
「………………………ったく」
ジャミルがジト目でダークを見ると、彼も視線を合わせて来る。
2人の間に、微弱な電流が通ったように感じた。
ダウドをめぐる戦いが今、幕を開ける…!
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