花
「ふー」
ダウドは息を吐き、腰を下ろした。連れのダークも腰を下ろす。
ここは町外れの原。リーダーであるジャミルは、旅の情報を聞き出しに行っており、残された2人は休憩を取っていた。天気も良く、太陽の光が気持ち良い。草木も青々と茂っている。
「これは…」
傍に咲いていた花の茎を指で摘まんだ。
「たんぽぽだ」
ダークの方へ目をやる。
「ねえダーク。ジャミル、この花好きなんだよ」
「ほう」
ダークは興味が無さそうだが、ダウドの言葉に反応だけはした。
「踏まれても、起き上がる所が好きなんだって。ねえ」
ダウドは人差し指を立て、口元へ持っていく。これから話すことは内緒だ、とでも言うかのように。
「おいらね、たんぽぽのそこが嫌い」
指を離した。そうして頭の後ろで腕を組んで、後ろへ倒れて横になる。
「起き上がるからさ、踏まれるんだよ。倒れておけば良いのに」
「そうだな。だが…」
ダークはたんぽぽへ視線を下ろす。
「倒れていても、踏まれる時は踏まれる」
「言われて見れば、そうかもね」
「起き上がるのは、言わば本能だ」
「本能……」
ダウドの瞳は、青空の中に流れる雲を追っていた。
「足があれば立つ。足が折れれば手を使って這う。手が駄目だったら顎を使う。理屈ではないだろう」
「ダークの例えはいつも痛そう」
「生きる事も、強制されている訳ではないだろう」
「死にたくないのは、あれだよ。経験者がいないじゃない。死に掛けた人ってのは良く聞くけどね。知らないものは怖いよ。痛いのも嫌だし」
ごろりと、ダウドは寝返りを打つ。
「一度死んで、生き返る………か……」
ダークの脳裏に何かの映像が過ぎるが、眩暈を覚えて頭を振る。
「死は、誰もが一度は経験するものだ。早いか、遅いかの差だろう」
一本の名も無き花の茎を折った。ぷちりと小さな音を立て、命は途絶える。
「誰だって通る道で、いつでも待っているなら、遅い方が良いに決まってる」
よいしょ、と声を出してダウドは身を起こした。
「結局、こうして起きる事も理屈じゃない訳だ」
首を回してストレッチをする。終えると膝を抱えるように座り直し、ダークを眺めた。
「おいらね。唐突かもしれないけど、おいら達ちょっと似てると思わない?」
「やめろ、気持ち悪い」
「賛同したら、おいらも気持ち悪いって思ったよ」
「からかっているのか」
「だって退屈なんだ」
はー…。ダークは深い溜め息を吐く。しかし、覆面に隠された口の端は上がっていた。
それがわかっているのか、ダウドの口も弧を描いていた。
退屈なのも、今生きているという証であった。
ダークとダウドはお互いをキモいキモい、特に戦っている時がって思っていれば良いよ。
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