※ Attention ※
このお話はダウド×ジャミルです。ダウドが攻めでジャミルが受けです。
そして、私が初めてサガミンをプレイし、女装イベントを見た時にソッコーで妄想した
初期妄想となっております。なのでアサシンギルド等を知らず、ライトテイスト気味。
ジャミルが色々な意味でキツいです。
それでも恐れないニーサの戦士はずずっとスクロール。
お前は弟分
南エスタミル。ジャミルは裏路地へ駆け込み、素早く壁に背を付けた。真上に輝く太陽が、影を短くも色濃く映す。
「よし。ここまで逃げ込めば大丈夫だろう」
一足遅れて、息も絶え絶えなダウドもやってくる。
「はぁ…………そうだね」
その場に膝をつき、手を置いた。頭を垂れると、汗が顎を伝って床へ落ちる。
「おいら、いつも足手まといで、ごめんよ」
「…………………………」
ダウドの詫びの言葉に、ジャミルの顔がしかめられた。しかし、顔を伏せているので彼の変化は見えない。
「盗んだものは、一旦俺が預かっておく。休んでおけ」
ジャミルの手がダウドの肩に触れ、彼の足音と気配が遠くなっていくのを感じた。
ダウドはゆっくりと立ち上がり、身体を休めに自分の住処へと帰っていく。
ジャミルは盗んだ金品を懐へしまい、町を適当に歩いていた。どこか機嫌が悪く、歩調が落ち着かず、まっすぐ住処へ戻る気分にはならない。
「あらジャミル」
呼ぶ声に振り返ると、ファラが手を振っているのが見えた。いつの間にか彼女の家の前まで来ていたようだ。
「母ちゃんがお茶の葉を貰ってきたんだよ。せっかくだから、入れてあげる」
「お、良いねぇ」
ファラの誘いに乗り、彼女の家でジャミルは茶をご馳走になる事になった。
家へ入ると母親は外へ出ているのか姿は見えず、普段座る椅子に腰掛け、テーブルに頬杖をついて待つ。湯を沸かしながら問いかけるファラ。
「ひょっとして、盗みの物色中だった?」
「いーや、盗んだ後。怪しかったか?」
「ううん。なんとなくだよ」
沸かし終えた湯を茶の葉が入った器へ注ぎ、適度なタイミングで温めておいたカップの中へ装う。
「はい、おまたせ」
トレイの上に乗せたカップをジャミルの前に置いた。
「そこまでご丁寧にしなくても」
「貧乏だって下品にはしたくないの」
ファラも席に座り、自分のカップを置く。
茶が冷めるのを待ちながら、二人は雑談を始めた。
「ダウドは一緒じゃなかったの?」
「さっき解散したんだ」
「そう。大丈夫だった?」
ダウドの盗みの腕の危うさは、素人のファラでさえ気付いている。
「大丈夫。あいつは良くやってるよ」
心なしか、ジャミルの口元が嬉しそうに緩やかな弧を描く。
「そうなら良いんだけど。ダウドって気が弱い所あるし」
「…………………………」
ジャミルの顔がしかめられる。先ほどダウドといた時と同じような表情。何かを含んだような、面白くなさそうな顔であった。
「あたい、心配なんだよ」
暗い話題でごめん、ファラは付け足す。
「…………………………」
そんな事はない。ジャミルの心が叫びを上げる。
ダウドは本当に頑張っている。ずっと共に仕事をしてきたのだからわかる。
彼の表面的な印象ではない長所。ファラだって知らない、ジャミルだけが知っているもの。
確かに気弱だが、彼は変わろうとしている。ダウド自身さえ気付いていない変化。
ふと気付いたダウドの広い背中。思い返そうとした時、不意にジャミルは顔が熱くなるのを感じた。
「ジャミル?」
目をパチクリとさせるファラの視線。
「なんでもない」
僅かに逸らして呟く。
ずず……。茶を啜って誤魔化した。
その後、当たり障りの無い会話を交わし、カップが空になるとジャミルは席を立ち、ファラの家を出る。
茶を飲んで気分が落ち着いたのか、まっすぐ住処へ帰る事にした。
ジャミルの住処は波の音が聞こえる、町のはずれにある。腐っても盗賊であり、ギルドに加担してはいないので、場所はダウドぐらいしか知らない。他の知っている仲間と呼ばれる存在は、今この世にはいない。
「ふー」
鍵をはずし、中へ入ると安堵の息を吐いた。やはり家は落ち着く。
部屋はこじんまりとしており、あまり物はない。けれども衣装と装飾品は派手でアンバランスさが漂う。窓からは海が見え、一方の壁には広くて大きい、一面を覆う大きな白い布がかけられていた。
中央にぽつんと置いてあるソファに座り、背もたれに腕を置いて足を組んだ。
ソファは布のある方へ向けられており、布を見上げてジャミルはまた息を吐いた。
「ダウド……」
吐かれる息の中にダウドの名が混じる。
「ダウド」
立ち上がり、布の方へと歩み寄っていく。
前へ立つと、そっと頬を寄せる。
そっと手も添えて、布を掴み…………………下ろした。
ばさっ。布は音を立てて床に落ちる。
露になる、隠れていた壁。
そこには一面に描かれたダウドの絵があった。ジャミルが描いたものである。
絵は煌びやかに、ダウドの顔もそばかすとターバンがなければ、彼だと認識できないくらいに美化されていた。
「ダウド――――――――――ッ!!!」
ぺたっ。
ジャミルは両手を広げて壁画に張り付く。
「ダウド……お前は罪な男だ……」
頬を染め、幸せそうに目を瞑る。冷たいはずの壁が、不思議と暖かく感じる。
頼りないダウドをいつも見守っていた。頑張ろうとする彼を見守っていた。
いつからだっただろう。そんな彼に惹かれていったのは。
いつからだっただろう。あの身体に抱き締められたいと思ったのは。
気付いた時には遅かった。もうこの想いは引き返せないのだ。
男に抱かれたいなんて、その場で舌を噛み切るほど嫌だった。
けれども、ダウドになら。そう思うのだ。
ダウドになら、この男としてのプライドを全て捨てて身を委ねたいと感じるのだ。
こんな想い。誰にも知れぬ秘密の想い。表に出せぬまま炎を灯し続けている。
「ダウド」
壁に頬ずりをした。ざらざらして短い痛みがする。
誰もいないのなら、いくらでも言える。彼が好きだと。愛おしくてたまらないのだと。
「ああ……ダウド」
手にいくら力を込めても、壁に腕を回すことが出来ない。
もどかしい。ただもどかしい。
夜はベッドで枕をダウドにたとえて、あらぬ妄想をしながら転がった。
夢の中のダウドは花を背負う絶世の美青年で、真っ赤な薔薇をジャミルへ差し出し、膝をついて手の甲へ口付けを落とすのだ。ジャミルは最初、素っ気無い素振りを見せるのだが、内心飛び上がりそうなほどの幸せの絶頂を感じていて。二人花の中を笑いながら舞うのだ。
有り得ない!有り得ない!夢の中でさえも理性は突っ込んでいる。けれども夢の中ぐらいは夢を見ていたかった。
「ああああ……ダウド」
力の限り枕を抱き締める。綿が飛び出てむせて目覚めた日もあった。
だが禁忌の想いは夢の中でしか果たせないのだ。
明けない夜は無い。目覚めたらまた、ただの兄貴分を務めなければならない。
運命はめぐり、女装をした時は女に生まれれば少しは気が楽なのかと、意味の無い想いを馳せた。
外の世界へはダウドを引き摺っていった。離れる事など決して出来ない。
出る時には当然、家の鍵を何重にもかけておいた。窓は鎖で囲んでおいた。厳重に、何人たりとも入れさせる訳にはいかない。第三者には、台風対策のように見えるだろう。
ファラが掃除してやると言い出した時には卒倒しかけた思い出もある。
仲間も何人か加わった。自分以外の人間がダウドを知ってくれる。慕ってくれる。狭い世界で生きていた自分たちにとっては嬉しい事なのに、なぜだか面白くない。
「ジャミル」
たまたま2人きりで飲んでいた時、ダウドが話を振ってきた。
「ねえ、クローディアの事だけど」
「ああ」
先日、加わった森の番人の事かと、相槌を打つ。
「可愛いよね」
「ん?そうか」
ダウドは面食いであった。美人が入ると喜んでいた。
適当に頷いてやればいいのに、そう出来ない何かが引っ掛かる。
俺の方が凄いのに。俺の方が何十倍だって凄いのに。お前が望むなら、なんだってしてやるのに。
そんな想いを表に出せば、たちまち怖がられるだろう。
「胸とか、すっごいよね」
ダウドは胸の辺りで、手で丸さを表現させてみせる。
乳か。乳なのか。それは俺へのあてつけなのか。
もちろん、ダウドにそんな気は微塵もない。心は卑屈さを増していくばかりであった。
「ジャミル」
ダウドは席をはずし、他の仲間と飲んでいた時であった。
「ダウドって弟分なんでしょう?」
「ああ」
「ちゃんと仕事できてた?」
みしっ。
ジャミルの持っていたグラスにひびが入る。
お前にダウドの何がわかるのか。言いたい気持ちを喉の奥へと押し込んだ。
ダウドの事、ダウドが凄い事、誰にもわかってもらえない。本当の彼を誰も見ようとはしてくれない。
俺は、俺だったら、ダウドの事をわかってやれるのに。
愛してはやれるのに、恋してはいけない。
ダウドは女が好きだ。俺はダウドが好きだ。好きの気持ちが、噛み合わない。
狂っているのはわかる。けれども引き返せないのだ。
こんなにも、壊れそうなほど彼が好きなのに。伝えてはいけない。
ただ想いは先走り、通り抜けて言葉には出来ない。
グラスのひびが指に当たり、痛かった。
「ダウド」
ジャミルが席をはずしている時、仲間の一人がダウドに話しかける。
「ジャミルって頼れるけど、どっか掴めないね。遠い、というか」
「そうかもね」
ダウドはのんびりと答えた。
「でも、追いかけたいというか、一緒にいると安心するよ」
口元を綻ばせ、笑みを作る。
「おいらは、好きだって思うんだよね」
惚気?と仲間もつられて笑った。
私的ダウジャミは、近所の頼りない弟のような存在がいつの間にかたくましく成長して、気になりながら時々ドッキリしちゃう姉御系幼馴染の恋心なんです(長い)。
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