ぬくもり
満月が照らす南エスタミルの夜。歓楽街は眠る事を知らないが、スラムの方は恐ろしく静かであった。住宅の密集している中の1つの家。そこにはジャミルと相棒のダウドが住んでいた。
本日の戦利品を秘密の倉庫に仕舞い、2人は眠る。家は狭いし部屋も少なく、同じ部屋で寝ている。しかしプライベートがどうたらとダウドが言い出し、2年前くらいから大きな布を吊るして、部屋を区切った。
クジャラートは暑い。寝苦しいが住民には慣れたもので、寝息を立てて眠っている。今夜は寝つきが悪いのか、薄い布団に毛布を被り、ジャミルは何度も寝返りを打った。
「………はぁっ……」
毛布から顔を出し、ジャミルは目を開ける。手の甲で額を拭うと、べっとりと汗が付いた。体をぺちぺちと触れると、全身に汗を掻いている。
「は―――っ……」
半身を起こして息を吐く。悪夢を見た。内容は良く思い出せないが、あれは悪夢だった。毛布を払って起き上がり、水を飲んで、かけるように顔を洗う。タオルに水気を吸わせ、また眠ろうと布団に潜るが、目は開いたままであった。視線の先にあるのは部屋を区切っている布。四つんばいになって近付き、そっと開けて中の様子を覗く。
ダウドは背中を向けて眠っていた。熟睡しているようで、こちらには気付いていない。そっと毛布を持ち上げて、布団の中へ入る。
「…ん…………」
喉の奥で呻くダウド。身を寄せないと布団から体が出てしまう為、ジャミルはダウドの背中にくっついた。触れている部分が熱くなり、汗が滲む。逃れようとダウドは端の方へ寄るが、その内目を覚ます。
「ジャミル」
ごしごしと眠気まなこを擦って、布団の中へ入ってきたジャミルを見た。
「布団、あっち」
パッと腕を挙げ、布の先を指差す。
「知ってんよ」
「あっち行ってよ」
「やだ」
即答するジャミルにダウドは呆れてジト目になる。掻き揚げるように髪の中に手を入れ、追い出す言葉を考える。眠気もあってイラついた気持ちが募った。
「………暑いんだからさ」
「一緒に寝ようぜ」
「やだよ」
「昔、寝付けない誰かさんに添い寝してやったのは誰だったよ」
「やめてよそんな話」
眠いせいで頭の回転がおかしいのか、昔の話を持ち出し容赦が無い。
「ねえ、あっち行ってったら」
グイ、とダウドはジャミルの肩を押す。
「やだって言ってるだろ」
肩を押す手首を掴んでダウドを引き寄せた。
「嫌なんだよ」
そのままきつく抱き締めて、肩口に顔を埋める。ごろりと転がり、布団が背中へ付くとダウドは嫌な予感がした。
「嫌なのは良くわかったよ」
ジャミルが太股を摺り寄せてくる。ラフな薄い格好をしているので、少し捲れればすぐそこに素肌がある。
「ジャミルは眠いんでしょう。どうしてこんな事すんの」
服の隙間に手が入ってきて、指が艶めかしく蠢く。敏感な所を探り出し、刺激してくる。血潮が沸いて体が熱くなっていく。
「お前に触れていたいんだよ」
「だからそんな所触らなくても良いでしょう。したいだけなら、おいらを巻き込まないでよ」
「だったらもっと抵抗しろよ」
「…………………」
ダウドは黙り込んだ。ジャミルの言い分が全くわからない訳ではない。
いつも温もりに飢えていた。何をしても、何をされても完全に潤うことは無かった。恋しくて、寂しくて、恐れている。優しさが怖い、優しさが欲しい。そうして無性に温もりが欲しくなると、信頼できる人に触れたくなる。ジャミルはダウドに、ダウドはジャミルに。傷の舐め合い、慰め合い、形はどうでも良い、少しでも満たされればそれで良かった。
だから、不満は言うが、責めはしなかった。抵抗もする気にはならなかった。けれど反応するのは悔しくて、自然と漏れる吐息は口をつぐんで抑える。
「あのさ………自分の家だからわかるでしょ」
ジャミルが自身を取り出し、取り出されたダウドの自身と擦り合わせた。
「ここ壁薄いんだけど」
聞こえてきた水音に頬が上気する。心地よさに目が空ろになる。
「…………っ…………ふ…………」
声が抑えきれず、手を当てて塞ぐ。
「んん……………」
限界に辿り着くまでそう時間はかからず、2人の混ざり合った欲望が太股を伝った。
「…………朝、早いのに………」
天井を見上げると、ジャミルが胸に顔を寄せて来る。開かれた汗ばむ裸の胸に彼の髪が張り付く。そっと髪に手を触れ、撫でた。
挿入は旅立ち後が良いです。
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