明日



 夜の闇に包まれた静寂の中、月だけが唯一の明かりの住処で、息遣いと水音が響く。
 ダウドはベッドに横たわり、薄く開いた唇の隙間から呼吸をしながら、体の上に跨るジャミルへ声をかけた。
「明日、どうすんの」
「何か言ったか」
 ジャミルの瞳がダウドの顔を見下ろす。裸の胸は白く浮かび上がり、息衝く様が良く見えた。
「だからね、明日どうすんのって」
「どうすっか」
「真面目に答えてよ」
 意見しようと首を上げたダウドは、顔をしかめて熱い息を短く吐くと、またシーツへ後ろ頭を付ける。
「お金も食料も底をついたよ。明日からどうするの…」
 低く呻き、額に手を当てた。
「盗むしかないな」
「それはそうなんだけど、今日みたいに失敗しないように、計画を、立てる、必要があると、思うんだ。だから、その為にも、こんな事を、している場合じゃ、ないんだよ」
 口調は落ち着いているが、息はどこか乱れている。
「こんな事ってどんな事よ」
 ジャミルは目を細め、首をかしげてみせる。ダウドを見下ろしたまま腰を動かすと、交わっている箇所から卑猥な水音が聞こえ、体がびくりと震えた。


「ち、ちょっと待って。動かないで」
 頬を上気させて、細かく首を横に振る。
「おいらの話をちゃんと聞いて」
「盗みの計画だろう?良いアイディアがあるから、耳かっぽじって聞けよ」
 動きを止めた腰を、再び動かし始めた。今度は大きく、ベッドが軋むほどまでに揺らしだす。ダウドの意識がバラつき始め、襲い掛かる羞恥に耳を塞いだ。
「ほら、聞けよ」
「やだ、嫌だ…………っ………おいらは、本当にね………明日の………」
「明日を考えるなら、焦るな。待っても明日は来る。楽しく行こうぜ」
「楽しくだなんて……………………………」
 悲しみに染められ、逸らされる顔を、ジャミルは押さえつけて強引に向けさせる。


「ダウド、良く聴け。楽しむ事が第一だ。1人じゃないんだ。2人なら何とかなるから。今日の失敗は忘れて、明日は気分を入れ替えれば良い」
「ジャミル」
 ダウドはジャミルの手の上に自分の手を重ね、握った。
「おいらは、1人の分さえも補う事のできない足手まとい。そう簡単に気持ちなんて入れ替えられないよ。皆が皆、ジャミルみたいに強くなんかない」
「俺が強い?ダウド、お前は本当に何もわかってねぇな。お前がどう思うのかは勝手だが、俺が前向きに考えようと思えるのは、1人じゃないからなんだぞ」
 ハッとしてジャミルを見ると、彼ははにかんで“言うのは一度だけだ”と付け足す。
「明日、気持ちを入れ替えられるかな」
「試しにやってみな」
「うん」
 ダウドは身を起こし、ジャミルが腰を浮かすと、きつく抱き寄せた。ダウドを座らせる形にして体勢を変え、ベッドを軋ませた。頬を摺り寄せ、気持ちが高まって浮かんだ涙を舐め取る。


「…………はっ………………、………っく……」
 切なくも、ダウドの吐息は歓喜の色を示す。ジャミルの肩口に顔を埋め、耐える背中は、泣いているように小さく震えていた。慰めるように、安心させるように、ジャミルの唇はダウドの首筋をを吸い付ける。わざと音を立てさせて、気付かせるように。一人じゃない、そう言い聞かせるように。


 明日は、何とかなるではなく、何とかする。
 ジャミルの、秘められた決意であった。










エスタミル時代は、な〜んか食い違う2人が良いかもしれない。
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