夜空
夜空に浮かぶ、満天の星。ただ静かに瞬く星たちを、ただダークは見つめている。
頬に当たる風は、やや冷たい。
ここはワロン島のゴドンゴ。集落から離れた大木の下で、彼は腕枕をして寝転がり、星を眺めていた。
散りばめられた星の一つ一つが、パズルのようで。失い、蘇る自分の記憶の断片のようだった。星を繋げ、形作るものを星座と呼ぶならば、眠る記憶にも名があるのだろうかと思いを巡らす。
徐々に戻りつつある記憶。自分が何者かという課題を、全てを失っていた頃より、考える事が多くなった。その影で感じる恐れ。未知なるものへの恐怖か、今が崩れる不安か。胸が締め付けられるようだった。
「ダーク」
耳の中へ、聞き慣れた声が届く。声のした方を横目で見ると、ダウドが立っていた。
一人でいる時、彼はいつでもやって来てくれた。どこへいても、必ず探し出してくれる。初めは嬉しいだけであった。だが今は、探し出されずに消えてしまう方が良いのかもしれないと、心の隅で、何者かが囁きかけるのだ。
囁きの言葉を振り払い、ダークは眼を瞑り、開く。
「温かい地方でも夜は冷えるよ」
くしっ。ダウドはくしゃみをする。
「ほらね」
照れ笑いを浮かべ、ダークの隣に腰をかけて、背を地面へ付けた。
「なにを見ているの」
横を向き、ダークの横顔を見つめてくる。だが、待っても答えてはくれない。
「星?」
問いかけ、瞬きされる瞳に好奇心を映す。だが、ダークは答えなかった。
「無視するの」
諦めずに、投げ出されたダークの手を取り、指を口元へ付ける。
「早く寝ろ」
やっと放った言葉は突き放されたもので、ダウドは唇を尖らせた。
「せっかく来たのに」
「お前の勝手だろう」
ダウドの呟きに、ダークは素早く返す。
「ダーク、考え事するのが多くなったね。今も、考え事しているみたいだった」
「余計な世話だ」
「おいらで良かったら話してよ」
「断る」
無視を決めようとしたダークの眉間に皺が寄る。ダウドが指に噛み付いたのだ。
噛んだまま手首を引いて、手袋を取った。ぱさりと手袋が落ちるが、手は解放される事なく、指の一つがダウドの口の中へ含められる。水音が、夜の静寂の中に良く響いた。
口内の熱と滑りに包まれた指に、舌が絡まる。触れるように、押し付けるように、柔らかい感触がこそばゆくも、甘い。小さく呻き、横を向いたダークの瞳が、ダウドに捕らえられる。
「やっと見てくれた」
ぬるりと、唾液で濡れた指が解放され、銀糸が引いた。手首から手の甲へ舌を這わせ、指の数だけ細かく口付けを落す。手の方へ視線を僅かに落とし、ダークの瞳に視線を戻した。
「傷だらけだね」
ダウドの言う通り、ダークの手には多くの傷がある。古傷で、小さなものだが、くっきりと痕を残していた。
「何をして、傷を付けたの」
指先に見える一つの傷を舌先でなぞる。
「思い出せないな」
表情を変えずにダークは言う。
「思い出したら、教えてくれるの」
「さあな」
「そう言うと思った」
歯を立てて、噛み付いた。
赤い舌が下唇から上唇を舐め、隠される。閉じられた口元が艶めかしい弧を描く。
唇へ向けられる視線を逃さぬよう、誘い込む。
「ダークもおいらに触ってよ」
「そんな気分じゃない」
視線を星空へ、また向ける。耳元で舌打ちが聞こえた。
「一人になろうとしないで」
ダウドは身を起こし、服についた砂を軽く払う。
「ダークにはおいらがいる」
腕が伸び、指先がダークの中心へ触れる。弄られる布摩れの音と、ベルトをはずされる音がして、自身を取り出された。首を上げて下肢の方を見ると、薄闇の中でぼんやりと白く浮かび上がったダウドの手に、自身が捕らえられている。ダウドはダークの足の間へ身体を入り込ませ、顔を覗かせていた。見上げられる彼の瞳が合うと、微笑むように細められた。
そのままの瞳の下で、唇が自身へ付けられて水音を立てる。
「……は……………」
ダウドの口が吐息と共に開けられ、自身が咥えられる。口内の熱が、じんわりと、確実に、脳を快楽の沼へと引き込んでいく。
血潮が沸くのか、ダウドの頬が上気しているように見えた。瞳は自身を見下ろし、恍惚とした表情で一心に向けられる。舌が裏筋を舐め上げ、先で箇所を突いて刺激させる。指も這わせて追い込んでいく。
「気持ち良い?」
唇を離し、伝いそうになった唾液を指で掬い取る。
「もうこんなだ」
形を変えたダーク自身を手で包み、見せ付けた。
「生理的なものだ」
気だるそうに呻くが、吐かれる息は熱い。覆面をしているので良くわかった。
「ふうん」
捕らえたダーク自身に熱い吐息を吹きかけた。
「おいらはダークが欲しい」
空いた手を懐の中へ入れ、潤滑油の入った容器を取り出す。ベルトをはずし、ズボンと下着を下ろし、潤滑油を絡ませた指の一つを、奥の方へ入り込ませた。
「……あ…………」
異物感に身体が震える。だが指は休める事無く出し入れを繰り返し、解そうとする。
「何をしている」
「見たい?」
「結構」
小さく首を横に振った。
「つれないね」
笑みを零すが、呼吸は乱れていくばかりであった。
片手で解しながら、再び口の中へダーク自身を含んだ。先端から滲み出る蜜も飲み込み、愛撫を施していく。じっくりと焦らすようにねぶり、情欲を内の中へ溜め込んでいく。
「ん」
解していた指を抜き、ダーク自身へ潤滑油をたっぷりと塗りつけた。そしてダウドは腰を上げて、ダークの身体の上へ跨る。
「…………おい…」
見上げるダークの表情にも、さすがに焦りを映していた。
「……………………」
何も答えず、ダウドはダーク自身を手で固定させて、腰を沈めていく。そうして解した場所へと入り込ませる。
「…………はっ……………」
ぶるりと、ダウドの身体が震える。
「………………う…………」
ダークの身体も震え、僅かに遅れて声が漏れる。
「あ…は……………っ…」
腰を付けて、ダウドは歓喜した。
「おいらをもっと見て」
ダークの両手を取って、自ら腰を揺らし始める。合わさった部分が潤滑油と絡まって、卑猥な音を立てる。羞恥と興奮が高まり、身体の熱が燃えそうになるほど高まっていく。
「…………はっ…………ん………っ………」
「あっ、あ…………」
ダウドが動く度にダークの身体も揺れた。たまらずに声を出し、喘いだ。
「………うぁ……っ…」
中で締め上げられて、さらに声が高まる。
「ほら、こっちの方が、良いでしょう。おいらを見て、ダーク。おいらを見て」
腰の動きを早め、大きくさせてダウドはダークを求めた。
「いいかげんにしろっ」
ダークは下からダウドの身体を一気に突き上げる。怯んだ時を見逃さず、上半身を起こし捕らえられた両手を捕らえ返して、身体を伸しかけた。ダウドの背中が地面へつき、足が高く上がる。身体を寄せ付け、ダークとダウドの顔が向き合う。さらに近付けようと傾けさせていく。
「こうしたかったんだろ」
今度はダークがダウドの瞳を、ナイフのような鋭い視線で射抜いてくる。
「そう、そう、こうしたかったっ…」
息を切らしてダウドは笑ってみせる。
「離さないよ」
足をダークの首を挟み込み、後ろから押し付けて、さらに身体を密着させようとした。
「………うっ…………く………、………はっ………」
ダークが身体を揺らしだす。身体が軋みそうなほど、くっ付き合い、絡め合う。痛みも苦しみも、全て快楽に流され、喜びに変わっていく。
「凄い、すご……凄い………」
腹で息をして、ダウドも酔う。
押さえつけていた片手を離し、行き場を失っていたダウド自身を包み込み、上下させて愛撫する。
「ダウドも凄い」
ダークの呟きに、ダウドも自分自身の方へ手を伸ばし、彼の手に重ねた。零れる蜜を2人の手で絡ませ、音を立てさせて溶け合う。
「ダーク、前を見て、おいらを見て。一人で苦しまないで」
「わかっている、わかっている…………だが、しかし…………」
言いかけて口を閉ざすダークは、辛そうに瞳を閉じる。ダウドの瞳も悲しみに細められる。
限界が近付き、二人は達する。だが、何とも言えぬ虚無感が包んだ。
欲望を吐き出した後も、身体を重ねたまま思いを馳せる。
真実を知る事への恐怖、真実を見えぬ事への悲しみ。すれ違い、傷を作るだけで夜空のように先が見えない。星の瞬きに希望と期待を寄せ、求めてまた傷付く。それでも求める事を諦めきれない。目に映る人は、かけがえのない存在なのだから。
ダークダウドのダウドは受け希望かもしれない
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