Rising sun



 「朝日が見たい?」
相方の口から唐突に発せられた、脈絡のない発言にジャミルは眉をひそめた。ぱっと思いつきを口にするのはダウドのいつもの癖だが、それにしてもどうしてそういう考えに至ったのかが全く想像できない。
 「うん。おいらたちいっつも夜型だしね、たまにはいいんじゃないかなって」
 「だからどうしてそこでたまには見たいなんてことになるんだよ。めんどくせえ」
 朝日を見るためには早起きするか、徹夜しなければならない。不規則な予定の時間に合わせて起きるのは盗賊として過ごした日々や冒険行で慣れているが、だからといってたいした意味もなしに朝日が見られる時間などに起きたくはない。
 「おいらがんばって綺麗に見える場所探すから」
 何故か懸命に食い下がるダウド。仕方ないか、とジャミルは小さくため息をついた。思いつきに一生懸命になっている時に水をかけるとダウドはそれはそれは悲しそうな表情になる。早起きは面倒だが、その表情を見ないで済むのならばつきあうしかないかと考えたのだ。
 「どうでもいいが俺は手伝わねえからな。見たいなら勝手にお前が場所探せ」
 「うんっ!」
 気だるげに片手を振ってくるりと後ろを向いた、背中越しにも喜びの気配が伝わってくる。
 (何が嬉しいんだか……)
 ダウドは心底楽しそうに思案を始めた。嬉しそうな姿を見ているのは、悪くはない。


 それからしばらく、ダウドは場所の選定に飛び回っているようだった。
例え前日くたくたになるようなことになっても、早朝には下見に出て行く。あまりの熱心さにジャミルも少し興味を持ち始めたが、起きあがるのが面倒でついていくまでには至らなかった。
 「まだついて来てくれなくっていいよ」
そんな言葉をかけられたというのも理由ではある。
 「何だよ、決まった日でもあるのか?」
冗談でかけた問いにはしっかりと肯定が帰ってきた。「予定の日」までは自分が探し回るだけでいいのだと。「予定の日」とは何だろう、とぼんやり思いを馳せてみる。
 「普通はわかるよ。ジャミルが興味ないって言ってそういうの気にしてないだけ」
 「俺が興味のないものに本番はついてこいってことか?」
 「うーん……言い方ひどいとそうなるかもね。でもきっと意味はあるよっ」


 そして、「予定の日」はやってきた。
新年の始まりとされる日に、ジャミルはダウドに案内されて早朝に歩いていた。
 「色々迷ったんだけどね」
たどり着いたのは海神の神殿。多少罰当たりではあるが、その屋根の上に登った。神を恐れない気質という意味では、別種のものであるがダウドも相当なものだ。
 「多分ここが一番綺麗かなって。おいらたちの街も、海も見えるし」
 「だから、んなもん見せてどうだって――」
 東の空から一筋の光が差したとき、ジャミルは悪態をつく口を閉ざした。いくつかの雲を貫きつつ投げかけられる光の矢の目映さに、光を浴びた海と街の光景に息を飲んだから。
 「うん、晴れててよかった! ね、綺麗でしょ」
 「……ああ」
 (忘れてた、こんな色があること)
 (いや、色があることを忘れてたんじゃない)
 (俺にこういうものに気づく心を与えてくれる、そんな大切な奴が居たこと)
いつも一緒に行動していると当然のように思えてくるし、普段は子供っぽい、そして注意不足の行動にはらはらして自分が保護者のつもりで居る。最近は大分成長が見られたものの完全な安心感とはほど遠いと思っていた。けれどもダウドには間違いなくジャミルとは違う素晴らしい素質があり、その恩恵を享受することで温かい気持ちや感動、心の安らぎをずっと受け取っていたのだ。
 「俺が言うとなんか場違いな気がするんだが。綺麗、だな」
 「あは、普通に『すげえ』とかでもいいのにっ」
 「勝手にひとの反応を決めるな。調子に乗りやがって」
 軽くこづくふりをして見せる、その行動には照れ隠しも入っていて。
 「えへへ、あけましておめでとうございますっ。今年もよろしくね?」
 言われた言葉でどうしてわざわざ今日に行動したのかに気づく。
 「まあ、確かに綺麗だってことは認める。意味のある時間になったぜ。だが…俺が思うに、何よりもまずこんなもん見て素直すぎるほど喜ぶお前の頭がおめでたい」
 「ひ、ひどいっ…」
 「だからいいんだ」
 口の悪い言葉に抗議の声をあげかけて、そのあと続いた優しい声にはっとなる。
 「お前はおめでたいからいいんだよ」
 「一瞬期待したけど、その結論づけって何さっ!」
 「あー、わかんねえでいい。わかられたら俺が困る」
 (ものすごく感謝してるぜ、なんて、言えるものかよ)
 輝かしい朝日を背景に、漫才のような光景が繰り広げられる。それはその瞬間がとても平穏であることを示していた。










ダウドをしあわせにし隊のお年賀企画にて蓬仙様のジャミダウ小説を頂きました!
二人!というのをひしひし感じました。ジャミルのCOOLかつダウドへの愛が素敵です。そしてダウドが可愛い。可愛い(二度言った)。
良い年を迎えられそうです。
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