6.傍にいて・・・なんて、わがまま



「来てくれて悪いですねー」
「素直に嬉しいと言えんのか」
「それはそうなんですけどね」
 席に座るなり、そんな言葉を交わした。


 ここは千葉、六角中のある駅前の喫茶店。菊丸が樹の元へ会いにやってきたのだ。
 せっかく来たのに、外は生憎の雨。室内にいるので特に気にする事はないのだが、雨というだけであまり良い気分はしない。そんな事を思っても、どうにもなるわけでもないのに。


「こっちは結構降っているのな」
 窓の外をチラリと見て、菊丸が呟く。
「出る時はあまり降ってなかったんだけど」
「ふーん」
 相槌を打ち、この距離で天候にも変化があるのだという様な事を言おうと思ったが、口を閉ざした。少し胸が苦しくなったからだ。重症だなと、自嘲する。


 カップを傾け、中の物をすすった。
 しばし2人無言になる。今日は少し涼しい。アイスの似合う季節だが、ホットを選んだ。


 カチャン。
 カップを置く音が重なる。
 また持ち上げて飲み、置くとまた重なった。


「「…………………」」
 自然と顔を合わせ、カップの中へ視線を落とし、持つ手をそっと離す。
 時間を置いて、重ならないようにした。


「菊丸」
「ん?」
 菊丸の大きな瞳がきょろりと動く。
「知ってます?この後、雨が酷くなるらしいのね。電車、止まるかもしれません」
「マジ?」
「嘘です」
「なんだよ」
 きょとんとした顔になる。


「もしそうなったら、家に泊まっていって下さい」
「ん、まぁ。そうなったらなー」
 菊丸は頬杖をついて、窓の外を見て、水溜りの波紋の具合を眺めた。
「はい」
「なに笑ってんの」
 顔を動かさずに言う。
「わかりました?」
「ん」
 頬杖をついたまま頷いた。


「あ、ちょっと治まって来たんじゃないか」
「そうですね」
 樹も窓の外を眺める。菊丸の言う通り、少しではあるが治まってきた。
 明日の事を考えれば楽かもしれないが、残念に思う。


 冗談でも、そばにいて欲しいと言えれば良いのに。なかなか口には出せない。







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