9.会えないからこそ
話し合いを終え、明かりを消したミーティング室。チームメイトは部屋を出て行き、帰って行く。樹も出ようとドアのノブに手をかけた。背を向けたまま、もう1人残っている菊丸に声をかける。
「鍵、お前が閉めてくださいよ」
足音が近付き、後ろに立たれたと思うと手が伸びて、鍵が閉められた。内側から閉められ、鍵は菊丸が持っている。外からの侵入は出来ない。
手の平が尻に触れ、丸みに沿って撫でられる。
「セクハラで訴えるのね」
腰に手が回り、抱きすくめられ、身体を密着させてくる。双丘の間に、彼の中心の感触がした。
「当たってますよ」
「当ててんの」
即答であった。
「変な事はしないで欲しいのね」
「しないよ。昨日散々やったじゃん」
昨日の事を持ち出され、樹は黙り込む。
「……………………………」
「ごめん。やりすぎちゃったな」
「今日言っても遅い」
「ごめん」
「謝るくらいなら、最初からしないで」
「ごめん」
布摩れの音がして、さらにきつく抱き締められる。樹の背に、菊丸の胸板の感触、その奥にある心臓の鼓動を感じた。
菊丸は頬で樹の髪を避け、首筋を吸い付ける。ひくりと震え、小さな呻きを聞き逃さなかった。
「お前こそ、したいんじゃないの」
耳元で囁く。濡れた声が耳を通り、頭の中へ甘い毒を挿入させる。
「したいですよ」
即答であった。菊丸の動揺が背中から伝わる。
「せっかく毎日会えるのね。菊丸と一緒にいられる時は、いつだって抱かれていたい」
会えないからこそ、会える時が貴重な宝であった。練習期間は長い。だが、永遠ではない。幸せな時の間で、終わってしまう時への寂しさと焦りを感じていた。その焦りが、昨日菊丸を走らせ、樹を無理に抱かせた。責任転嫁をしている訳ではなく、彼も悪気を感じているが、心が上手く行かず、また一方的に抱いてしまうのではないかと危惧していた。
「なんだよ」
吐き捨てるように言い、腰を引き付ける。
「抱きたくなってくるだろ」
首元に、顔を埋めた。
触れている部分は熱くなっていく。汗が滲み出ても、離そうとはしなかった。心臓は早鐘のように鳴り、自身は形を変えて膨張し、樹の身体を欲し、入り込みたがっている。
「凄いですよ、菊丸」
「好きなんだから、仕方ないだろ」
「今度は俺の方が、悪かったのね」
詫びる樹の胸が大きく高鳴り、菊丸と同じように早く鼓動するのを感じた。
腰を掴んでいた菊丸の1つの手が前の方へ回り、ハーフパンツと下着をすり抜けて、樹自身を包み込んだ。それだけで樹自身は形を変え、蜜を零しだす。
「お前、いつからそんなにやらしくなったんだ」
「菊丸に会ってからですよ」
「安心した」
樹が笑い、背中が揺れた。
「ん」
菊丸は樹の耳の後ろを舐め上げ、次は顎の線に舌を這わせ、なぞっていく。首筋から肩へと口付けを落し出した。しかも下の方では自身を包み込んだ手が先端を弄りだし、蜜を絡ませて卑猥な音を立たせていく。
熱い息を吐き、乱す樹は訴え出す。
「体勢、変えたいのね。俺も菊丸に、キス…させて欲しい…」
「俺は樹が気持ち良くなってくれるだけで良いよ」
「嘘」
「借りをたくさん作らせてやるから、後でいっぱい奉仕しろよ」
「ほら、やっぱり」
言っている傍で、樹の身体は甘い痺れに震え、腰をもどかしそうに動かしてしまう。
「我慢できないのか」
菊丸は自身を取り出し、僅かに下げた樹のハーフパンツの間から滑り込ませていく。双丘に当たると、蜜を既に垂らしていたようで、滑りを感じた。さらに高まる鼓動と期待に、羞恥して、身を焦がしていく。途中まで下げたハーフパンツと下着がずれて、自身と悪戯をする手が姿を現す。
「菊丸、早く」
樹は後ろを向き、涙で滲んだ目で懇願する。
「だーめ。まだ慣らしてないし」
「早く…」
「しょうがないな」
指を口の中に入れ、唾液で濡らし、樹の求める場所へ入れてやる。だが刺激されて、もう既に我慢のきかなかった樹自身は欲望を吐き出してしまう。ドアに付着した欲望が、ゆっくりと伝う。
「あーあ」
吐き出した後も、自身を捕らえる手は逃さず、弄り続けた。搾り出すように押さえ、指に欲望を絡ませる。
「あ」
菊丸は樹自身を解放させた。名残惜しそうに、樹は吐息のような声を上げる。次に馴染ませようと奥へ入った指も取り出された。
樹の身体を向かい合わせ、恍惚とした表情で微笑んでみせる。
「次、俺の番」
「はい」
両手で菊丸自身を包み込む。身体を引き寄せ、樹は唇を菊丸の唇へ押し付けた。顔を離そうとするが、菊丸に顎を抑えられ、口付けを継続させる。触れるだけのそれは、舌で歯を割り、絡め合う、ねっとりとした深いものへと変わっていく。
下の方では、先ほど菊丸にされたように、自身を手で弄り、愛撫を行っていた。近接して視界がぼやける中で、とろけるような蜜の音と2人の息遣いが、心と身体を麻痺させ、甘い快感へと誘っていく。
どこからか合図がして、床へ座り込んだ。菊丸は指をまた濡らし、樹の奥へ差し込み、出し入れを繰り返す。だが指が抜かれた時、樹は屈んで菊丸自身を口で愛撫しだす。
「…………はっ………」
菊丸は堪らず声を出し、樹の髪を押さえた。樹は滲み出る蜜も飲み込み、一心にねぶる。
「樹、口の中………良い?」
頭が下がったように感じたが、確かな事はわからぬまま限界は訪れ、菊丸は樹の口の中へ欲望を吐き出した。たまらない征服欲と快感が突き上げ、解き放たれる。
「……けほ」
樹は口を離し、咳き込むと、受け止めきれなかった菊丸の欲望が床へ落ちる。顎を伝い、樹を汚していた。だが樹は拭わずに、吐き出された後の菊丸自身に伝った欲望を、舌で舐めて綺麗にしようとする。見え隠れする赤い舌がいやらしく、従順さに征服欲が再び湧き出し、高まっていく。
「俺、調子に乗るよ」
彼の髪を撫で、菊丸は呟くように言う。
「そのつもりなのね」
こくりと、樹は欲望を飲み込んだ。
「めちゃくちゃにするかもよ」
「望むところです」
互いの背に手を回し、抱き締めた。
Back