12月31日



 12月31日は金田の誕生日であった。冬休みに入り、皆それぞれ実家へ帰っていたのだが、この日集まって祝ってやろうと赤澤が言い出した。学校は閉まっており、生徒は入る事が出来ないので、同じ東京にある裕太の家に決まった。そして、パーティーの時間は昼に予定した。




「ご、ごめんね不二…大晦日なんて忙しい日に」
 金田は不二家の居間のソファで縮こまって座っている。悪い気がしたのか、彼は予定より早く来てしまった上に一番乗りをしてしまったのだ。
「主役が一番早くに来てどうするんだよ」
 これでは準備がし辛い。隣に座る裕太は溜め息をついた。
「ご、ごめん、ごめんね…逆に失礼だよね…ごめんね…」
「そんなに謝るなよ…」
 金田の頭を上げさせるが、裕太は困ってしまっている。
「ゆ、う、た」
 ぬっ。
 ソファの後ろから不二が現れ、2人の間に頭を突っ込んだ。
「困った時のお兄さんじゃないのかい?」
「い、いやこういう時だからこそ兄貴には何も……な、なんでもねぇ」
 不二の笑顔を避けるように、裕太は首を振った。
「始まるまで、僕と外に出て時間を潰さない?」
 にこにこ。
 金田に笑顔を向け、不二は問う。
「は、はい」
 おずおずと金田は彼の顔を見て、小さく頷いた。
「金田くんとデートだね。裕太より先にしちゃって悪いねぇ…くすっ」
「くっ」
 にこにこ。
 笑顔のまま、肩を上げてみせる。悔しいが、ここは兄に任せるしかない。
「頼む」
「任せてよ」
 そうして不二と金田は居間を出て行き、入れ替わるように観月がやって来て、裕太は玄関で彼を向かい入れた。




「こんにちは裕太くん」
 んふふ。観月は変わらぬ笑みを見せる。
「観月さん、一番遠いのに……」
「可愛い後輩の誕生日ですからね。そうそう、これつまらないものですけど」
 ささっ。観月は菓子折りを裕太に渡した。
「ど、どうも」
 裕太は観月の行動に、目を瞬いているしかなかった。
「上がって下さい」
「お邪魔します」
 前を退き、観月が靴を脱ごうと手をかける。




「「裕太ー!元気してるかー!!?」」
 ドーン!
 半分開いていたドアを開けて、赤澤と木更津が入ってきた。
「ぬあっ!」
 驚いた拍子に、観月は床に突っ伏す。
「静かに来ないかお前ら………」
 伏せたまま呻いた。
「あっれ観月はえー!」
「いたの?」
 顔を見合わせて、ケラケラ笑う。観月を見下ろしながら、木更津はプレゼントが入っているであろうバッグを大切そうに抱き寄せた。
「くすくす………とっておきのプレゼント用意して来たんだ………皆、負けないよ?」
 ちらりと中を開けて見せると、焼き鳥屋の包みが顔を覗かせる。
「柳沢………君の死は無駄にしない………」
「って俺生きてるだーね!」
 逆手突っ込みをして、柳沢が現れた。
「よっ」
 その後ろに立つ野村が手を上げる。
「先輩たち、時間ピッタリですね」
 裕太は口元を押さえて笑う。
 あっという間にメンバーが揃い、準備を始めた。




「「「「「「金田(くん)おめでとー!」」」」」」
 不二と金田が家に戻り、居間に入ると、椅子に座っていた裕太達が立ち上がり、拍手する。
 テーブルの上には洒落たテーブルクロスがかけられ、美味しそうな料理が並んでいた。
「あの………皆有難うございます………俺なんかの為に………」
 ぐすっ。
 金田は目許に浮かんだ涙を指で拭う。
「なんかじゃないっ」
「なんかじゃないだーね」
 木更津と柳沢が声を上げた。
「金田くん、ローソクを消して」
 由美子は手招きする。
「金田くん」
 金田の背中にそっと不二は手をそえて、席に案内した。




 ふー。
 金田は14本のローソクを消す。
「お前消すの上手いなー」
 思わず赤澤は感心した。
「俺と同じ年だな」
 メガネのフレームを指で押し上げる野村。
「金田」
 嬉しそうに、裕太は微笑んだ。




「金田くん」
観月は金田の側に歩み寄って、そっと肩に手を乗せた。
「僕たち3年は卒業して、同じ中学テニス部の一員として祝えるのは、今回が最後になってしまいますね……」
 しんみりとした観月の言葉に、静まり返ってしまう。
「これをどうぞ」
 後ろからドライフラワーを取り出して、金田に渡した。
「僕の家の庭で育てたバラをドライフラワーにした物です。枯れない愛の花……枯れない僕らの不滅の愛……!」
「まさに呪いのアイテムだな!金田気をつけろ!」
「なんて不吉な物を…!」
「だまらっしゃい!」
 ブーブーと口出す赤澤と野村に、観月はピシャリと言い放つ。
「僕もプレゼントを。はい、金田」
 金田の後ろから、木更津はマフラーを巻いてやる。
「木更津先輩、有難うございます」
「焼き鳥はどうしただーね?」
「ん?あれは家族用だよ」
 柳沢の問いにさらりと答えた。
 盛り上がる中、裕太も金田にプレゼントを渡そうと前に出ようとするが。
「裕太、お前はこっちだよ」
「そうよ裕太」
 不二と由美子に呼び止められ、別室へ連れて行かれてしまう。




「さ、裕太!」
 ばしっ。
 不二はテーブルの上に紙を置いた。
「こ、これは……」
 紙を持って、裕太は手をぷるぷると震わせる。
「こ、婚姻届じゃねーかっ!」
「ほら、兄ちゃんが金田くんの部分入れといてあげたから!」
 不二が突付く場所には、しっかりと金田の字で金田の名前が書かれていた。
「な、なな、何をどうして名前を入れさせたんだよ」
「裕太の為だもの!」
 ぴっ。自慢げに親指を立てる。
「ちゃんと答えろって!ったく、入れたって結婚できるわけ……」
「当たり前じゃない。これは2人の部屋に飾る用よ!」
 ぴっ。由美子も親指を立てる。
「2人の写真も、姉さん頑張って念写したんだからー」
「いらねえよ!」
 休みが終わったら、さっさと寮に帰りたい。
 姉と兄に疲れ果てる裕太だが、その手は丁寧に気合を入れて婚姻届を記入していた。







シンプルにルド全員で金田を祝ってやろうというコンセプトで作ってみました。不二家が好きです。
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