ささいなこと
暖かな風が窓の隙間から流れ込む。
ある春の暖かな正午、食堂で木更津と金田は向かい合わせになって昼食を取っていた。
メニューは、木更津はうどん、金田はカレーであった。
「カレーの匂いでうどんの匂いがしないや」
「す、すみません…」
木更津の呟きに、金田は肩を竦める。
「あ、柳沢先輩」
「………………」
木更津の後ろを、トレイを持った柳沢が通りかかるが、そのまま向こうの方へ行ってしまう。
「気付かなかったんでしょうか」
「……ああ大丈夫、金田の声には反応してたよ」
麺を啜りながら、手をパタパタと振ってみせる。
「でも木更津先輩がいるんですから、一緒に」
「……ああ良いの良いの、今喧嘩中だから」
表情を変えずに、そう続けた。
「え…!?喧嘩ですか?」
思わず声を大きくして聞いてしまう。
「些細な事だよ。しょっちゅうある事だし、放課後には仲直りしているからさ」
「しょっちゅうって……先輩たちがですか?一体原因は……」
「今回のは、食べ物の好みとかかなぁ………」
箸を止めて、しばし天井を見上げた後、金田の方を見る。
「その土地特有ってのかなぁ……ちょっとした言い方でも冷たく感じたり、ムッとしたりして、ついつい喧嘩になっちゃう。柳沢ってどこ出身なんだろ……ときどき独特な雰囲気を感じるよ」
ぶつぶつと独り言のように話した。
「金田は裕太とそういう事ない?仲良くっても、考え方違う事あるだろ?」
「お、俺ですか?」
不意に問われる側になり、金田は考える。
「そういえば俺、昨日不二を怒らせてしまいまして……」
「めずらし……」
木更津は無表情で、もっとよく話を聞こうと椅子を引いた。
「不二が家族の写真見せてくれたんですよ。ちょっと髪の長い人を指差して、お兄さんだって教えてくれまして。俺、カッコ良い人だねって言ったんです。そしたら急に機嫌悪くなってしまいまして……」
はあ…。
金田は溜め息を吐く。
詳しくは知らないが、観月から裕太は兄へのコンプレックスを持っていると聞いていた。
想い人にその兄を褒められるのは複雑な気分になるであろう。
青学でテニス部レギュラーらしく、都大会で当たるかもしれないと、ぼんやり思った。
「これも生まれた土地の違いなのでしょうか」
「それは違うと思うよ」
即答する。
「裕太の容姿を褒めてあげたら、機嫌はすぐに直ると思うけど」
クスクスと口元に手を当てて笑った。
「褒めなくても、不二は元からカッコ良いじゃないですか」
「………………」
木更津は微笑を浮かべたまま固まってしまう。
「金田が思っているままを言ってあげると、裕太は嬉しいんじゃないかな」
「そうですか?」
「うん、そうだよ」
目をパチクリさせて問う金田に、木更津はゆっくりと頷いた。
「うどん、冷めちゃうや」
「ああ、俺もです」
金田もいつの間にか手が止まっており、2人は食器を手に取る。
さりげなく惚気られちゃったよ。
木更津は軽く息を吐いて、柳沢と仲直りした後、何を話そうかを考えた。
ルドルフには色々な所から来た子がいるので、どうにも理解できない部分とかあるのではないかと思いまして。
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