※ SSを読む前に ※
必ず一読お願いいたします!

作品説明にもある通り、彼ニオです。彼ニオというのは彼氏×仁王の略称で、リーマンの彼氏です。彼氏っていうからには2人はお付き合いをしているという事です。
外部のキャラです。すなわちオリジナルなんですよ。かといってドリームでもなく。非常に特殊なCPです。
特殊CPという理由で裏に置いてあります。
そういったものに抵抗のある方は戻ってください。ドキドキ冒険な勇者さんは進んでください。








 仁王が顔を上げると、
「ん?」
 彼は人懐っこい笑顔で首をかしげた。






 部活を終えて帰ろうとした時、携帯にメールが届いていた。送信者は、彼からで、メールの中身は“食事をしよう”と、場所と待ち合わせ場所が書かれていた。
 少し電車に乗って、待ち合わせ場所へ行って、彼を待つ。しばらく経つと、見慣れた姿が遠くの方から走ってくる。仁王から視線を離さずに走ってくる。転びやしないかと、少し心配をした。
「ごめんな」
 息を切らして、笑いながら謝った。
「慣れとる」
 仁王は目を細め、小さく首を横に振る。
「じゃ、行こうか」
「その前に汗、拭きんしゃいよ」
「あ?」
「世話のかかる人じゃの」
 スポーツバックからタオルを取り出して、彼に渡した。








 食事の場所はファミリーレストランで、窓際の席に腰をかけた。仁王がメニューを眺めていた顔を上げると、同じようにメニューを眺めていた彼と目が合い、今に至る。


「決まった?」
「これ」
 テーブルにメニューを広げて見せ、サンドイッチの写真に指を置いた。
「育ち盛りなんだから、肉とか食べろよ」
「これが良い」


 安いから。


 思わず喉から出そうになった言葉を引っ込める。
 食事代はいつも彼が全額払っていた。こちらはバイトも出来ない中学生、あちらは働いている社会人なので、当然といえば当然であった。しかし、あまり気分が良いものではない。どうにもならない年月の差というものが歯痒かった。




 店員にメニューを告げ、届くのを待つ間、彼が学校の事を聞いてきた。聞かれたら、今はこんな事をしているなどを話す。そうして彼のペースに乗せられるのだ。彼はいつも聞き役で、自分の事を話さない。
「この時期だと、テストとかあるの?」
「おお、あるよ。勉強嫌いじゃ」
「そっか。頑張れよ」
 彼はニッと笑う。
「……おお」
 その口元に、仁王の目は細かく瞬きされた。


 笑う時の彼の口元が、あの人に似ている。
 彼と一緒にいたいと思ったのは、この口元を真正面から見たいからなのかもしれない。


「雅治」
「ん?」
 呼ばれて視線を動かせば、彼は目を輝かせて仁王を見つめていた。それはもう、嬉しそうに。
「これ頼む。これ」
 新作デザートの写真を何度も指で突付く姿に、苦笑を漏らす。
「俺も何か頼もうかの」
 喉でくくっと笑い、仁王もデザートを選び出した。お金を気にするくせに、デザートだけはいつも頼んでいる気がする。




 食事を終えた後は、夜の商店街を歩いてショッピングをした。付かず離れず丁度良い距離を保って、2人並んで歩いた。彼は仁王より頭一つくらい背が低い。こうしている時ぐらいしか、優越感を感じる事はない。別に優位に立ちたい訳ではない。ただ、同じ位置に並びたいだけなのだ。けれどそれは到底追いつかない事で、追い抜かせるモノを探してしまう。
 閉店ギリギリのスポーツ用品店に入って、商品を物色する。彼は学生時代スポーツをやっていたと言うけれど、あまりそう見えない。そのままを伝えたら“良く言われるよ”と、へらへら笑っていた。


 彼は靴を眺めたまま
「買ってあげるよ」
 ぽつりと呟いた。
「いらん」
 即答だった。


「もうすぐ試合だって言ってただろう」
「慣れない靴で試合など出れん」
「気合とか、入らない?」
「入らんな」
「そっかぁ?」
「そうじゃ」
「むー……」
 わざとらしく、しゅんとした顔をして頭をカクッと垂らす。


「お」
 仁王は声を上げて手に取ったものを彼の目の前に持ってくる。
 ハンドグリップの金属部分が照明に照らされて、キラリと光った。


「今日は俺が買ってやるからの」
「ええー」
「運動不足じゃろ?」
 ニッ。
 仁王は彼の笑顔の真似をする。
 しばしの間を空けて、彼も笑った。








 ガタン。
 ガタン。
 帰りの電車に揺られて、互いに寄り掛かるように座席に座り、眠りについていた。車両には彼ら以外に数人しかいない上、皆眠っていた。こうして人の目を気にせずに恋人らしくいられる。静かな時間がゆっくりと流れた。
 この電車を降りれば2人は自分の世界へ戻っていく。朝になれば、いつもの学校生活が待っている。ここは別世界のようで、夢のように居心地が良かった。楽しすぎて、ここであった事を忘れてしまいそうになる。


 触れる肩から、彼の体温が伝わってくる。
 暖かい。


 昔、今と同じように、あの人と肩を並べて揺られていた気がする。




 車両の中がオレンジ色に染まっていた。確か夕方だった。
 テニス部の仲間達とバスに乗っていた。
 試合の後か、皆疲れて眠っていた。


 あの人は仁王の心の揺れなど知らずに、隣に腰掛けた。
 静かな面持ちだったが、触れる腕は重みを感じていた。
 伝わってくる熱が体全体に浸透していくのを、静かに感じていた。
 穏やかな笑みで、仁王は目を瞑る。幸せを感じていた。




「……………………………………な……ぎ……………」
 吐息のように、あの人の名が口から出る。


「うん?」
 彼が目を覚まし、きょろりと瞳を仁王に向けた。


「………………あ……………」
 仁王の目が大きく開かれる。


「どうした?」
 ニッと笑う。


「………………………………」
 目の奥から熱いものが込み上げて来る。こらえようと、ぎゅっと目を閉じ、彼の肩口に顔を埋めた。


「      」
 掠れた声で彼の名を呼ぶ。


 彼は仁王の髪に触れ、優しく撫でる。
「起こしてあげるから、おやすみ」
 押すように、抱き寄せた。







彼氏の前だと中学生中学生な仁王をと思ったら彼氏の方が子供っぽかったですね。
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