「もっと好きそうな所、弄ってやるよ」
「え」
足を割られて身体を割り込ませられる。これで閉じられない。
性急に自身を握りこまれた。しっとりと濡れており、これは水のせいだと樹は心の内で菊丸に訴える。
「気持ち良い?」
上下に動かしながら、樹の顔を見詰めた。
「あまり」
「どうやって欲しいんだよ。こうか」
指が快楽の箇所を刺激する。
「あ」
喉が微かに震えた。
「こうだろ」
さらに刺激し続ければ、血を集めて先端から蜜を零しだす。
樹は静かに頷いた。薄く唇が開いていたが、蜜が指に絡む音で耳には届かない。
「は…………あ……」
心地よく愛撫され、樹の目は快楽に酔って半眼になる。息は乱れ、腰をもどかしそうに動かした。
「うん…………あ……」
そう気持ちの良い顔をされれば、菊丸の方も血潮を沸かしていく。けれども、今日は彼の快楽を優先させようと己を静めようとする。
「よっ……と」
菊丸は体勢を変え、自身を捉えたまま身を乗り出した。器用に胸の突起を口に含んでみせる。
唇で舐って、舌で転がしてやれば、打てば響くようにひくひくと震えた。
初めに弄った時は無反応だった。
情事を重ね、徐々に慣らして快感に至るまでに教え込んできたのだ。
「菊丸……」
片方ばかりだったので、樹がねだり出す。わざと片方だけにして顔を上げた。
「菊丸…………」
もう一度呼ばれ、菊丸は愛しさが急速にわきあがる。自身を解放させ、向き合うように肩に触れる手。
「菊丸、好き……好きなのね……」
口付けを求め、菊丸は応えた。何度も角度を変えて交わし、隙間が漏れる度に“好き”と愛を囁く。
「ねえ、菊丸は?」
菊丸の返事を求めようとすると、彼は水着越しに己を樹自身に擦った。二人の欲望ははちきれそうなくらい、張り詰めている。擦れる度に電撃のような快楽が走った。
「んう…!………あ……あ」
「…………ふ………う……」
それでも口付けはやめない。気持ち良すぎて、変になりそうだった。
「………あ……ああ!」
樹は菊丸にきつく抱きつくと、欲望を吐き出す。少し遅れて菊丸も吐き出してしまう。
吐き出してしまった後で、菊丸は感触に固まった。
そっと身体を起こしてみれば、樹の下肢は体液にぐっしょりと濡れており、菊丸の水着にもべっとり付着している。恐らく中も酷いだろう。やってしまった、罰の悪い顔をした。
「お前も脱いだ方が良いのね」
樹も身を起こす。
「えー……ああ」
口ごもり、躊躇いを見せる菊丸。
「いつまでも履いているのは嫌でしょう」
「あー……」
水着に樹の手がかかるが、菊丸の手は上がらない。
「ほら」
「自分で脱ぐよ」
二人の手で水着が下ろされる。
「ああ」
菊丸自身は欲望を吐き出したものの、また新たな波を取り戻していた。菊丸が視線を逸らそうとすると、その横顔に樹は口付けする。顔を戻せば唇を合わせる。
「ん…………あ……あ」
「……うん」
舌を絡め合う下では、下肢を密着させて摺り合わせた。今度は阻むものは無い素肌同士。分泌される蜜は二人分が絡まって卑猥な音は余計高まる。
「おい」
樹は菊丸を砂浜に押し付け、上に跨った。ぬるりと下肢が滑り、菊丸自身が樹の双丘にあたる。
恍惚し、見下ろす表情でわざとだと察した。
「駄目だって」
「して、欲しいのね」
希望を口にした。
「挿れられたいのかよ」
挿入させるのは、欲望の押し付けだと思い込んでいた節があり、自ら望む樹に動揺を隠せない。
「吐き出すだけじゃ、物足りません」
「とんだ淫乱だぞ」
「誰のせいだと思っているんですか。責任とって」
菊丸は腰をずらして自身の先端を樹の窄みに近い場所へ向ける。
「取りゃあ良いんだろ」
「ええ」
満足そうに樹は頷く
しかし、取るといっても何も準備をしてこなかった。
「慣らすのにも時間かかるぞ」
「時間はまだ、たっぷりあるのね」
樹は横に座り、菊丸は起き上がった。
「まず、向けろよ」
「え、あ」
樹の腰を掴み、四つんばいにさせる。
「頭下げて、もっと腰あげて」
「ちょっと」
頭を押し付けて、腰を高く引き上げた。羞恥を煽る体勢に、樹は上気させる。
「あ」
引き上げられた双丘を揉むように掴み、窄みを見定めた。
「明るいから、よーく見える」
本当に、良く見えた。体液の滑りが淡く反射している。双丘の間まで流れ込み、濡らしているのだ。卑猥な光景が広がっていた。
滑りを利用して、潤滑剤の変わりにする為、指で体液をすくうように濡らす。
「ん」
樹は低く呻き、菊丸の指を受け入れた。指はうまいように入っていく。
「ん、んう」
抜き差しを繰り返される度に樹は細く鳴いた。
ここには二人しかいない。声を抑える必要は無い。こんなにも恥ずかしい行為をしているのに、気持ち良さを増徴している気がしてならない。
「もっと」
「え?」
「もっと掻き回して」
「こう?」
「もっと」
優しく緩やかに蠢いていた指は、荒く内側を摺るように変化する。
「変に優しくしないで欲しいのね。いつものお前のままで良いです」
指が増えて、乱暴に乱される。
「あ、ああ」
樹は顔を伏せ、淫らに腰を揺らした。窄みは徐々に容量を受け入れていき、この後の期待に菊丸は膨らんで、我慢が辛くなってくる。
「っ」
熱く膨らんだ自身が窄みに宛がわれた。蜜が零れて、ひたりとした感触がする。
「ごめん、何も用意してなくて」
「菊丸の方が不味いんじゃないですか」
「言うなよ」
先端が侵入し、樹はその刺激で自身からだらだらと白濁を吐き出してしまう。
「樹、待てよ」
「だって」
窄みが収縮し、締め付けられるが己を深く沈みこませた。震えて樹は受け入れる。
だが、いざ沈めても動かせば果ててしまいそうなくらい、菊丸自身は追い詰められていた。動けずに固まってしまう。
「菊丸?」
「駄目だ、抜く」
「どうして」
「出ちゃう、んだよ」
だが、抜き出す際の摩擦にも耐えられそうにない。
「そのまま出して良いのね」
「はあ?」
「出して、ください」
「知らねえぞ」
「お前のミルク、たっぷり出してください。ってお願いすれば良いのね」
「馬鹿」
腰を掴む力を入れ、菊丸は欲望を樹の内へ吐き出す。ドクドクと注ぎ込まれる体液に、樹は目を硬く瞑って耐えた。
しかし、吐き出したにも関わらず、二人は欲望を取り戻す。
抜き出さずに、菊丸は律動を始め、合わせるように樹が腰を揺らせば丁度良くなった。
肌と肌がぶつかり、一定のリズムで音を立たせる。結合部の下には、流れ落ちた体液が砂を染めていた。
「んん、あ、ん」
「はっ………は……」
突かれて樹の双丘は薄い赤に染まっている。僅かに視界を広めれば、彼の身体は全体的に染まっていた。太陽のせいか、それとも興奮か。快楽を与えている側とすれば、どちらもであって欲しい。菊丸の身体も染まっていた。
「は、菊丸、凄い」
「たっぷりくれてやるから」
動きは早まり、激しくなっていく。
脳は快楽に浸かり、菊丸は快楽のまま樹に打ち突ける。荒々しい菊丸の欲望が、樹には心地良く、欲望がもっと欲しいと望む。砂を握りこむが、指の間から零れていった。
「凄い、もっと!もっと欲しい!」
「搾り尽くす気かよ」
「だって、とっても気持ち良いのね……!」
「そんなに善がると調子に乗っちまうよ」
また菊丸は達し、欲望を樹の内へ吐き出す。
それでもまだ足りない。奥の奥まで深く欲しい。
「は!………あ、ああ」
「ん、く。は……………」
「あ、またほら、大きくなった」
飽きもせずに腰を動かしだす。全て吐き出し尽くすまで、行為は続いた。
「は――――――っ」
情事を終えると、汚れた身体を洗う為に二人は海に浸かる。菊丸は顔を出すと手で水を拭った。
「樹?」
沈んだままの樹が見当たらない。
「はあ」
すぐ目の前に顔を出し、菊丸は面を食らう。
「菊丸っ」
ぎゅうと正面から菊丸に抱きついた。
「やめろって」
普通に泳げるが、同様で均衡を崩す。菊丸も樹に抱きつかねば溺れてしまう。
「おい、こら」
しがみつけば樹がついばむような口付けを始めた。
「駄目だってば」
身体を密着させられれば、裸の自身同士が触れる。水着は履いていなかった。
「もう駄目だって」
もうさすがにあれだけ吐き出せば、勃つ気がしない。身体も疲れきっていて、これ以上やれば帰れそうにない。
「菊丸」
口付けをやめ、鼻と鼻を合わせて二人は見詰め合う。
「俺の事、好きですか」
この樹の問い、どう答えても逃してはくれなさそうだ。
「俺は、大好きなのね」
「俺は…………俺はな…………」
視線を彷徨わせた後、樹の瞳に戻す。
「好きに決まってるだろ馬鹿野郎!」
「初耳なのね」
「嘘吐け」
唇をぶつけ合うように合わせ、海の中へ沈んだ。
波紋は薄くなっていき、波に掻き消える。静寂が訪れた。