今日は日曜日。
普段部活であんなに体を動かしているのだから、
休日は部屋でのんびりしたっていいだろう。
休日のふたり
裕太は目が覚めたが、ベッドの中で蒲団を頭から被りヌクヌクとくつろいでいた。
ああ〜〜、気持ちいい……
枕を抱きしめ、2度寝しようと目を瞑るが……
ゴソゴソ、ガタガタと物音がする為、なかなか眠れない。
同室の金田が何かをしているのだろう。
ガタッ
ガコッ
………………………………うるせえなあ。
そっと蒲団から顔を出して、部屋の様子を覗いてみる。
寒い。
窓を開けているのか?
「金田……………………なに、やってんの?」
「ごめん不二。うるさかった?」
金田は机の上でプリントを束ねていた手を止めて、振り返った。
「………………………窓、開けてない?やたら寒いんだけど」
「えっ?あああ〜〜、ごめんごめん!」
窓を閉めようと、慌てて金田は立ち上がる。
が。
立ち上がった拍子で、まとめていたプリント、ノート、様々なものが机から雪崩落ちた。
バサバサバサバサバサバサ…………………………!!
覚醒しきっていない頭には、かなりのダメージだ。
「………っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ごめん、ごめん、ごめんね!!」
「…………で、何やってんの……………………?」
「う、うん。片付け」
落ちたプリントを掻き集めながら答える。
「数学と地理の先生が、やたらプリント渡すものだから、たまっちゃって……………。
埃も飛ぶし、窓を開けていたんだ」
裕太と金田は別のクラスなので、金田のクラス事情はよくわからないが、プリントが多くて困っているという話を聞いた覚えがある。
「ああ、そう」
体を起こし、目をこすりながら裕太は金田の周りに散乱しているモノを見た。確かに、凄い量だ。
「………………………………俺も、片付けしよっかなあ……」
大きな欠伸を一回して、裕太は着替え始めた。
「ウチの国語のアレ、小テストが多くて、俺も結構たまっていたんだよね」
裕太はそう言って、自分の机の一番上の引き出しを引く。
ガコッ。
開かない。
力を入れて、もう一度引いてみる。
ビリッ。
何か紙の破れる音がしたが、開ける事が出来た。
「不二、引き出しに詰め込みすぎ」
いつの間にか裕太の横で、金田が引き出しの中を見ながら苦笑する。
「不二ってさ。机の上は綺麗だけど、なんでもかんでも一番上の引き出しに入れるよね」
「金田はこまめに整頓してるけど、捨てないよな」
………………………………………………………………。
金田はひょい、と引き出しの中から一枚テストを取って、点数を見た。
「…………………に、21点………。人の事はあまり言えないけど、さすがにこれ、マズくない?」
「わっ!なに見てるんだ!!」
裕太は頬を染めながら、金田からテストを掠め取る。
「……………寝てた、でしょ?」
ジト目で裕太を見る。
「小テストだから、良いの良いの」
テストを2つ折り、4つ折りと小さくさせながら、答えた。
「観月さんにバレたら、大変だよ」
「今思えば、バレてたかも。このテストが返って来た2日後ぐらいの日、俺だけ練習がハードだった」
「…………………怖いね」
「…………………まあ、それが観月さんだから」
くしゅっ。
観月のくしゃみが聞こえた気がした。
2人は再び片付けに取り掛かる。
金田はせっせとプリントをバインダーに纏め、裕太はテストを取り出しては引き伸ばし、重ねている。
あっという間に、時間は過ぎていく。
だが、まだ片付けは終わりそうにない。
「結構、疲れるなあ」
椅子に座っている裕太は、そのまま後ろに反り返って伸びをする。
「うん」
金田は机の下でノートを纏めているので、声がくぐもっている。
「なんか、するか」
「なんかって、何?」
「しりとりとか?」
「今、子供っぽいって思ったろ」
金田の顔は見えないが、彼の机の方を向いて、裕太は口を尖らせた。
「…………………思ってないって。いいよ、やろ」
机の下で、くすくすと笑いをこらえながら金田の声がかえってくる。
「じゃ、金田から」
「ん。しりとりだから…………………"りす"」
「"すいか"」
金田が机の下から、ひょっこり顔を出し、自分を指差して
「"かねだ"」
ニッコリと笑う。
言い終わると、顔を引っ込めた。
「"だいすき"」
無意識に、言ってしまう。
あ。
裕太は大変な事を言ってしまったのに気付き、手で口を押さえた。
思わず漏れた"あ"の音は、喉につまり声にはならない。
とてもじゃないが、金田の方を見ることが出来ない。手の中で持っていたテストが、くしゃっと音を立てる。
鼻で息を吸うと、紙特有の匂いがした。
「き………………………………」
金田は机の下で膝を抱えて"き"で始まる言葉を探す。
身を丸めて、考えた。
机の下は窮屈で、足は中に入らず外に出ていたが、無理やり引っ込めた。
全身真っ赤になっていそうで、ズボンを履いていても、靴下を履いていても、気付かれてしまうんじゃないかと思った途端、恥ずかしくて、恥ずかしくて、無理やり引っ込めた。
「き」
「"きはずかしい"」
「え?」
裕太は金田の机の方を向く。さっきまで出ていた足が見えない。
「恥ずかしいって言ってるの!馬鹿不二!俺、片付けに専念するから!」
怒らせた?
裕太は顔の熱を冷まそうと両頬を手で覆った後、片付けを再開する。
それから、しりとりは金田の禁句となった。
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