プレゼント
ベンチに腰掛けてノートにデータを書き込む観月の後ろから、赤澤が歩み寄った。
「おー観月」
どんっ。
背中を押す。
「なんですか」
ムッとした顔で観月は振り返る。
「もうすぐお前の誕生日じゃん」
「そうですね」
「何か欲しいもんあるか?」
「別に」
そっけなく答えると、座りなおしノートを書き出した。
「君たちが僕のシナリオ通りに動いてくれれば、何もいりませんよ」
「そう来ちゃうわけ」
赤澤は頭に手を当て、息を吐く。
「…………………って言われちまってな」
昼休みの食堂で、観月を除くレギュラーメンバーが同じテーブルに集う中、赤澤が観月とあった事を話した。
「あらら」
「観月も素直に言えば良いのに」
「困っちゃうよね」
野村、柳沢、木更津の順に頬杖を突く。誕生日、観月が何を欲しがっているのか、皆が知りたかった事であった。データマンの事だけあり観月は彼らの誕生日に、丁度欲しかった物をプレゼントしていた。だから、彼らも観月の誕生日には欲しがっている物を渡したかったのだ。しつこがられてはいけないと、赤澤が代表して聞いたのだが、教えてはくれなかった。
「金田ー」
「はい?」
呼ばれて、黙々と食事をしていた金田が顔を上げる。
「お前、知ってるだろ?」
「え?」
「教えてくんない?」
「知りませんよ」
「またまたぁ」
「知りませんってば」
「あー何ー?もう2人の間で決めちゃってるのー?」
「そんなんじゃ…」
三年生たちに質問攻めにされ、金田は困って俯いてしまう。
「先輩」
我慢しきれなかった裕太が口を開く。
「金田をいじめないで下さい」
「やだな、いじめてないよ」
木更津が言う。
「金田なら知ってると思って、聞いてるだーね」
「金田は知らないって言ってるじゃないですか」
「知ってるのに隠してるから吐かせようとしているんだよ、弟くん」
野村の弟くん発言に裕太の眉をひそめて、グリグリしたい衝動を抑えた。
「どうして隠してるって決め込むんですか」
「え?」
「だって」
「なぁ」
木更津、柳沢、野村は顔を見合わせてから裕太の方を見て、
「「「観月と金田、付き合ってるし」」」
声を揃えて答える。
ガタガターン!
裕太と金田は椅子をひっくり返して倒れた。
「お、すっげえオーバーリアクション」
のんびりと赤澤が言う。
「ち、ちょっと!なんスかそれぇ!!」
裕太が起き上がって声を上げる。
「なんスかそれって、そのままだしー?」
「今更だしー?」
「金田まで倒れてるしー?」
木更津、柳沢、野村はあっけらかんとしている。
「な、なんで先輩たち知ってるんスか!!誰から聞いたんですか!!?」
金田が起き上がって声を上げる。顔が真っ赤であった。
「「「……………………」」」
びしっ。
木更津、柳沢、野村が赤澤を同時に指差す。
「俺だ。すまん」
赤澤はあっさりと白状する。
「ばっ…………ばか澤コノヤロウ!あれほど秘密だって言ったのにコノヤロウ!!」
「すんません、すんません」
怒り出す金田に、赤澤はへこへこと謝った。
「ほらだってよ…ルームメイトと可愛い後輩がくっついたら嬉しいじゃんよ…」
「コノヤロウ!どうせ俺が相談した翌日にでも言ったんだろコノヤロウ!」
「さすが金田だ。ご名答だぞ」
「コノヤロウ!コノヤロウ!」
そんな2人を尻目に、残りのメンバーは雑談を始める。
「赤澤、悪い奴じゃないんだけどね」
「赤澤に話した金田も悪いだーね。人選ミスだーね」
「なー」
裕太には誰に話しても同じ結果を生んだようにしか思えなかった。
「で、金田。冗談抜きで、本当に知らないの?」
改めて聞く木更津の問いに、メンバーは静まる。
「はい」
「金田をあげれば観月喜ぶんじゃないの?それとも貰い済み?」
「先輩っ」
「はいはい。金田は知らないんだ。そっか」
三年生たちはそれ以上は詮索せず、観月の誕生日の話題はそこまでとなり、別の話題へと変わって行った。
放課後、寮に帰った後、裕太は昼食の時から今まで思いつめていた事を、金田に聞いた。
「金田、どうして俺に話してくれなかった?」
「え?」
「観月さんとのこと」
俺、信用ないのか。
たった一言聞くだけで、目の奥が熱くなった。泣くな、泣くなと自分に言い聞かせる。
ルドルフへ来て、金田が一番の親友だった。ルドルフだけじゃない、不二裕太として知り合って、初めて出来た親友だった。観月と金田が付き合っている。それを知った時、その事を今まで知らなかった事が、尊敬している人と親友に、一気に離されたような疎外感に見舞われた。
「だって」
「だって?」
「不二、いなかったし」
「は?」
「不二が来る前からだったし」
「そんな前から?」
「うん」
金田ははにかんだ。ベッドに腰掛け楽な姿勢を取ると、裕太も近くにあった椅子に腰掛けた。
「話そうと思ったけど、ほら嫌でしょ」
男同士だし。
金田は言わなかったが、そのような言葉が続いているような気がした。
「ショックは受けるかもしれないけど……」
「ごめん。違うかも」
裕太の視線を避けるように、金田は伸びをしながら腕で顔を隠す。
「俺、不二に嫉妬していたかも」
「そんな事…」
「だから、ごめん。ごめんって」
金田は起き上がり、裕太の前を横切って、自分の机の棚から何かを取り出した。手で覆って持ってきて、裕太の前で開いてみせる。手に乗っているのは小さな箱であった。
「これ…」
「そ、観月さんに渡すつもりのプレゼント」
そう言って、金田はまた手で隠した。
「ね、不二。不二は知らないかな、観月さんが欲しい物」
「え?」
裕太は金田の顔を見上げる。金田は顔を曇らせていた。
「お昼の時も言ったじゃない。俺、知らないって」
「え?」
「聞いたんだよ。でも何でも良いって言うだけで、答えてくれないんだ」
「でも付き合っているんだから」
「何でもわかる訳じゃないよ」
泣き出しそうな金田の声に、裕太は立ち上がり、そっと肩を抱いた。
「俺、2人の事は今日知ったばかりだけど、観月さんは金田のくれるもんだったら何でも嬉しいんじゃないか?あくまで、俺の意見なんだけどな」
「不二」
金田は裕太の肩に顔を埋め、背に手を回す。顔は見えなかったが、安心しているようだった。少し、ドキドキした。
そして観月の誕生日。データをまとめる為、一人部室に残ってパソコンに向かう観月の元へ金田がやって来て、横からプレゼントを渡した。観月は金田を見上げた後、そっと箱を開けて中身を見る。
「素敵ですね。有難う」
ふわりと、微笑んで見せた。
「ほら、いらっしゃい」
椅子を持ってきて、2人寄り添ってパソコンの画面を眺めた。
部屋へ戻って来ると、金田に裕太は問う。
「2人きりの時、観月さんどうなの?」
「観月さんは観月さんだよ」
「優しい?」
「うん」
「厳しい?」
「うん」
「そういうの、惚気って言うんだぞ」
「そうなんだ」
頬を染めて、金田はいそいそと私服へ着替え始めた。
また少し、金田と親しくなれた気がした。もっとお前に近付きたい、そう思う事すらもいけない事なのだろうかと考えると、切ない気がした。
観月と金田の進展具合については謎のままで、というのを勤めてみました。
Back