「先輩達いるかな」
「見てみよう」
裕太と金田は3年生の教室へ、後ろのドアから入った。
写真
「お、裕太じゃん」
柳沢と目が合う。笑いかけようとする裕太に、廊下へ出ようとする生徒が横を通り、鞄が当たりそうになる。小さな声で"すみません"と謝った。時刻は放課後。教室にはほとんど生徒はおらず、残っている者も帰りの準備を整えていた。
「金田もいるね」
カーテンの陰から、黒板消しを持った木更津が姿を現す。
「お2人、同じクラスでしたっけ」
「俺は遊びに来ただけだーね。ここは淳のクラス」
床を指差す柳沢。
「何の用?」
「観月さんが呼んでます」
「わかった。でも2人で来る事も無いんじゃないかな。クスクス」
「だーね」
顔を見合わせ、裕太と金田の方を向き、ニヤニヤと笑みを浮かべる3年生。
「んっ。ではこれで」
裕太は軽く咳払いをして、金田を連れて教室を出ようとする。これ以上ここにいても、からかわれるだけだろう。
「ええ?つれなーい」
「ゆっくりしていけよー」
笑みを浮かべたままで、手をメガホンにして、わざとらしく言う。簡単には逃してもらえないようだ。
「そうだ」
木更津は黒板消しを戻し、自分の席の方へ行くと、鞄の中からデジタルカメラを取り出した。
「どっちか、俺と柳沢の写真を撮ってよ」
「では、俺が」
金田が名乗り出る。
「はい」
カメラを手渡す。カメラは見るからに新品なようで、まじまじと眺めてしまう。
「新しいですね」
「そう、新しいの。撮ってみたくて仕方がないんだよね。貸すのは金田が第一号」
「へえ」
裕太も金田の横から、カメラを眺めた。
「どんな風に撮ろうか」
柳沢の横に並び、木更津は問う。
「こんな感じ?」
柳沢は椅子の上に乗り、格好を付ける。
「うわ、柳沢、痺れるー」
「棒読みだーね」
すかさず突っ込んだ。
息の合った2人のやり取りに、金田と裕太の口元が綻ぶ。
「俺はこれで言いや」
シンプルにブイサインを出す。
「撮りますね」
カメラを構え、シャッターを押そうとする。だが、どうも操作方法が掴めないでいた。
「これ押せば良いのかな」
小声で裕太に確認をする。
「そうだと、思う」
同じように声を潜めて答える。兄は写真が趣味だが、弟の裕太が詳しいとは限らない。本当の所は当てずっぽうであった。
「行きまーす」
カシャッ。木更津と柳沢の姿が納まった。
「どう?」
木更津が撮ったものを確認しに来る。後ろの方で柳沢も興味津々で覗き込んでいた。
「良いんじゃない。有難う」
「どういたしまして」
金田はカメラを返す。
「次、裕太と2人で撮ってあげるよ」
「ええ?」
「ほら、行って行って」
追い払うように手を払い、裕太達は先ほど木更津達を撮った場所へ立つ。
「どんなポーズにしようか」
「そうだな」
顔を見合わせて2人ははにかみ、ポーズを思い浮かべようとする。
「裕太、もっと寄って」
だが、木更津が指示をしてきた。どうやら好きには撮らせてもらえないようだ。
「もっともっと」
「くっつき過ぎじゃないですか」
「良いんだよ、それで」
「だーね」
嫌な笑みを浮かべる木更津。柳沢とこそこそと話し合い、クスクスと笑っている。
「もう」
口を尖らせる裕太は落ち着きが無く、金田も困った顔をしていた。だが、心の奥底では楽しんでおり、指示を今かと待ち望む。
「じゃ、金田。まず脱いでみようかー」
「「ちょっと!」」
2人声を揃え、顔を真っ赤にして身を乗り出した。
「はい、チーズ」
シャッターを押す。
「淳ぃ、ベストショットだーね」
柳沢が親指を立てる。
「柳沢のアイディアのおかげだって」
木更津も親指を立てる。
ゴッ。上げた拳同士をぶつけた。
「先輩、あんまりです」
「可愛く撮れてるよ。金田とか」
「ホントですか」
つい裕太は興味が湧いて、誘い込まれてしまう。
「不二まで」
金田は裕太のシャツの裾を掴んだ。
「ご、ごめん」
詫びる裕太だが、興味は写真の方へ向けられたままだ。
「遅い」
その頃、部室では一人観月が腕を組んで待っていた。
「寂しい」
ずずっ。鼻を啜る。赤澤と野村もどこで油を売っているのか、やって来なかった。
30.5の木更津と柳沢、彼ららしさがとても良く出ていて好きなので、そこからの妄想。
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