※ Attention 一読下さい
このお話はパラレルです。
パラレル元はPS2ソフト「Romancing SaGa -Minstrel Song-」となっております。
世界観のみで、本編には一切絡んでおりません。テニスキャラを取り巻く環境はオリジナルであり、登場キャラの配役置き換えはしておりません。
いちおうゲーム未プレイの方でも読めるようには作っているつもりです。
千年の時を経て、破壊の神が蘇る――――
彼の人がうたうように言った囁きは、次第に世界・マルディアスへと広がっていった。
少し前の話なら、笑い飛ばされただろう。
だが今、人々は気付きつつある。
蝕み、闇に染めようとする恐怖の息吹を。
遥かな昔に救ってくれた英雄は、遥かな高い夜空に浮かぶ星になってしまった。
英雄は、もういない。
光の神は、救ってはくれない。
無力な人々は望む。英雄の再来を、光の神の降臨を。
無力な人々は生きる。闇に染まりゆく、このマルディアスで。
破壊神復活への予兆は、世界全体へ広がっていた。
はびこる魔の生き物は、より凶悪に変貌し、人々を苦しめていた。
各国の警備は厳戒態勢となり、手が回り辛い小さな町や村は傭兵を雇い、護るようになった。
傭兵には旅の冒険者が主に雇われている。
これは、後に世界を救う英雄も立ち寄らなかった、名も無き村を護る為に戦う、傭兵たちの物語。
染まりゆく その時まで
南バファル地方全域。そこを支配する千年帝国の名も同一視され、バファルと呼ばれていた。
風土は東西で異なり、東には深い大森林が広がり、西には高地帯。そのどこにも属し辛い中途半端な土地に、小さな村がある。
周りは大森林ほどではないが、森に覆われており、ある傭兵部隊が魔物と交戦していた。
木の幹を影に、傭兵二人は魔物の様子を伺う。
「おい、あれはなんだ」
褐色の肌を持つ傭兵・赤澤は傍にいる同じ傭兵の観月に問う。
赤澤の動き易い防具とは正反対に、観月はゆったりとしたローブを纏っている。彼は術士であった。
「知りませんよ」
観月はきっぱりと答えた。
「知らない事はないだろ、自称物知りの観月さんよっ」
声を潜める中で、口調を荒げる。
彼らの戦っている魔物は、森から顔を出すぐらいの大型で二足歩行の……その先の説明が出来ない初めて見る姿であった。
「本当に知らないんですよ。新種でしょうね、恐らく。物騒な世の中になったもんです」
「さて、どうすれば良い」
赤澤は剣の柄に手をかける。剣は大型剣と呼ばれる俊敏性には欠けるが、一撃の威力が高い武具だ。
「俺としては相手が地に足を付けている事だし、お前お得意の土術で動きを封じて欲しいんだが」
「僕としては様子を見たい。一手は受けて下さい。先に回らないと君の作戦は通じないでしょうから」
「俺に囮になれって事か……」
顔をしかめる赤澤。観月は口の端だけを上げて言う。
「今までも、そうだったでしょう。これからも、頼みますよ」
「畜生」
「安心なさい。金田くんの支援もありますから、ね」
観月は横目で、隣の木に隠れる金田を見た。金田は二人より年下で、後に仲間に入ってきたので後輩のような存在であった。まだ、腕は未熟ではあるが、貴重な弓兵である。
そう、観月も金田も後衛。赤澤が前衛に立つのは必然であった。
「ちっ!踏み潰されたら祟ってやるっ!」
舌打ちと同時に剣を構え、赤澤は走る。
魔物が彼に気付き、動くと木々が揺れ、森全体が震えているような感覚が襲う。大きな腕を上げ、振り下ろしてくる。
「くう」
剣を盾にして赤澤は速度を上げ、攻撃を交わすと共に切っ先の方向を変えて一撃を食らわせた。
その様子を観月はじっと観察して、対策を練る。
「ふむ、やはり見た目通りか。相手がわからない分、長期戦も有り得るが…………」
五本の指を使い、金田に合図を送ると、彼は静かに頷いた。
走り抜けるように魔物の背中に回り込んだ赤澤だが、振り向き、見上げると、同じように振り返った魔物と視線が交差する。一つ目のそれは硝子球のように丸く、大きく、底が見えない。異形だが、どこか美しいとすら感じる。そう感じる事に、恐怖を覚えた。
だが、屈する訳にはいかない。
体勢を屈めて、剣を後ろに回して背で隠す。睨み合ったまま、大技を繰り出す温存を図ろうとした。
「!」
赤澤はハッと目を見開く。
耳が大地の微かな悲鳴を捉えたのだ。
後ろへ飛ぶと、悲鳴は叫びとなって大地は大きくひび割れた。観月の相手の行動を封じる土術である。魔物の足元は崩れ、均衡を失って倒れた。
地響きが鳴り、羽根を休めていた鳥が一斉に羽ばたいていく。
着地して赤澤は踏み込み、大きく飛び上がった。そうして剣を振り上げ、刃が太陽に反射して光を放つ。渾身の力をこめて叩き付ける技は、初めに観月が攻撃の機会を与えて繋げ、金田の攻撃の呼吸も合わさり、三人の連携技が発動する!
はずだった。
金田の放った無数の矢は四方八方、問答無用に飛んできて、魔物の身体に容赦なく突き刺さり、赤澤目掛けても飛んでくる。
「てめえ金田!!」
攻撃対象を変えて矢を叩き落とした。
「すす、すみません!」
金田は何度も頭を下げて謝る。
そんな金田の首根っこを観月は引っ張り、隠れさせて彼は口の動きだけで赤澤に伝言する。
この術、そんなに当てにしないでくださいね。
意味を理解するのに時間は要さなかった。
魔物が起き上がり、赤澤を掴まえようと手を伸ばしてきたのだ。
「ぬああああああ!」
赤澤は咆哮し、全力で逃げていく。
魔物を彼が連れて行くと、観月と金田はひょっこりと木の陰から姿を現した。
「仕方が無い。追いかけましょう」
「はい」
口調は至って、穏やかであった。
一方。同じ森の中でもう一組の傭兵部隊がいた。
彼らは赤澤たちとは違い、戦いではなく交渉で魔物を追い払っていた。
「じゃあこれで」
営業スマイルともいうのか、野村は笑顔で魔物に道具を渡す。彼の交渉術は仲間の中で軍を抜いていた。
「ではまたご贔屓に〜」
野村の後ろで、連れの木更津と柳沢も笑顔で魔物を見送る。
「さすがノムタクだーね」
「ここは流通悪いから、交渉で魔物もいなくなるうえに貴重な道具も手に入って一石二鳥だよ。くすくす」
「どっかの誰かさんたちがうるさくなければ、平和なんだけどね」
ねえ?
三人は頷き合う。だが、傾けた頭は上がって来ない。
何か大きな音が、そう遠くではない場所で聞こえたのだ。木々がざわめき、獣も騒いでいる。
「音、近づいてないか……」
「気のせいだったら良いけど」
「そうもいかないだーねっ!」
柳沢と木更津は同時に武器を抜き放つ。
赤澤と魔物が出てくる機会を狙って構えを取った。
こうして魔物は柳沢と木更津の協力を持って退治する事が出来た。
仕事を終えた傭兵たちは、村の食堂で身体を休める。冒険者が生活の賃金を手に入れられるのは、ほぼ依頼に限られており、こうして屋根ある場所でゆっくり出来るのも、なかなか貴重であった。
「はー疲れた〜。俺、これ宜しく」
「じゃあこれだーね」
「これ」
テーブルに突っ伏すように木更津、柳沢、野村は座り、顔を伏せたままメニューを指差した。
「くううっ」
観月はギリギリと歯を鳴らし、背を向けて何やらメモを取っている。
三人が協力した条件、それは食事のご馳走であった。ただでさえ賃金が少ないのに、大きな痛手だ。
彼らには今回以外にも手を貸りたり、貸したりもして共闘するが、仲間になろうとは思っていない。“もちつもたれず”の関係である。だいたい五人以上ではさすがに行動がし辛い。
「冒険者時代は魔物を極力避けていたのに。はぁやだやだ。赤澤がもう少し、頑張ってくれれば良いんですけどねー」
頬杖を突き、遠い目で観月はぼやく。
「無茶言うなよ。そんなら観月、お前武道家でも転向し」
声を遮るように、観月は皿の上の料理にフォークを突き刺した。口元へ持ってきた食べ物を、何事も無かったかのように上品に食べる。
気苦労の溜まった深い溜め息を吐く赤澤。その正面に座る野村は笑いながらフォローを入れた。
「いや、赤澤は結構腕が立つと思うよ」
「悔しいけど、認めざるを得ないだーね」
「そうだよ。ひょっとしてさ、戦績でもあげて帝国兵士に志願でもするの?」
野村に、柳沢と木更津も同意する。
「冗談じゃねえよ、あんなお役所仕事」
手を振って、いかにも嫌そうに答えた。
「観月こそ、宮殿勤めでもすれば」
「………………………」
観月は無言で、目で断りの意思を送る。
「んん」
咳払いをして、赤澤に話を切り出す。
「赤澤、君だけの責任ではないが、僕らの戦力が低いのは本当の事だ。そこで、です。一人加えてみたらどうでしょう」
「新しい仲間か」
「そうです」
「いるのか、そんな奴」
赤澤が話題に乗ると、観月は企んだ笑みを浮かべた。
「ええ、いるんですよ。今度ローザリアの名門出の騎士が、腕試しだかでやって来るそうです」
ローザリアは北バファル大陸にある元バファル帝国の領土であったが、約四百年前に帝国親衛隊長が領土を与えられ、王国が建国された。やがて北バファル大陸全域に領土を拡大。今も尚、勢力を伸ばそうとする強国である。
「なんでそんな奴が、こんな所に……ねえ」
「訳有りらしくてね、引っ張り込んでしまえばこっちのものですよ」
「お前……」
しゃあしゃあと言う観月に、呆れる赤澤。そんな二人を眺めていた木更津が、ある事に気付く。
「金田は?」
「買い物」
二人の声が重なった。
その頃、金田は観月の買い物メモを片手に、村を回っていた。
物品は少なく、武具の耐久力が落ちれば遠くの町に行かねば、直しも新調も出来ない。なるだけ損害を少なくしなければならず、戦いを支える細かな道具が必要になるのだ。
「後は非常食だけ……か」
村は看板を出しておらず、どこで何を売っているのかを覚えるのは難しい。来た頃は、どれも同じ家に見えて苦労した。
「あ」
金田は思わず、声を上げた。
赤くて丸い果実が一つ、こちらへ転がってくる。
大地に赤が浮き上がり、目で追うだけで、つい思考を止めさせた。
靴に当たると、やっと我に返る。
抱えた荷物を落とさぬように屈んで、拾おうと手を伸ばす。
「おい」
上の方から声がして、見上げると一人の青年が立っていた。逆光で顔は見えない。だが、なぜだか近い年のように感じた。
「それは、俺のだ」
「ああ、うん」
拾ってあげようと思い、止めた手を動かそうとするが、指がひくりと震えて固まる。
青年の抜き放った細剣の切っ先が金田に向けられたのだ。
細く鋭利な先端が、鼻の頭のすぐそこにある。針のように、細胞の痛点に触れ、微かな痛みが走った。
「拾おうと、思って」
取ろうとなんてしていない事を訴える。
「やめろ、触るな。それは俺のなんだ」
青年は細剣を鞘におさめぬまま、中腰になって果実を拾う。
顔を上げた先には、既に小さくなった背だけが見えた。
「なんなんだろう、あいつ」
見た目からして、村の住人ではない。傭兵の中にも、思い当たる節がない。
青年は一人のような気がした。他に仲間がいる気配が無かった。
今、この闇に染まろうとする世界で、たった一人で、こんな場所に。
もしそうだとしたら、凄いと思う反面、自分は絶対にしたくないと思った。
なんだか胸は嫌な気持ちになり、落ち着かない。
煮え切らないものを抱えたまま、金田は買い物を済ませて食堂へ入った。
「よう、金田ご苦労」
カラカラと笑い、手を上げて場所を示す赤澤。同じテーブルの傭兵たちが金田に注目する。
その中に、先ほどの青年がいた。
ただ、こちらを見るだけで、その瞳には何も映していない。
青年は裕太と名乗った。
異国から来た、孤高の騎士。二人の、出会いであった。
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