理由



 特に何を話すかなんて、決めては無かった。理由は無い。何となくであった。
 ただ予定が合ったので二人は適当な店で食事を取る。


「そうだ、俺思ったんだけどさ」
 不意に菊丸は話題を切り出す。
 樹は瞳だけを彼に向ける。
「六角って、海で良く遊ぶんだろ」
「ええ」
 頷き、相槌を打った。
「雨の日はどうしてんの」
「どうって。……しませんよ」
「そっかー」
 背もたれに寄りかかり重心をかけて、椅子を斜めにする菊丸。戻すと椅子の足が音を立てる。
「じゃあさ。今度、雨の日に海に行かねえ?」
「入るのは危ないのね」
「入らないって。ほら、歩いたり、さ」
 意味も無く手で何かを伝えようとしてしまう。
「歩く?」
「そ、それだけ。それでもさ、良いじゃん」
 肘を突いて樹に詰め寄る。


「そうですね。良いのね」
 口元を緩め、カップの中身を含んだ。
「なにも、意味を求めなくても、良いんですもんね」
 二人共にいるだけで、理由になるだろう。
 言葉ごと、飲み物と一緒に流し込む。
「晴れの日があいつらとなら、雨の日は俺とだ」
 やや前のめりになった体勢で、菊丸は樹を見上げる。
「………………………」
 交差する視線を、樹は逸らして適当な景色を眺めた。
 大きな胸の高鳴りが、一瞬喉を詰まらせて答えられない。
「では、台風の日にでも呼びましょうか」
「台風?」
「酷くなったら帰れないのね」
 視線を戻し、菊丸を見やる。
「逃がさない」
 目を細め、呟く。


「こわ」
 ぞっとしたような顔をするが、瞳は動じずに真っ直ぐに見据えていた。







樹はその気になったら結構押せ押せじゃないかと。
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