大会が終わっても夏はまだ終わらない。
 青学メンバーは葵に代表して誘われ、千葉の海へ遊びに行った。



ループ



 網の上で焼かれたとうもろこしに醤油を塗れば、香ばしい匂いが漂う。
 砂浜で黒羽が鼻歌交じりで焼きとうもろこしを作っている。隣では桃城が助手となって手伝っていた。
「はい、先輩どうぞ」
「ああ」
 黒羽が作った焼きとうもろこしを桃城が乾に渡す。
「バネの作ったのは特に美味しいよね」
 先に食していた木更津が、同じように食べている天根を見て、彼が頷いた。
 そんな彼らを見て、黒羽の顔が綻んだ。


 浜辺は六角の生徒しかしらない穴場で、貸し切り同然で海の美しさと清々しさを楽しめた。今の季節、海はどこも人でごった返しているだろうから。
 菊丸は少し離れた場所で、砂の上に腰をかけて、ぼんやりと海を眺めていた。気候は汗ばむ暑さだが、風は心地良い。緩やかな風が菊丸の髪を揺らす。
「なにやっているのね」
 上から聞き慣れた声がして、見上げれば樹が立っていた。
「なにって、暑くてさ」
 ふー。息を吐くと、樹は隣に腰を下ろす。どうも皆がいる場所は熱気があって近付く気分になれない。
「なんだよ」
 横顔に当たる樹の視線を面倒そうに言う。
「髪、切ったんですか」
「そ、大会も終わったし、さっぱりさせたくって」
 短くなった自分の髪を指ですく。
「へえ。良いのね」
 樹は手を伸ばし、菊丸の髪に触れてきた。
「あーやめろやめろ」
 背を屈めたり、頭を動かして避けようとする。
「そう言うお前も切ったらどうだよ。長いんだし」
 お返しとばかりに菊丸は樹の髪に触れる。
「癖っ毛なのなー」
 束を摘まんで擦り、感触を味わった。
「……………………………」
 口を閉ざすと、樹がじっとしているのに気付き、妙な間に顔が熱くなる。手を離し、身体ごと背を向けた。不貞腐れているように見えて、菊丸の見えない場所で樹は可笑しさが込み上げていた。
 自分は嫌なくせに、他人にはするのか。矛盾の指摘は黙っておいた。
「困った人ですね」
 菊丸に寄り添おうと身体をずらす樹。
 その時――――


「いた」
 ぼそりと、呟かれる声。越前であった。
「リョーマくん」
 慌てて立ち上がり、砂埃を叩く。つられて菊丸も立ち上がる。
 なにも二人で立たなくても、と思う越前だが指摘せずに用件を言う。
「先輩たちも食べたらどうスか。早くしないと無くなりそうっスよ」
「俺はさっき食べましたし、菊丸行ってくるのね」
「そうだな。食い尽くされるのは御免」
 樹と越前を通り過ぎようとした菊丸だが、去り際に越前が彼を見た。
「なに、話していたんですか」
「おチビには関係ないよー」
「菊丸、リョーマくんをチビだなんて言わないで欲しいのね。可哀想です」
 菊丸は足を止めて、うんざりした顔で振り向く。面倒な事になってしまった。
「良いんだよ、ずっとそう呼んでいるんだし」
「俺も気にしてはいません」
「ホントですか?」
 樹は越前を伺う。
「どうせ、抜かすんだし」
 くく、と喉で笑った。
「じゃあ今の内に吼えさせておくんですか」
「ま、そんなトコ」
「……………お前ら揃って嫌な奴っ。身長が思い通りに行くもんか」
 つんとそっぽを向いてずかずかと大股で行ってしまう。
 最後の捨て台詞に、元チビだったらしい哀愁を受けた。


「すぐ不機嫌になるのね」
「どうせその後、大石先輩に言って自業自得だって説教されるんスよ」
 他校の話だが容易に想像できて樹は苦笑を浮かべた。
「よいしょ、と」
 今度は越前が砂浜の上に座り込む。
「風、意外と気持ち良いっスね。向こうは暑くって」
「……………………………」
 話がループをしている気がする。
 樹はやや上を向いて思うが、まあ良いかと思い直し、前を向いて海を眺めた。
 いつ何度見ても、飽きない景色であった。







青学×六角。
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