メリークリスマス



 菊丸と樹のクリスマスは日帰り旅行を楽しんだ。
 その日に行ってその日に帰るという忙しさではあるが、良い思い出を作る事が出来た。
 帰りの新幹線に乗る頃には辺りは暗くなっており、指定席に横並びで座ると落ち着いた息を吐く。
 車内は静かで、外の景色は暗闇に明かりがチラチラと見えるくらいである。
「なかなか楽しかったよな」
 菊丸は窓際に座る樹に話しかけた。
「そうですね。良かったのね」
 のんびりした声で樹は言う。
「ほら、あれとか綺麗だったし、これは美味かったし……」
 背もたれに寄りかかり前で手を組みながら、今日あった事を語る菊丸。目を瞑ればすぐに蘇ってくる。
「ほらその、来年は泊まりでも良いよな」
 瞬きをして同意を求めた。


「…………ああ、そうですね」
 樹の反応が遅れる。その微妙なニュアンスが菊丸には不満に聞こえた。
「なに?駄目?」
「良いと思うのね」
「そう」
「……ええ……」
 樹はというと、窓に頭をくっつけてうとうとさせている。彼はあまり夜が得意ではなく、時間が遅くなればすぐに眠くなってしまう。
「眠い?」
「……ええ……」
 唇を薄く開き、呟くように応えた。
「駅着いた後、帰れるか?負ぶってやろうか?」
「結構です……。出来ないのに…………言うもんじゃないのね……」
「出来るって」
「……………………………」
「出来るよ」
「……………………………」
 樹の返事が返ってこない。どうやら完全に眠ってしまったようだ。
「どうせなら、俺の方に寄りかかってくれりゃあ………なぁ………」
 前と樹を交互に見て、彼が本当に眠っているかを伺う。


「樹ぃー?」
 樹の目の前で手を振ってみせた。反応は無い。静かな寝息もしてくる。
 起きるんじゃねえぞ。そう心の中で念じて、菊丸は立ち上がり、荷物置き用の棚から自分の鞄を取り出した。中身からラッピングされた包みを自分の席に置いて、何事もなかったように仕舞う。
 これは樹の為に用意していたプレゼントである。日帰りとはいえ旅行なので、かさばるからいらないと二人で決めたのだが、驚かしてやろうと菊丸だけが持ってきた。しかし、肝心のタイミングを失ってしまい、ずっと鞄の中で眠っていたのだ。
 渡すなら今が最後のチャンスだろう。目覚めた頃、彼の傍にはプレゼントが置かれる。
 タイミングを逃し続けたのは、この機会に巡り合わせる為に神が用意をしてくれたのかもしれない。
 起こさないように、樹の膝の上に包みを置いてやる。
「メリークリスマス……」
 起こさないように、決まり文句を口ずさむ。
 起こさないように、自分の席に座ろうとした――――
「菊丸?」
 樹は目覚め、膝に置かれている包みを見てから、菊丸を見た。
 気まずい。
「……………………………」
 彼はまた眼を瞑る。
 寝ぼけていたのか、それとも狸寝入りか。問う気にはならなかった。
 背もたれに後ろ頭をつけ、駅に着くまで菊丸も眠る。


 何かが膝の上に乗った気がするが、起きて確かめる気にはならなかった。







かみ合わないながらも、それなりにやっていく感じを目指して。
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