いつも、ときどき



 放課後になって部活が始まるまでの時間、菊丸は大石の教室で窓に寄り掛かりながら、彼と談笑をしていた。
「あ、手塚だ」
 菊丸が声を上げると、大石は素早く反応して窓に手を付く。すぐ下の校舎裏に、手塚の姿が見える。もっと良く見ようと窓を開けて頭を出した。


 一緒にいるのは女性徒で、何やら話している。見慣れた光景であった。手塚は告白を受けているのだ。
「どうやって断るのかな」
 面白そうに菊丸も体の向きを窓に向けて、頭を出した。


「昨日も告白されてたじゃん?頻繁だよな」
「ほら、学校の新聞で生徒会とかどうとかで、手塚の写真出たから」
「そうだっけかぁ?」
「うん、カッコ良く写ってた」
「白黒だぞ?」
 菊丸は頬杖をついて大石を見るが、彼の視線は手塚へ真っ直ぐに向けられていた。
「好きな人がいるって言うかな」
「どうだろ………」
 大石は笑っているが、張り付いたように同じ表情を保っていた。




「あ、行っちゃったよ」
 女性徒が小走りで手塚の元を離れていく。断られたのだろう。


「きっと気の利いた事が言えなかったんだぜ?」
 ニヤニヤ笑って、菊丸は大石に同意を求めようとする。




「今、ちょっとだけ、思っちゃった」
 笑顔のまま、大石は口を開いた。
「手塚あのまま、あの娘と付き合った方が幸せだったかもしれないって」
「………………………」
 菊丸はきょとんとして“なに出来もしない事言ってんの?”と呟く。
「ただ、思っただけだよ。ちょっとだけ」
「男と女が普通だからって、幸せになるとは限らにゃいじゃん?」
「そうだな」
「手塚の事、好きなんだろ?」
「うん、いつも手塚の事、考えてる」
 笑顔はいつの間にか、泣き笑いのようになっていて、目許が潤んでいた。


「いっつも考えてるから。ときどき、出来もしない事とか悲しくなる事とか………そんな、おかしな事思ったりする」
 場所を離れて遠くなる手塚の背中を、大石の瞳は追い続け、捕らえ続け、寂びそうに揺れていた。








 部活を終えた通学路を歩く手塚の後ろを、追うように大石は歩いていた。
「どうした大石?」
「手塚の背中、好きだなーっと思って」
「俺も大石の足音は好きだが………」
 手塚は頭の上にハテナマークを浮かべる。
「初めて聞いた」
「言わなくてもわかるだろう」
「言ってくれた方が嬉しいよ」
「そうか……………」
 会話は途切れ、しばし無言のまま歩いていた。




「今日、告白されてたね」
 手塚の背中で大石が喉で笑う声が聞こえる。
「どうして断った?」
「相手が大石じゃなかったからだ」
「暑くなる事、言うなよな」
 大石は赤くなった顔をパタパタと扇いだ。




「ほんの少しだけど、あの娘と付き合ったらどうしようって思ったんだ。そうした方が、手塚が幸せかもしれないって思った」
「そうか……………」
「俺、手塚の事考えすぎて、ときどきおかしな事思うよ」


「俺も、今日おかしな事を思った」
 手塚が足を止めると、大石も歩みを止めた。


「大石が言っていた彼女………髪が長かった。その髪を見て、思った」
 振り返り、大石を見つめる。




「大石、髪を切ったな」
 柔らかに微笑み、優しく頭に触れた。




「昨日、言い忘れていた」
「……………………………いつも忘れているくせに」
 ぽふっと手塚の胸に顔を埋めるように抱きつく。


「すまん」
「遅いよ」
 照れたように頬を染める手塚を、大石は幸せそうな笑みで見上げた。







タイトルは矛盾を秘めた感じで。
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