共に



 元旦。手塚と大石は初詣へ出かける。この頃、二人はまだ二年生であった。
 神社はよくテレビで放送される場所で、人に溢れており、何時間も並ばなければ辿り着けない。
「混んでるなー」
 大石はのんびりと呟き、辺りを見回して空を見上げる。
 空は雲一つ無い青空が広がっていた。気候も冬にしては暖かい。お参りをするには適した良い日と呼べる。
「大石」
「ああ」
 手塚に言われ、前が空いたのを知らされた。
 混んでおり、進みは遅く、かといって余所見をしていれば進みだすという具合。並び始めて結構な時間は経つが、手塚は全く表情を変えない。そんな手塚の横顔を見て、大石ものんびりと待っていられた。
「よっと」
 また数歩分進み、混んでいるからと大石は手塚の方へ寄りそう。
 手の平と手の平が当たり、大石は小さく詫びる。しかし表情は笑っており、わざとらしい。


「手塚」
 手塚の腕を摘まむように引っ張り、大石は指をさす。神社がようやく見えてきたのだ。
 そうしてまたしばらく待った後、ようやく賽銭箱の前へ辿り着いた。
 あらかじめ手の平の中に用意していた賽銭を入れて、二人は手を合わせて目を瞑る。お参りを終えて列から抜けると二人して安堵の息を吐き、顔を見合わせて微笑み合う。互いに何も言いはしなかったが、人の群れと列にうんざりしていたようだ。
 帰り道。傍に出された露店を眺めながら、大石は手塚へ問う。
「手塚、なにをお願いした?」
 彼の事だから教えてくれないかもしれない。駄目元で聞いてみた。
 大石の予想は大きく外れ、手塚はあっさりと答える。
「青学が全国へ行けるように、だ」
 手塚は大石を見て、彼も問いかけた。
 来年、手塚は部長、大石は副部長として青学を支えていく。
「大石は何を願った?」
「俺?手塚の夢が叶いますように、だけど?」
 あっさりと答えてみせる大石。
「お前の願いだぞ?」
「そうだよ。俺の願いは手塚と一緒だからな」
「だったら、俺の願いも大石と一緒という事だ」
 同じタイミングで二人の口元が綻んだ。
「そういう事になるね」
「ああ」
 同じタイミングで二人は頷き合う。


「そうだ」
 大石は手を合わせ、話を切り替えた。
「手塚、何か食べないか?お参りだけするのもなんだし」
「そうだな。大石、食べたい物はあるか?」
「俺の?」
「大石と同じ物が食べたい」
 淡々と恥ずかしい科白を吐く手塚。大石は一人顔を熱くさせる。
「俺だって手塚と同じが良い」
「困ったな」
「そうだな」
 首を傾げたり肩を落としたりして見せるが、大して困ってはいない。寧ろ幸せを感じていた。
「大石、見ろ」
 手塚は大石の肩に手を置き、もう一方の手で指をさす。指の示す方向には、テニス部の仲間である海堂がいた。
「海堂に聞いてみるのはどうだ」
「さすが手塚。そうしよう」
「見失う前に追うぞ」
 手を掴み、手塚が足を速めると、大石も歩調を合わせる。


 数分後、手塚と大石に挟まれて困り果てる海堂の姿があった。







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