時季外れのそれは、雪の中寒そうで。
 けれど、その鮮やかさに、俺は、思わず目を見張った。


 連想


 正月早々、雪が降った。
 寮に残っていたルドルフレギュラーメンバーは大喜びで、雪に埋もれる。
 それは、レギュラー陣の中で数少ない2年生、不二と金田も例外ではなく。


「すごいねえ」
「そうだなあ」


 雪の中、いつものジャージで走り回りながら、後から後から降る雪に、嬉しそうに目を細めた。
 最近雪が降ることが多いとはいえ、ここまで積もるのは珍しい。
 3年レギュラーの雪合戦の歓声を聞きながら、2年生コンビはのんびりと自分たちのつけた足跡を眺めた。


「やっぱり白いなあ」


 のほほんと言われた感想に、不二は吹き出しそうになるのを必死で堪える。
 金田は笑いそうな不二に気付くことのないまま、灰色の空に目をやった。


「なんかさ、雪が降ると殺風景になるなあ」
「・・それはそうかもな」


 一面の銀世界を見ながら、そんなことを呟きあう。
 白い世界は、何もかもを飲み込んで、ただ白く輝くだけだ。
 見慣れた風景がただの白い世界になるのを、2人で飽きもせずに眺める。


「そうだ」


 不意に、金田が声を上げた。
 不二がその声に金田を見る。


「どうかしたか?」
「うん、ちょっと待ってて」


 それだけ言うと、金田は寮の中へを走っていく。
 不二はそれを不思議そうに見つめた。
 何をするでもなく、金田の消えた方向を見つめていると、入っていった時と同じ勢いで金田が寮から出てきた。
 手にはなんだか黄色い物体。
 近づいてくるにつれ、それが向日葵の花だということが分かって、不二は眉を顰めた。


 今は真冬。
 向日葵は夏の花。
 なんで今、金田が向日葵なんか持ってんだ?


「お待たせ」


 不二に駆け寄り、にこりと笑う金田に、不二は少しだけどきりとしつつ。


「・・・・・何持ってんだ?それ」


 先程から疑問に思っていたことを口にした。
 ああ、と金田が手に持っていた向日葵を見る。


「これ?造花の向日葵」
 前に百均で買ったんだ。


 言いながらさくり、とそれを雪の中に挿す。
 何でそんなもん買ったんだ、と問いかけようとした不二は、その行為に思わず口を閉ざした。


 雪の中で揺れる造花の向日葵は、あまりにも鮮やかで。
 不二は、言おうとしていた言葉を、一瞬忘れてしまったのだ。


「結構綺麗だね」


 良かった、と笑いながら金田が不二を見る。
 不二の視界に、金田の笑顔と揺れる向日葵の花が、映る。


 どきん、とした。


 それが、あまりにも鮮やかだったから。


 白い世界で鮮やかに揺れる黄色は、いつもよりもその色を濃くして。
 けれどその中で笑う金田は、その向日葵よりも、もっと。


 ―――――もっと。


「・・・・・・・・い、だな」


 ぽつりと呟いた言葉は、金田には届かなかった。


「ん?」


 何?とばかりに金田が不二の顔を覗き込む。
 それに我に返った不二は、瞬時に顔を赤くして、ぶんぶんと首を横に振った。


「な、何でもねえ!!」
「・・・・不二、何慌ててるんだ?」


 いきなり慌てだした不二を、金田が不思議そうに見つめる。
 それに、不二はますます赤くなった。


「な、なあ、寒くならねえか?そろそろ、中入ろうぜっ」


 赤くなったのは寒さのせい、とばかりに不二がそんなことを言う。
 けれど金田は、そんな不二の言葉を疑うことなく飲み込んで。


「そうだね・・・中、入ろうか」


 素直にそう言うと、こちらは本当に寒さのため赤くなった耳を、少しだけ震わせて笑った。
 その言葉に、不二も少しだけ笑って、2人して寮へと戻る。


 さく、さくと雪を踏む足音を、黙ったまま聞きながら。
 不二は、背中越しに先程の向日葵に目をやった。


 そこにある向日葵は、白い世界の中、やっぱり、鮮やかに揺らいで。
 その花が、何故か隣を歩く同級生の笑顔を連想させて。
 不二は、慌てて向日葵から目を反らした。


 向日葵は、白い世界で尚も、鮮やかに揺れていた。







真名由斗様から相互リンクのお祝いに頂いてしまいました。
暖房の効いたこの部屋でも、息が白くなってしまうような素敵小説です。情景が浮かんでくるような、しっとりとした冬の雰囲気と、その中の裕太と金田が微笑ましいです。
本当に有難うございました。
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