#022.アルバム
「竜崎。もう良い加減にしてくれないか?」月の言葉をかき消すようにパシャッという音とフラッシュが焚かれた。
最新鋭のデジカメを手に、只ひたすらに自分を撮り続けている猫背の男を月は睨んだ。
「写真は処分するんじゃ無かったのか?」
苛々した表情を見せた月の顔をLがパシャリと撮る。
「別に月くんなら大丈夫でしょう?」
キラが自分自身を殺す訳ないから大丈夫だろうと言う。
確かにキラは自分だが、だからと言って例外にされても困る。
「良く無いよ。これが流出でもして僕が死んだらどうするんだ」
「厳重に保管しますよ」
何でも無いことのように言う。
しかしこの世に自分の写真を持っているのがこの男だけというのは納得し難い物がある。
「そんなに僕ばかり撮らなくても良いだろう?」
「いえ、月くんだけを納めたアルバムを作りたいので……まだ足りないくらいです」
なんだそれは。そんなアルバム作らないで欲しい。
そう思う月の手をLはぐっと引っ張る。
引き寄せられた手が離されて、宙を気怠げにおちた。その様だけを写真に納める。
「フェティッシュな写真」
「君の手はとても人殺しとは思えないほど綺麗なので、好きです」
相変わらず隠しもせず人を不快にすることを言う。
Lは手の甲にキスをして、それからやっと月の手を自由にした。
「自分の写真は撮らないのか?」
「用心深いので」
「厳重に保管するんだろう?」
Lは黙り込む。
厳重に保管してたって何が起こって流出したりするか分からない。
結局自分の身が可愛いんだろう?
「カメラ貸して。お前を撮るから」
「駄目ですよ」
「後でデータ消せば良いだろう」
無理矢理にカメラを奪う。
そのまま拗ねたように2人がけのソファに座り込んだLの真隣まで近付いた。
「私を撮るんじゃ無かったんですか?」
「撮るよ」
パシャッと言う音とともにLの頬に口付ける。
「月くん!今のっ」
「ははっ。割と振れずに撮れたけど、どうせ消すしね」
デジカメの最新データにはLにキスする月の写真。
自分で自分を撮るなんて普段しないが、結構上手く撮れる物だ。
「なんでこういう時だけサービスが良いんですか!」
「こういう時だからだよ。消すよ」
「待って下さい!消さないで!」
Lが強く訴えても、問題のデジカメは月の手の中だ。
月は人の悪い笑みを浮かべて手の中のデジカメを弄ぶ。
「このデータを消さない変わりに、他の僕の写真を消させてもらうよ」
「他のも大事なんですが……」
「じゃあ2人で写ってる写真を消すよ」
「嫌ですっ!妥協しますっ!」
「そう?」
その言葉に次々とカメラのデータを削除する。
データが一枚だけしか残って無いのを確認すると月はLにカメラを返した。
返って来たカメラを宝物のように抱き締める姿に呆れる。
「その写真どうするの?」
「……厳重保管です」
本当は自分の写真を残してしまうなんて許されない所なのだろう。
しかし自分だけの安全を確保しようだなんて虫の良い話だ。
「僕だけにリスクを負わせようだなんて100年早いよ」