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#028.1人で泣くなよ
もしもし。夜神くん、今お時間はあいていますか?
いえ、とくに用はないんですけど。
少し話しをしたくなりまして。
あぁ、本当に大した話じゃないんですよ。
ただこの間道ばたにダンボールが捨ててあったのを見たんです。
それで中をのぞいたら小さい猫がいたんです。
まだ生後何ヶ月も行っていなくて本当に小さかったんです。
でも私はLですから、普段から子猫を構ってられるような立場じゃないんです。
分かりますよね、私の立場。
それにそもそも私って動物あんまり好きじゃないんですよ。
だからその時は仕方ないと思ったんです。
放って置きました。
別に意図はありません。
ただなんとなくなんです。
まぁ、誰かに拾われるだろうと思いました。
私みたいな飼えない人間が拾う必要などないと思ったんです。
それで次の日たまたま同じ道を通ったんですけど。
そうするとやっぱりダンボールが置いてあったんです。
あぁ、まだ拾われていないのかと、そう思いました。
しかし子猫だけをもって行ったのかも知れません。
だからなんとなく中を覗いてみたんです。
すると中に子猫なんていませんでした。
それどころか少しですが血が付いてたんです。
事故にでもあったんでしょうか?
もしかしたら野犬にでも襲われたのかもしれません。
それとも誰かが戯れに殺したんでしょうか?
いえお気になさらず。
別に気にしてる訳じゃないんです。
ただそういう話があったと言うだけです。
それだけの話です。
ただ話したかったんです。
それだけなんです。








「流河」
「なんで夜神くんが後ろにいるんですか」
「声かけたよ。お前携帯に夢中だったろ」
 そう言って自分の手の中にある携帯を見せた。
彼が喋ると私の手の中の携帯から小さく声が聞こえた。
ほんの少しのタイムラグに声が二重に聞こえるような感覚を感じる。
 夜神が私の目の前まで歩いてきた。
じっと私の顔を見つめる。
「泣いてるかと思って来たんだ」
「馬鹿言わないで下さい」
「1人で泣くなよ」
「泣きませんよ」



ニャァ



 私の眼前に夜神が子猫を突き出してきた。
あの時の猫だ。
治療されている。
「夜神君……」
「この間拾ったんだ」
 夜神は猫を抱き直して子猫に子供をあやすような柔らかい声で話し掛ける。
「流河がちゃんと拾ってたら、こんな怪我しなかったかも知れないのに」
 同意するように子猫が小さい鳴き声をあげた。
「僕もお前も飼えないから、はやく飼ってくれる人探さないとね」
鮮やかに笑う。
私は手にもったままのまだ通話中の携帯を耳に当てた。





夜神君。
一言言わせて下さい。






大好きです。
タイトルを見た瞬間、月の口調だ!と思いました。






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