#031.真夜中の着信音
深夜も2時を過ぎれば大部分の人間は眠りにつく。月もその例にもれず穏やかな眠りを貪っていた。
住宅地に建つ夜神家の周囲の者も皆そうで、恐ろしく静かな世界を形成していた。
ピピピピピッ……
唐突に響いた電子音に静寂は破られる。
突然鳴りだした携帯を前に、眠る必要のない死神がおろおろする。
月は寝ているし、起こすのは後が怖い。
このまま携帯を止めてしまっても良いものかと思案する。
「リューク携帯取って」
後ろからいきなり聞こえた月の声に、リュークは驚きで身体をびくりと揺らした。
『ライト、いつの間に起きたんだ?』
「リューク。いいから携帯」
月は不機嫌なのを隠そうともしない荒んだ声で言った。
しかし真夜中に突然起こされたのだから、そんな声になってしまっても無理もない。
リュークは鳴り続ける携帯を机の上から取って月に渡した。
真夜中に携帯がなることは多くはないが、決して少なくはなかった。
それはくだらないダイレクトメールやチェーンメールだったり、時間をわきまえない友人からのメールや電話だったりした。
その時によって月は起きたり起きなかったり。
月は渡された携帯の着信相手に小さくため息を一つ吐いて、リューク相手の起こされた事の不機嫌を丸出しにした声から、真夜中の電話に少しだけ困っているような甘めの声にシフトさせた。
「流河、どうしたの?こんな夜中に電話して」
(相手はLか……)
Lは月の『時間をわきまえない友人』の最たるものだった。
時々嫌がらせかと思う様な遅い時間に電話をかけてくる。
しかもいつも理由は「話したくなったから」等たいした事じゃない。
リュークはふと、月が着信に気付いた時は必ず相手がLだと言う事に気が付いた。
そういえば月の携帯の着信はメールも電話もLだけ異なる着信音だ。
Lだとすぐに分かるようにだろう。
(相手に取り入るってのも大変だな……)
こんな夜遅くの非常識な電話にも必ず出てやって穏やかに対応する。
どんなに嫌だと思っても円滑な関係を保つ為に月は様々な我慢と努力をしている。
だが出た時は確かに不機嫌だった表情が、話しているうちにだんだんと楽しそうになるのはどういうことだろう?
何だかんだと言って月にとってLは話のあう存在なのだろう。
結局話をするのを楽しく感じてしまうようだ。
いきなり「話したくなった」と電話をかけてくるLと
真夜中の突然の着信にも楽しそうに話す月を見てリュークは思った。
(恋愛ドラマってやつのバカップルみたいだ……)