Text
#042.クリスマス
 クリスマス。
日本では何故か前夜祭の方が盛り上がっているうえに、既に恋人達のイベント状態となっているキリスト教の祭典。
子供の頃ならいざ知らずもうそれなりの年令になっている。
恋人だとかにうつつを抜かせる状況ではない月にとってあまり意味のないイベントだ。
 ただ『彼女』であるミサにとっては当然そうではないらしい。
一緒にクリスマスイブを過ごそうと言うミサの相手は大変だった。
なんとか今はキラ事件でそれ所じゃないんだと説得したのだが、今自分のいる部屋の状況を考えるとミサに言った言葉が嘘くさく感じてしまう。
 捜査本部ビルの上層にある月とLが使用している部屋は今、まごう事なきクリスマス仕様になっていた。
Lの方がやけに気合いをいれているのだ。
英国人にとってクリスマスは日本人で言う正月なみの行事だと言う。
どこの国籍だが知らないが、本人の言を信じるのなら少なくとも子供の頃にイギリスに居たはず。
そんなLにとっては気合いが入るのも当然の事なのかも知れない。
 どうせクリスマスを祝うのならばミサの誘いを断らないでやれば良かった。
ミサも1人で過ごすくらいなら竜崎と一緒でも良いと言っていたし。
「月くん月くん。ツリーが完成しましたよ」
 嬉々としてオーナメントを取り付けていたLが月に言う。
立派なツリーだ。
最近はプラスチック製も多いがしっかり本物の木である。
他にもクリスマスリースやキャンドルなどが周囲を取り巻いて入る。
「本当はじっくり祝いたかったんですけど日本ではイブに祝うのが普通だそうですし、
事件も忙しい今そんなに長々とクリスマスを祝う訳にも行きません。
ディナーの方は今日頂いてしまいましょう」
 一応気を使って自粛はしていたらしい。
「プレゼントの方は慣例に従って明日の朝と言う事に」
「へぇ、プレゼントくれるんだ?」
 まさかこの年令になってもらえるとは思わなかった。
反応を返して来た事が嬉しいのかLはにっこりと笑って言う。
「勿論。私は月くんのファーザー・クリスマスですから」
「…………くさい台詞だね」
 月ははしゃぐLを無視して飾られたクリスマスグッズを眺めはじめた。
色とりどりのそれらを見ているとなんとなく楽しい気分になる。 一つ一つをじっくり見ていると天井から吊るされた植物を見つけた。
枝についた大きな葉のまとまりには可愛らしい赤い実がたくさんついている。
ツリーもそうだったがこれもかなり立派なものだ。
「竜崎、これってヤドリギだっけ?」
 月の言葉にLが振り向く。
「そうですけど……月くん、今ヤドリギの下に居ますよね?」
 確認するLの言葉に上を向く。
目に入るヤドリギの赤い実が木の下に立っていることを証明している。
「うん、見れば分かるだろうけど」
 肯定の言葉を言った瞬間、月の手をLががしっと握った。
 驚いて月が少し後ずさるとそれに合わせてLが一歩前に出る。
「月くんっ!」
「何っ!?」
 続く言葉はなかった。
Lが突然月を抱き締めてキスして来たからだ。
なんとか逃れようと暴れるが同じくらいの体格の筈なのになかなか抜けだせない。
舌が入り込んで来て月はさらに暴れたが、Lも負けじと腕の力を強くする。
やっと唇が離れた。
殴ってやろうと腕をあげようとするが、いつの間にかに手首を握り込められて入る。
相変わらず用意周到なやつだ。
「何するんだ、竜崎……」
「月くんはkissing ballと言うものを御存じですか?」
 やけに嬉しそうなLの言葉に、キスで混乱した頭の中からその知識を探そうと必死に働かせる。


クリスマス……
ヤドリギ……
イギリス……


 3つをつなぎ合わせて月はLの言うkissing ballを思い出した。
Lの考えていた事も悟る。
はっとした月の表情にLはにこにこして言った。
「絶対に幸せにしますから」
「馬鹿な事言うなっ!」



kissing ball
イギリスの風習。
クリスマスにヤドリギの下にいる相手にはキスをしても良い。
恋人同士がキスした場合、結婚の約束を交わしたことを意味する。
Lは変にロマンチストだと良い。
イギリスにはとても良い風習が残ってますね。






menu