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#043.初詣で
 TVの中では恐ろしいほどの人の群れが初詣での為に移動を行っている。
こうして客観的に見ると凄まじい人込みだと思う。
この映像を見ても参拝に行くと言う人が毎年いるのは信じ難い事実だ。
「すごい人ですね。自らあの中に入っていく神経は信じ難いものがあります」
 同じ感想を持ったらしいLが呟いた。
「まったくね」
 月も同意のつぶやきを漏らす。
しかし月も数年前まではTV向こうの人々と同じ穴の狢だった。
多量の人に囲まれて神社迄の道をのろのろと歩く。
「あんなになってまで行くなんて何をするんでしょう?」
「お願いごとをしに、だろ?」
 中学の頃まで月も父や友人に連れられてなんだかんだと毎年参拝していた。
願いは月並みなものだったと思う。
 受験成功とか。
 お願いなんてしなくても月は受験に向けてしっかりと準備をしていた。
合格したのもその為だとは思う。
 だからと言って神に願う事が無駄だとか存在を疑ったりとかは出来ない。
後ろにいるからね、神様。
死神だけど。
「神に何を願います?」
「え?」
 唐突なLの質問に思わず聞き返す。
「月くんは神様に何をお願いしますか?」
 どんな願いごとが無難か考えてみるが、やはり当然結論はそれに落ち着く。
「やっぱりキラ逮捕かな」
 無難と言っても尤もな願いだろう。
しかしLの方は不満があるらしく眉間にしわを寄せている。
「それは神でなく私が実行する事です。他のものにして下さい」
 なんだその理由はと思うが黙っておく。
他のものってわざわざ違うものにする必要もないだろうに。
キラ逮捕以外だと何があるか……。
「月くん、私って結構富も権力も持ってるんですよ」
 そんな事は見ていれば分かるよ。
Lとして溜め込んだ財力と影響力は一般人の枠から出られない僕とは比べ物にならないって事は。
「だから大抵の事は神に願わずとも叶います」
 あぁ、そう。
だから何だって言うんだ。
「月くん。神に願うくらいなら私にお願いして下さい。
叶えますから」
 やけに自信ありげな表情だ。
確かにお前なら大抵の事は叶えられるだろうけど。
しかし神よりも上みたいなその言い分は少し傲慢にすぎやしないか?
 なんとなくそれが気に食わなく思え、困らせたくなる。





「じゃあ空が飛びたい」                                                                                                                                                                                                     





 月の言葉が意外だったのか、Lはきょとんとした表情をする。
「空ですか」
「そう。でもヘリとかハングライダーじゃ駄目だよ。
ちゃんと生身で風を感じられて自由に動けないと」
「難しい条件ですね」
「神様ならきっと叶えられるよ」
 そう言ってちらりとリュークの方に視線を送る。
いきなり話を振られた形になるリュークは少し驚いている。
『えっと俺が抱え上げて月の指示通り飛べば良いのか?』
リュークの言葉に答えるように月は問う。
「出来る?」
『そりゃあ出来るけど』
 空を自在に浮かぶ死神には当然の答え。
「ちょっと難しいです」
 富と権力を持つが人間でしかない男には当然の答え。



「竜崎、やっぱりお願いは神様にするよ」



 Lは不満そうな顔をしているが仕方のない事。
だって事実リュークは空を飛ばせてくれるしね。
「じゃあ神様にお願いしに一緒に初詣で行こうか」
「私とですか?」
「他に誰がいるんだよ」
 神様のリュークとじゃ、お参りは出来ないから。
人間同士たまには一緒にお願いごとをするのも良いだろう。
「お参りに行ったら月くんは空を飛びたいと願うんですか?」
「いや、違うのお願いするよ」
 Lは不思議そうな表情をする。
空を飛ぶのはリュークが叶えてくれるから、願う必要がないんだよ。
「では、何を?」
 Lの問いかけにどう答えようか、一瞬だけ逡巡する。
月はにっこりと花咲くような笑みで答えた。



「竜崎とずっと仲良くいられますようにって」



 その言葉にLはあからさまに不信そうな顔。
『お前性格悪いな』とリュークも言った。
 そうかな?リューク。
僕って結構神様の事、信じてるんだよ?
支離滅裂すぎた。
神様に嫉妬するLとLよりリュークのが好きっぽくありながら、
Lの事もけっこう好きな月?






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