習慣のカウント
「月くん。月くん」
呼びかける声に反応して瞼を開いて顔を上げると、決して慣れたくなかった馴染みの蛙顔が目の前にあった。横目で辺りを見回せば周囲はすでに明るくなり初めていてカーテンの裾から光が漏れている。暖かい光を受けながら竜崎が唇を突き出していた。
あぁ、朝のキスか。と月は半ば寝ぼけた眼でそれに口付けた。
いつもは触れるだけのそれがやけに長い。だんだんと竜崎の舌が月の口内に進入する。なんで朝からと月は思ったが、まぁ別に良いかと深いキスを受けていた。濃厚になり唾液の絡まる音が響く。
次第に熱でぼんやりとしてくる心を覚醒させたのは、静かだが動揺する少年の声だった。
「何してんの?あんたら」
下から聞こえてきた子供の声に一気に状況を把握して月は竜崎を突き飛ばした。その勢いで手錠が引っ張られてベッドに倒れ込みそうになる。月は咄嗟に手を付いて子供二人の上に倒れ込むのを回避した。ニアの身体にぶつかるギリギリの地点で踏みとどまった月はふうと安堵の溜め息を漏らした。
瞬間ぱちりとニアの目が開かれる。お互いの顔が10センチ離れないくらいの至近距離に月はどうしようかと悩んだがニアは平然と月に言った。
「おはようございます。月さん」
「……おはようニア」
月がなんとか答えるとニアが状況を察して腕の隙間から這い出た。月は腕を下ろして竜崎と繋がる手錠を引っ張った。弛んだ鎖が戻されて動く余裕ができる。
「邪魔くせぇ鎖」
メロの正直なコメントに月は苦笑した。
「確かにね。でも仕方ないから」
こうした謙虚な態度でいれば竜崎か誰かが外す事を提案するだろう。自分から言い出しては竜崎に疑われるかも知れない。
「で、さっきのは何だったんだよ」
「何が?」
問いかけの意味が解らず月が聞き返すと、メロはかぁっと頬を赤くさせながら吐き捨てるように言った。
「だから!さっきのキスは何だ!お前ら男同士だろ!」
メロの指摘は常識を持っていれば容易にでてくる当然のものだ。
その当たり前の反応に昔は僕も同じような常識の中にいたと月は遠い目をしてしまう。
「あれは挨拶です」
竜崎のいっそ清々しいまでの言い分にメロは悪態をついた。
「あんな挨拶するか!」
普通しないよ。と月は心の中だけでメロに同意した。
しかしそこは常人では計れない竜崎という男だ。
「私はします」
大胆に宣言をしてがしっとメロの両肩を掴んだ。そして凄みを利かせた表情のまま勢い良くメロの唇を奪う。
……正味3秒くらい誰も動けなかった。
まず最初に動いたのは被害者のメロだった。声になっていない無音の叫び声をあげる。その瞬間竜崎の臑に蹴りが入れられる。ニアだ。やっぱりニアも蹴りなのかと月が思う中、衝撃で外れたLの手をすり抜けてメロは洗面所に走っていった。その後を追うようにニアも部屋から出る。
「……何やってんだ?お前」
二人だけになった部屋での月の呟きは当然の物だったろう。しかしそんな事を意に介せず、竜崎はメロにした宣言と同じ様に堂々と言った。
「証明です」
「馬鹿?メロが可哀相だろう」
「月くんが答えにくそうだったので」
だからって実行するなよ。相変わらず破天荒と言うより常識知らずだ。
「二度とするなよ」
月が牽制する様に睨むのを竜崎は不満たっぷりの目で見返した。
「昨日会ったばかりだというのに、もう月くんはメロの味方ですか」
ニアにも甘いし、私はどうでも良いんですかとぶつぶつと呟いている。
「可哀相なのは僕だよ。何で僕が竜崎の他人とのキスシーンを見なきゃいけないんだ」
逆に呟かれた言葉に竜崎の愚痴は当然止まった。
竜崎としては月以外とのキス(それもあんなガキ相手)なんてカウントする物でもなかったのだけれど。
「月くん、嫉妬ですか? かわいいです」
くすりと小さく笑う竜崎に月はまた睨みつける。自分は子供相手にも嫉妬しているのに、竜崎は何も気にしていないことが腹立たしい。
「猫にキスしたような物じゃないですか」
フォローなのかさらりと言いのける竜崎にさらに月の頭に血が上る。もともと月はあっさりした性格だったのだが、竜崎の事となると妙に嫉妬しやすい。なんといっても恋人ができると言う妄想だけで嫉妬できたくらいだ。
「じゃあ僕も猫にキスしてくる!」
拗ねた月は宣言して手錠を引っ張って寝室から出ようとした。
その行動と宣言に焦りを感じる。竜崎が猫と呼んだのはメロなのだから月の言う猫もつまりそう言う事なんだろう。
「駄目ですよ、月くん!」
察したLが必死になって抗議をしても苛苛しているらしい月には通用しない。
そもそも先に手を出したのは竜崎なのだから。一回は一回。竜崎の言葉を借りるとそういうことだ。 「嫌だね」
月は鮮やかな笑みを返した。その表情に竜崎は黙り込む。
昨日の穏やかな笑みとは違うそれが竜崎に酷く懐かしく思えたたからだ。唐突な行動を怪訝そうに見つめる月に竜崎は「惚れた弱みです」と呟いた。呆れるかと思った月の口からは「ありがとう」という言葉と妖艶さを増した笑みを見せた。
ばしゃばしゃと水音が壁一枚隔てたこの部屋にも聞こえて来る。
月が竜崎を引きずりながら洗面所のほうへ向かえば、ドアの前でニアが床にぺたんと座り込んでいた。
「どうしたんだ、ニア? メロを見に来たんじゃなかったのか?」
疑問の声にニアは顔を上げて答えた。
「私が居ると、たぶんますます機嫌が悪くなります」
「お前達あまり仲が良くないのですか?」
竜崎も疑問の声を上げるとニアが少し言いにくそうに「まぁ……あまり」と肯定した。
二人一緒に現れたせいかセットのような感覚を覚えていたので、その事実は月にとって多少意外だった。
「あぁっ!くそっ!」
ドアの向こうからメロの悪態をつく声が聞こえる。そしてさらに響く水音に竜崎は自分が原因であるのに呆れた声を出した。
「ずいぶん煩いですね」
「ファーストキスだって嘆いてました」
月はニアの顔を歪めながらのコメントに心から同情してしまった。確かにファーストキスの相手が竜崎ではショックだろう。それと同時に自分もキスしてくるなんて宣言した事を後悔する。セカンドまで男だったらメロへの同情は増すし、まさかニアにしてさらに男がファーストキスという犠牲者を増やす事も忍びない。
「……朝の挨拶はやめておこう」
月の小声での宣言に竜崎は過剰すぎるほど反応した。がしっと腰を掴んで嬉しそうにしている。最近この男は幼児退行をしていないだろうかと、月は腰を掴まれたままこっそりと思った。その原因は記憶の無い月がなんだかんだと思いっきり竜崎を甘やかしたせいなのだが、記憶は持っていてもそれに結論が行き着かない月はため息をついた。
どうやら月の小さな声を拾っていたのはニアも同じだったらしい。「そうしてください」と月に言った。
ニアは月にとってメロ以上に年齢が離れていているのでキスをしようとしても竜崎の言う「猫」感覚にかなり近く思える。だが月がそう思ってもニアにとっては違うと月は頷いた。
「そうだね、君のファーストキスを奪う真似はできないよ。だからしない」
月の冗談めいた語り口とは対照的にニアは心底真面目な顔でその台詞に訂正を示した。
「私の場合はファーストキスじゃありません」
ニアの主張に思わず月と竜崎は目を見張った。出てくる感想は同じ物で「マセガキ」という一言。
ニアは驚く大人達の姿に多少気分を和らげていた。実はメロのファーストキスという言葉に少しだけショックを受けていたからだ。
ニアのファーストキスは遡ること2年前、メロが寝ている間に彼の唇を奪ったと言うもの。寝ている間なのだから仕方ないが、メロには当然カウントされていない。なんとなく一番に拘るメロの一番を奪ってやろうと行ったのだが、起きてる時にすれば良かったなどと後悔中だった。そうしておけば後で色々と遊べたのに……
「もうファーストは経験済みって、ニアは大人だね」
月はニアの主張をすぐに微笑ましいものだと解釈してにっこりと笑った。ニアもそれに反射するように微笑みかける。
「はい、だからセカンドはあげられます。でもロマンチックにしたいので朝の挨拶はしないでください」
ませているというより気障ったらしい台詞に月が驚いて言葉を返す前に竜崎の手が伸びてニアの頭を鷲づかみにした。唖然とする月を無視して竜崎はニアを睨みつける。
「あまり調子に乗っていると敵と認定しますよ」
「世界のLのライバルになれるとは光栄です」
きょとんとして子供っぽく喜んで見せる。竜崎は予想外の反応に一瞬ひるみ手を緩めてしまった。
その隙にさっと抜け出たニアはようやく洗面所のドアを開けてメロに「顔を洗いたい」と主張する。暫くするとメロは平然とした表情で洗面所から現れた。ライトたちを一瞥すると少しだけばつが悪そうにして離れていく。
ニアの日常の演出に乗る事にしたのだろうと月は推察した。小さな子供だけれど気の使い方は既に一人前のように思えた。
そう感心している月に竜崎がこそりと耳打ちする。
「月くん、あの子供絶対性格悪いですよ」
竜崎から見て明らかにニアの行動は明らかに作為的だった。あの場でLの後継者ともあろうものが松田のような事を本気で思うはずが無い。絶対に言った意味を分かっていて天然ぶって見せたのだ。
「少しませてるだけだよ」
しかし月は取り合ってくれない。あの夜神月が騙されている?と現状を危惧する竜崎の唇にふっと月の唇が寄った。
ちゅっと小さな音を立てて触れ合うのを竜崎は呆然としながら見つめる。
「嬉しいですけど、私何かしました?」
「嫉妬したから」
「メロに?」
「違う、ニアに。お前が」
「ご褒美だよ」
月は嫣然と微笑む。彼の笑みはどんな物でも魅力的だと竜崎は思っていたが明らかに今までと違うと実感する。
いや、戻ったと言うべきか。竜崎としてはやはりとは思わずに居られない。
監禁を経て性格の変化した月はまた元の『キラ』だと疑っていた頃の性格が感じられるようになった。
こうなってしまっては仕方ないだろう。勝てば良い話だと竜崎は常々思っている。
「それはありがとうございます。私からも嫉妬してくれた月くんにご褒美を差し上げたいです」
月の変化に気付いた事にもおくびにも出さずに竜崎は答えた。
竜崎の言葉に月は少し嬉しそうに頬を染めて耳元で囁く。
「ロマンチックなキスが良いな」
ニアの主張に影響されたらしい。そんな月の姿はついこの間までのキラの抜けた月に良く似ている。
これも演技だろう、ニアのように。それが少しだけ悲しかった。
しかし姿は演技でも『キスがいい』という言葉は真実だ。竜崎は月の手をとって、その甲に口付けた。
「今度、最高のをセッティングさせていただきます」
少し気取った仕草に竜崎の珍しい冗談を感じたのか、月は微笑んだ。
それが『キラ』の物か『月』の物かをいまいち判別できなかった事に竜崎は鈍ったかもしれないと少しの自己嫌悪を内心で示した。
またも部屋の中で水音が響いていたが、今度は洗面所からではなく部屋に設置されたキッチンからの音だった。
そこでは竜崎が椅子に座り、その横で月がてきぱきと朝食の準備をするという光景が見られた。
どうしても昼や夜はデリバリーが多くなってしまうが朝食くらいはと月が作っている。しか4人分となると流石に忙しいらしい。せわしなく動いているのを気遣い、竜崎は手錠に余分を持たせようとなるべく動かないようにしていた。竜崎なりの気遣いだ。他の物が見たらそうは見えないだろうが、家事の徹底的に出来ない竜崎が動くよりはよほど協力していると言える。
トーストを焼き上げた所でお皿を用意してなかったという事に気付いた月は横から4枚のお皿が差し出された事に驚いた。隣を見ればニアがお皿を月に差し出している。
「ありがとう、ニア」
手伝ってくれた事に礼を言うとニアはとても不思議そうに首をかしげた。その反応が不思議だった。
まだ知り合って間もないがニアなら照れたように笑うのではないか。そんな事を月は予想していたからだ。
「おい、ニア。何飲む」
冷蔵庫の前に立っていたメロがニアに訊くのを聞いて月は少し目を見張った。ニアが仲が悪いと言っていたし、メロ自身の性格もそんな事を聞くようなタイプじゃないと思っていたので意外だった。結構仲が良いんじゃないかと月は機嫌を良くする。
ニアはメロの質問にいつもの事と言った感じでさらりと答えた。
「ミルクで。メロは?」
「コーヒー飲む。あんたも?」
後半の言葉は月に向けてだった。問いかけられた事に驚きながらも頷く。まさか自分まで訊かれるとは思わなかったからだ。
メロは冷蔵庫から牛乳をニアは食器棚からカップを持ってきて、二人して3人分の飲み物を用意する。その姿があまりにも意外で月には不思議な光景に見えた。二人ともそういうことをするタイプには見えなかった。
「L…っと竜崎はコーヒーのお代わりいる?」
メロの質問に竜崎は首を振った。手の中には月が入れた甘いカフェオレがまだ残っている。それに竜崎としては月の手を多少煩わせても朝は彼の入れたコーヒーが良かった。少しのわがままだ。
「ライト、他に手伝う?」
「いや、もう大丈夫だよ。座ってて」
率先して手伝うメロの姿にライトはほんの少しの感動を味わった。ダイニングに設置してあるテーブルに座る二人の子供の印象は、かなり良いものに変わってきていた。
テーブルに並べられた簡単な卵料理とサラダ、トーストを前に4人で座る。
メロとニアの二人は手を組んでお祈りするようなポーズをとってから「いただきます」と二人同時に言った。ややメロのほうは真面目さを欠いていたがたいした問題じゃない。
そんな風に食事をするなんていうのも当然二人のイメージの中になかった。幼い頃の給食の時間を思い出させるやり取りに月は微笑ましさを感じた。
かちゃかちゃと食器が動く音が響く。
月はいつもの事なのに竜崎の食事をする様が酷く見苦しく思えてしまった。
今まで比較対象がいなかったのだから仕方が無いかもしれない。
見る限り竜崎の食事の取り方はこのふたりの子供たちに劣る。ぼろぼろと汚くして食べるのも竜崎がそうしてしまうのも仕方ないとは分かっているのだが、さすがに目の前に明確な比較対象が出来るときつい物がある。
「竜崎、もっと綺麗に食べろよ」
「月くん、いつもはそんなこと言わないじゃないですか」
竜崎の抗議に月は口ごもる。
確かに言わないが子供より劣るというのに竜崎自身はどうも思わないのだろうか。
そこまで考えて月はそれくらいで直すくらいなら竜崎の食事の仕方などもっとましだと思い直した。
まともな食事を取るようになった分矯正はされているのだろうから。
そういう風に竜崎を非難してしまったのはメロとニアの行動が意外すぎたのかもしれない。
特にメロは元気が良すぎる、粗野な印象を持っていた。しかしその印象からは予想できないほど行儀が良い。
料理の手伝いや食事前の挨拶。食事中もきちんと座ってるし食事を零したりもしない。
「で、手伝う事は?」
食事後のメロのその一言でその好印象が更に上がった。
その申し出は嬉しかったが、片付けはたいした量でもない。
「片付けは構わないよ」
気持ちだけ貰って置くと言うとメロもニアも驚いたように眼を丸くしていた。
「しなくて良いのか?」
「あぁ、大丈夫……」
月がもう一度答えると半ばうろたえた様な表情でニアが小さくお辞儀をした。
「ありがとう……ございます」
何故か逆に感謝の言葉を貰った月は二人が不思議そうな表情で宛がわれた部屋に戻っていくのを眺めていた。
あぁして不思議そうにされるとこちらの方が疑問を覚える。
「月くん」
三人でのやり取りを静観していた竜崎がひょいと椅子から立ち上がって月の隣に立った。
洗い物をしようと月が蛇口に手を伸ばすと竜崎が先にコックをひねる。今のは手伝われたのだろうか?
「あの二人気に入ってきましたね」
「うん。思ったよりいい子だし」
あの分ならちゃんと言えば捜査本部でも大人しくしてくれそうだ。意外と扱いやすそうだし、仕草や行動も子供らしくて可愛く思えた。「竜崎も二人を見習えよ」
半ば冗談で少しも期待していなかったのだが、その言葉に竜崎は吟味するような沈黙を置いてから恐る恐る皿を手に取った。
「落としたらすみません」
「構わないよ」
相変わらずの摘むような持ち方なので、とても綺麗に洗えたりはしないだろう。しかしそうして手伝おうとしてくれている事が嬉しかった。
「気持ちだけで良いと解釈しても」
「うん、良いよ」
月の答えに竜崎は小さく嬉しそうに笑った。その瞬間手が滑ったのか竜崎の指から皿が取り落とされた。落ちた皿は溜めてあった水にしぶきを上げて落ちる。
「すみません」
「別に割れてないし」
気にすることは無いと言っても一度取り落としたせいか竜崎の手は止まってしまった。
くるくると排水溝に水と泡が吸い込まれていくのを眺めるに終始している。暫くしてからぼそりと竜崎は呟いた。
「気持ちだけでいいのはあの二人も……ですか?」
「うん。まぁ、それはね」
別に手伝おうという意思を受けて好意を抱くのは竜崎に限定した心の動きではない。
メロやニアでも竜崎でも誰であっても、自分への気遣いを受ければそれなりに思うところがある。
「あの二人は……たぶん気遣ってるわけではないと思いますが」
「どういう意味だ?」
「あれは習慣です」
竜崎はきっぱりと断言した。妙な自信だと思う。竜崎は月と同じ時間しかあの二人と時を共有していないのに。
月の疑問を読み取ったのか竜崎は口を開いた。
「分かるのは彼らのもともとの生活環境を知っているからですよ。
……私には集団生活の経験がありませんでした。そしてあの二人は逆に集団生活の経験しかないんです」
「だから?」
「だから気遣ったりしない。数十人での共同生活を物心つく前から強制されている。考える前に習慣化してるんですよ」
あの二人は孤児で施設育ちだからと竜崎に言われ月は口をつぐんだ。
しばらく排水溝に水が流れる音が響いた。泡に包まれた皿を水に晒すと一瞬で綺麗に流れ落ちる。
「悲しいな」
月は素直に思った事を呟いた。それは月が、少なくとも家族に関しては恵まれているという証明でもあった。
同じ部屋に4人もいるのにちゃんとした家族を持っているのは自分だけなのだ。
洗った食器を水きり棚に並べて月は固まった身体を解すように伸び上がった。
時計を見ればそろそろ捜査本部へ向かわなければいけないだろう時間だ。
「そろそろ下に降りる準備をしないとな」
声のトーンは自然と暗い物になってしまった。さすがにあんな話を聞いた後だから仕方が無い。
「そうですね。二人を呼びましょう。邪魔しないようにちゃんと言わなくては……」
「何?もう行くの」
竜崎の言葉はメロに遮られた。ドアを少しだけ開けて顔を見せているメロに月の胸が少し痛んだ。
まさか同情されているなどと知れたらメロは怒るのだろうが。
部屋から出てきた二人は連れ立って月達の前まで来る。月は目の前に立っているニアのふあふわとした髪の毛を手で撫でた。
「なんでしょう?」
「さっきは手伝ってくれてありがとう。嬉しかったよ」
ニアの表情はきょとんとしていて、本当に分かっていないのだと月に実感させるのに十分だった。
頭を撫でている月を見てメロが小さく悪態をついた。
「……良かったな、ニア」
不機嫌そうな表情とまるで揶揄するような口調で言うメロにニアはにやりと口を歪めた。
軽く今までの印象が崩れそうな見たことの無い表情だ。
「嫉妬ですか、メロ」
「誰が!!」
気が立った猫のように毛を逆立てて反駁するメロに月は密かに笑った。確かにこのままじゃ不公平だ。
「メロもありがとう」
金の髪に手を差し入れて撫でるとメロの頬が一気に紅潮した。
「うるさい!ガキ扱いは止めろ!」
身を翻して離れるが未だ顔を朱で染めている。子ども扱いの恥ずかしさからだけではないな、と竜崎は分析した。
習慣を褒められるなんて予想だにしていなかったのだろう。
ニアのほうも意識しているのかしていないのか月の腕に縋り付く様につかまっている。
明らかに一癖ありそうなのはニアのほうだったというのに。
じゃれ付く三人の様子を見て竜崎は呟いた。
「これは意外と早く『習慣』じゃなくなりそうですね……」
いつも以上に支離滅裂でお送りします。
視点定まらねぇ…読みにくくてすみません。
本当は手錠外しまで行くつもりだったのに長くなりすぎました。
ていうかニアが攻め出しましたね。メロと月に。
(ニア月はともかくニアメロは予定カプに入ってないのに)
個人的にニアは総攻め、竜崎は最攻め(最強の攻め)です。
menu
視点定まらねぇ…読みにくくてすみません。
本当は手錠外しまで行くつもりだったのに長くなりすぎました。
ていうかニアが攻め出しましたね。メロと月に。
(ニア月はともかくニアメロは予定カプに入ってないのに)
個人的にニアは総攻め、竜崎は最攻め(最強の攻め)です。
menu