Fall Down 02
「さてどうするか」
教会から抜け出たライトは草むらに己を封じていた本を抱えて座り込んでいた。
燃やせないからといってこんな自分の弱点になりそうな物を放置する訳にも行かなかったからだ。
これからどうするべきか。考えて込んでいると、ふと背後に人の気配を感じた月は慌てて物陰に隠れた。
横切る金髪女性が気付いていないのを確認してほっと一息つく。その行動にリュークが一言。
『なんで隠れるんだ?』
「こんな格好で出歩けるか」
現在時刻はお昼のまっただ中で、夜に活動するライトには馴染みない時間だ。
明るく穏やかで健全な日差しの中では月の格好はあまりにそぐわない。
意図的に切れ目を入れて肌を露出させているその服は淫魔としては別に構わないが、昼の直中にこの格好で出歩けるほど月は常識知らずではなかった。
『で、外に抜け出したけどこれからどうするんだ?』
「おそらくずっと教会に縛り付けられたために力を失ったんだ。たぶん精気でも補えば力は戻る」
口に出せば簡単そうだが以外と難しい。魔力を失ったライトは普通の人間と変わらない。相手を虜にする力も強引に押し付ける力もない。
加えてこの田舎町。都市部ならまだしも田舎ではなかなか相手も見つからないだろう。
「しかしまずこの格好をどうにかしないと人前に出れないな」
己の格好を見回しながら呟く。羽根を仕舞っているライトは服さえなんとかすれば旅人だと偽れる姿だ。
淫魔の姿は飛行のための羽根以外は人間とそう変わらない。羽の出し入れが魔力に依存した物じゃなくて良かったと心底思った。
『さっきそこに洗濯物が干してあったぞ。スカートだけどな』
「リュークは僕に盗みを働かせた上に女装しろと?」
『女装じゃないだろ?』
ライトの拒絶の答えにリュークは不満げだ。それはインキュバスが性別を変えられる存在だからだろう。
インキュバスが女になるとサキュバスと呼ばれる。相手や都合によって性別を変える種族に女装も何もないだろうとリュークは考えているらしかった。しかし基本的には望んで男として活動しているライトは己を男性だと考えていたし、力を失った今は性別を変えられない。
自分がどう思っていたって男の格好をしている以上スカートを履けば立派に女装だ。
しかし……
「背に腹は変えられない……か……?」
ライトは淫魔の癖に神様ごめんなさい。と内心謝ってから意を決した様に立ち上がった。
ライトが立ち去った小さな教会の中、憮然とした表情で頬を膨らます少年二人をエルはじろりと睨んだ。
「何か弁明は?」
「ないよ!」
「ある訳ありません」
きっぱりと断言する二人にエルは溜め息を付いた。
「お前達が罰掃除に向かってから行って帰ってくる分くらいしか時間が経っていません。片付け終わったなど嘘でしょう?」
「嘘じゃないって!全部片付いてるよ!」
メロがなおも主張するがとうてい信じられるわけがない。そろそろ面倒くさがりなニアが主張に飽きて真実を話すだろう。
しかしそう考えていた矢先にニアがメロの意見を養護する。
「エル、本当に片付いてますから。信じられないなら資料室に来て下さい」
いつもとは違う展開にエルは少しの新鮮さを覚えた。既に飽き始めていた繰り返しの日が終わりそうな気配だ。
「わかりました。資料室に行きましょう」
そう答えると二人の子供は先導するように駆けだした。向かう先の資料室は廊下の一番端の扉だ。
メロ達が資料室のドアを前にエルを待っている。二人に示されて扉を開けると確かに主張する通りにきれいに整理された本棚があった。
ご丁寧に分類まで分けられている。
「いったいどうやって……」
「とにかく終わってるんだから良いだろ?」
「駄目です……ワタリ!」
名を呼ぶとどこからともなく現れる。有能な右腕であるワタリは常にエルの側に控えている。
「ワタリが片付けたのか?」
きちんと仕舞われた本棚を見せると彼は首を傾げる。
「いえ、エルが罰にすると言っていたのでしていませんよ」
「そうなんですか?」
ワタリの答えに声を上げたのはニアだった。片付いていたのを見て自分達がやったことにしようと考えたらしい。
「やっぱりやってなかったんですね」
「そんな事より僕らでもワタリでもないんならだれかが入ったって事だよ!」
メロが誤魔化すように大声を張り上げて主張する。
しかし確かに誰かが勝手に公に解放されていない部屋に入ってきているというのは由々しき事態だ。
「本が一冊なくなっていますね」
ワタリが本棚を示した。確かに散らかす前は余す所なく棚には本が敷き詰められていた。今はちょうど一冊分ほど余裕がある。
「無くなったのは何の本でしょうか?」
目録と参照させ調べさせようと口を開こうとするが、その前にニアが髪を弄びながら発言する。
「確か黒い表紙の変な本です」
「分かるんですか」
「さすが本の虫」
エルと、メロの少し意地悪めいた言葉にニアは頷く。
「表紙に題字がない変わった本なので覚えてました」
「中身は?」
「悪魔がどうとか……下らない御伽噺でしたよ」
仮にも教会で神の敵について綴った本を下らないと吐いて捨てる。しかしそれには神父であるエルも同意見だ。
「私がそんな本を持っている訳ないですし、前任者の物でしょう」
それよりも勘違いでなく本当に本が無くなっているのだ。
「大した被害ではなさそうですが親切な物取りがいた様です。まだそう遠くには行ってないでしょうから、追いかけますよ」
エルの言葉にメロとニアが頷いて駆け出す。
珍しい出来事に彼らは浮ついていた。二人もまた退屈だったんだろう。
「ワタリは一応金目の物が取られてないか確かめて下さい」
言いおいて自分も外に向かう。心臓がドキドキと脈打った。
先に行った二人を子供と笑えないなと、エルは高鳴る心臓を抑えた。
この田舎町に本を持っている人間はほとんどいない。高価だし字が読める者も少ないからだ。
だから本を持って歩いているだけでもかなり目立つ。早々に売り払っても売った相手に覚えられているだろう。
通りすがる何人かを捕まえて犯人について聞いていると、くすくすと言う華やかな笑い声が聞こえた。
振り返れば妙齢の美女がエルを見て笑っている。
「なんですか?ウエディ」
「貴方が率先して話しかけてるなんて珍しいのね」
「えぇ、ちょっと珍しい事が起きたので」
事のあらましを説明するとウエディは少し人の悪い笑みを見せた。
「まさか私を疑ってなんかいないわよね」
彼女は職業として盗みを働いている。いわゆる泥棒だったが、自尊心が高く下らない物は盗まない。
悪戯ならともかくたかが本一冊を盗んだりしないだろう。
「疑う必要もありませんよ」
そう答えると彼女は微笑んでありがとう、と答えた。
「信じてくれたお礼に犯人を紹介するわ」
「知ってるんですか?」
エルの声には失望が混じっていた。
せっかく現れた非日常がすぐに終わってしまった事への落胆だ。それに気付いてウェディが笑う。
「私の家に招待しているの。どうせなら罪人ばかりのお茶会に神父様を招待するわ」
L月どころかまだ出会ってません。
次回会うので暫しお待ちを。
インキュバスは女性に変化可能と言う設定にしてありますが
別に女体化させる気はありません。会話の中に上る程度です。
(本当に駄目な人にはごめんなさいです。)
ここで私のうろ覚え知識を披露〜
インキュバスとは本来女性に子供を孕ませる魔物ですが、インキュバス自身は精液を持ちません。
故に女(サキュバス)に変身して男性に淫夢を見せて精液をぶんどって子供を作ります。
と言うわけで女性変化可能にしてみました。
しかし本来のインキュバスにこだわると話が出来ないのでこのライトさんはただのエロ悪魔です。
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次回会うので暫しお待ちを。
インキュバスは女性に変化可能と言う設定にしてありますが
別に女体化させる気はありません。会話の中に上る程度です。
(本当に駄目な人にはごめんなさいです。)
ここで私のうろ覚え知識を披露〜
インキュバスとは本来女性に子供を孕ませる魔物ですが、インキュバス自身は精液を持ちません。
故に女(サキュバス)に変身して男性に淫夢を見せて精液をぶんどって子供を作ります。
と言うわけで女性変化可能にしてみました。
しかし本来のインキュバスにこだわると話が出来ないのでこのライトさんはただのエロ悪魔です。
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