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偽名
他人の息遣いがこんなにも気になるなんて初めての経験だった。
僕以外の息をする他人……流河は溜め息を付いて古ぼけて少し黄ばんだシーツの上に腰を降ろした。
「夜神くんも座ったらどうです?」
「冷静だな。閉じこめられたのに」
「いずれ従業員が開けますよ」
 あっさりとした物言いだが、確かに規定の時間を過ぎても部屋から出なければここの主人か誰かが鍵を開けてくれそうだ。
もっとも理由は中で何かあったとかの不審感からではなく、ただの追加料金の請求だろうが。
 僕はその言い分に納得して、扉との奮闘を諦めて流河の隣に腰を下ろした。
ここに椅子はないので座るならベッドしかない。二人分の重みでベッドが軋んで悲鳴をあげた。
「寺椅の奴、何考えてるんだ」
 座ったとたん出て来てしまったのは寺椅への愚痴だった。
僕の苛立ちの篭った呟きに流河も頷いて同調する。
「えぇ、彼は質が悪い。最悪です」
 流河は忌々しい物でも見ているような表情だ。
本当に苛ついているのだと分かったが、僕はそこまで寺椅に対して怒る気にはなれなかった。
寺椅は特に何か考えて行動を起こした訳ではないだろう。
せいぜい仲良くなりたい流河の為に僕への恋を(といってもそれは寺椅の勘違いなんだが)応援しようと思ったくらい。
「悪気があったわけじゃないさ」
 そう寺椅を少しだけ擁護してやれば流河は信じられないといった表情で僕を見た。
「夜神くんは寺椅の味方ですか?」
「そうじゃないよ」
 大袈裟な反応に呆れていると、流河はふっと真剣な目をして僕を見た。
射抜くような鋭さは流河旱樹ではなく『L』のものだ。
「夜神くん、悪気がないから質が悪いのですよ。悪意を持っている方が分かりやすい分まだマシというもの」
 吐き捨てる様な言葉に僕はとても同意出来なかった。
Lはたくさんの悪意ある人間と勝負して来たからそう言うのだろう。
しかし僕には悪意ある方がマシだなんて思えない。そういった意志があるからこそ、この世界から犯罪はなくらならない。
「そういえば流河は何でここに?」
 話を逸らす意味合いを含めた質問だったが、それは単純な疑問でもあった。
一応Lと言う話が本当ならば流河は捜査本部の長をしているはず。
それなのにこうも簡単に抜け出していて良いのだろうか?
「あぁ、それは大学から帰ろうとしたら寺椅くんに声をかけられまして。
それで夜ここに来るようにと」
「それでのこのここんな所までやって来たの?」
 まるで間抜けに対するような僕の言いぐさに流河は心外だと言う様に顔を歪めた。
「夜神くんに関するとっておきの情報をくれると言われたのですよ」
 なるほど。確かにその理由なら流河が出ないわけには行かない。
しかしその一言で人嫌いとも思える流河がこんな辺鄙な場所へもやってくるのだから、寺椅が流河の僕への感情を勘ぐるのも仕方がない様な気がした。
「夜神くんこそ何故このような場所に?」
「流河と似たようなものだよ。寺椅に遊ぼうと誘われて来てみたらこれだ」
「ずいぶんな遊びですね」
「まったくね」
 その言葉を最後に僕と流河の会話が途切れる。唐突に訪れた沈黙は妙に居心地が悪かった。
気味の悪い空気に拍車をかけるように流河は何を言うでもなく、隣から僕を凝視する。
耐えきれなくなり、僕は何か話でも切り出そうかと口を開こうとした。
だが僕の声が音になるより先に流河の台詞が耳に入った。
「遊びに来たのにここに来たんですか?ここがどういう場所か分かっていて?」
 ここ。つまりこの場所の意味を流河は理解していると言う事か。
「流河こそ来たじゃないか」
「重要な話をするのには最高か最低の場所が打ってつけです」
 自分は何も恥じることはないというような(実際恥じるところなどない)言い分に僕はどう言い訳したものかと思案した。
上手く答えられずに口篭っていると流河はぼそりと呟いた。
「月くんは何故?まさかとは思いますが……」
 あぁ、言うつもりなんだなと僕は無感動に流河を観察していた。
「月くんは寺椅と寝るつもりでしたか?」
 恐る恐るといった流河の様子が可笑しかった。
気遣いなんてかけらも持っていないくせにどうして僕の顔色を伺うようにしているのか。
「寝るつもりだったさ」
 開き直ってしまえば特に感慨もない。
「どうしてそんな事を?寺椅とそんな事をするような仲には見えなかった」
 僕は流河の失望するような眼に何をいまさらかと思った。
こうして男と寝るよりも酷い殺人犯として僕を疑っているのだから、この程度のことで失望する必要はないだろう。
「特に気にせずについて行っていたからね」
 説得力のない言い訳を口にしてみれば流河はすかさず突っ込んでくる。
「貴方だったら口先三寸で寺椅を言いくるめられたでしょう?」
「そうだね……でも、もうどうでも良かったんだよ」
 自分でまったく感情が読めないと思うくらい何もこもってなかった。
少しくらい嫌悪が出ていれば良かったのにと自分の事なのに他人の様に感じてしまう。
 確かに寺椅を言いくるめるなんて簡単なことだったけれど、僕にはそれをする気力がなかった。
昔過ごしてきたこの空間は僕の中に確かにあった無気力な自分が顔を出してくる。
「そんなことは言わないでください。貴方にはそんな感情は似合わない」
 まるで僕に夢でも抱いているかのような言葉だ。
流河は僕の無気力時代を知らないから、似合わないだなんて簡単に言えるんだろう。
 すっと流河の手が伸ばされて僕の頬から頤にかけてを触れた。
労わる様なそれに笑いたくなると同時に、普通友人に対してこんな事はしないと頭に浮かぶ。
 そこで思い出したのは昼間のやり取りだ。
流河は僕に好意など抱いていないと言っていたが、こうして言う位だからまったくの嘘等ではないのかも知れない。
試してみる、価値はある。
僕は口端をあげて流河に微笑んだ。流河の眼球に写った僕は売女の様な薄汚い表情をしている。
「夜神くん?」
 僕の表情の変化に流河が訝しげな表情をする。
手を伸ばして肩に触れると流河の体が一瞬ひるむように跳ねた。
妙に強張った体が面白くて僕は笑った。避けられた手で首元にあった流河の手を握りこむ。
流河の手は節ばっていて意外と男っぽい。
その甲に僕は唇で触れた。
「何をしてるんですか?」
「昼間の続きをしようかと」
 言うと流河は明らかに表情を変えた。
焦りの表情にやはり昼間のことは流河の中で失態なんだろうな、と遠い事のように思った。
「夜神くん……止めなさい」
「良いじゃないか。ここはそういう場所だし」
 引く気のない僕の手を強引にはずして流河がベッドの上を少し後ずさった。
それでも近付こうとする僕を流河は腕を振り退かせようとする
しかし本気とは思えないその腕はスピードも反射も遅く、簡単に捉えることができた。
「止めてください」
 咎める声を無視して僕は流河に圧し掛かってその白いシャツに手を差し入れた。
直に触れた流河の体温の暖かさにも、やはり僕は違和感しか感じられなかった。
「興味ないわけじゃないんだろう?従業員が来るまで暇だ」
 流河の手が伸びて僕を突き飛ばした。そんなに強いものではないかったので、僕はベッドの上に転がるだけで済んだ。
流河が本気で抵抗し始めたのかと僕は思ったが、意外なことに流河の腕はいったんは引き離した僕の体を自分の元に寄せる。
そのまま自分からは動けないような体勢で僕は流河の体に納まった。
流河の手が僕の背に回されたところで、僕は自分が抱きしめられているのだと知った。
「夜神くん、嫌な事はする必要はない。自分の身体を大事にしなさい」
 何を言っているのだろうこの男は。ご大層に説教でもするつもりか?
そう皮肉を込めて笑ってやりたかったが言葉を紡ぐことはできなかった。
それなのに感情が泣きそうになるくらい高ぶる。
けれど涙なんて少しも出てきやしなかった。
このシチュエーションに見合った月並みで陳腐な台詞は流河みたいな人間には似合わない。
「流河、嫌な事を進んでなんてするはずないだろう?」
 笑みを作ってそう言ってやっても流河は頭を振って否定した。
「いいえ、君は嫌なことでもする人だ」
 それは僕がキラだからという事なんだろう。
そこまで解っているのなら拒否しなくてもいいじゃないか。
どっちに転んでも同じなのだから。
「嫌なんかじゃないよ。寺椅とするのより全然良い」
「寺椅……より私の方がましだと?」
 初めて流河が否定とは違う感情を示した。
内心で寺椅と自分を比べているのだろうか?
 もしここで流河が好きだからとでも言ったらどうなるのだろう。
言えば流河はますます僕を疑うに違いない。キラだからそう言っているのだと。
一度流河は僕に興味を示していたから、流河と関係を持って利益を手に入れることを望んでいると。
だから僕は正直に寺椅との違いを口にした。
「流河と寝ても、僕達の関係は変わらないから」
 偽りの名前。偽りの身分。偽りの関係。
だからどんな事をしても壊れることなど絶対にない。
絶対に意味を持つことのない行為だから、僕には何もマイナスがない。
 正直に答えたのに流河は項垂れていて、僕の答えには不満だった様だ。
俯いてしばらく黙り込む。背に回った流河の手が握るような形になって、シャツの布地越しに引っかかれた。
擦った感触に痛みを感じる。
流河はようやく顔を上げて僕をまっすぐに見た。
「成程」
 言った流河のその表情に僕は一瞬怯みを見せてしまった。
感情を余り表に出さない流河の表情が酷く酷薄そうに見えたからだ。
 流河の手が僕の背を離れ、服の襟を捩る様に掴み上げた。
そのまま勢い良くベッドに叩き付けられて衝撃に軋んだ音が部屋に響く。
ベッドに仰向けに転がった僕の腹の上に流河が乗り上げた。流河の手が僕のシャツの開きに掛かる。
 流河の腕が勢い良く引かれて、音を立ててボタンが弾け飛んだ。
部屋の冷たい空気が僕の晒された肌に触れた。寒いと半ば反射的に思ったが、それは空気のせいだけではないように感じた。
 僕の上で流河は眼を細めて嘲笑うように表情を歪めている。
どちらかといえば愛嬌のあるタイプの顔だと思っていたのだが、今は野生の動物を思い出させる様な荒い雰囲気だ。
流河の顔が近づいてきて僕の首筋に動物の様に喰らいついた。歯が食い込んで来る様な痛みを感じる。
 想定していたよりもずっと乱暴な流河に僕はまた違和感を募らせていた。
流河はこういう奴だったっけ?
 僕はじっと流河のそのまるで何も写していない様な漆黒の目を見つめた。
覗き込んでも流河の感情など見えやしない。
その眼を見て僕は全てが偽りだということを思い出す。
僕が流河を知るはずがない。全ては嘘の上での行動なのだから。
 自分で積極的に動いたくせに僕はまるで拒否をするように流河から顔を背けた。
身体ごと横に傾けたその瞬間、ふと背中に違和感を感じた。
 妙に段差がある。このベッドは何か変だ。
その原因が何なのかと僕は手をシーツの上に滑らせた。その行動を見て流河が動きを止める。
「このベッド変だ」
 そう言うと流河もぽんぽんとシーツを叩いて検分する。
流河と僕と、そしてリュークの三人でベッドを叩いて違和感を探る。
リュークの表情はどことなく楽しそうで、まるで宝探しをしている子供だった。
流河の方もさっきまでの酷薄さは形を潜めて今は純粋にベッドの謎を追いかけている。
すごい変わり身の早さだ。最もそれは僕にも言えた事だが。
「ここになんかありません?」
 それは丁度ベッドの真ん中だった。それを聞いた僕はベッドから降りてマットレスをひっくり返す。
 リュークは上げられた布団をすり抜けて、ベッドの上では流河が隅の方に追いやられていた。
「流河、原因はこれだ」
 ベッドの中から出てきたのは黒いバッグだ
誰かが忘れていったものなのだろうか?疑問に思う僕から流河はバッグをひったくった。
そして躊躇いもせずそのバッグを開けてしまう。
「流河!?」
「嫌な物が出てきましたね」
 流河がバックから摘み上げたのはビニール袋と白い粉末だ。
「なんなんだ?これ」
 なんとなく予想はついていたがまさかという気持ちが強くてそう流河に聞いてみてしまう。
流河も同じなのか惚けた表情で自分の手の中にあるビニール袋を見た。
「なんでしょうね?」
「少なくとも粉砂糖ではないだろうね」
 極端な甘党である事を揶揄した冗談に、流河はビニール袋の中に指を突っ込んで謎の粉末を舐めて見せた。
「おい!何舐めてるんだ!?」
「確かに甘くないです。粉砂糖の可能性は0%です」
 焦る僕に流河は余裕でそう言ってビニール袋を再度バッグにしまった。
「これマリファナです。夜神くんは舐めちゃ駄目ですよ」
 半ば予想通りの答えだったので驚きはしなかった。
流河はきょろきょろと周囲を見回して他に同じ様な物がないか探していた。
とても隠し場所とは思えない壁の亀裂まで探っていたのは流河らしいが、結局何も出てこなかったようだ。
僕らの手元に麻薬の詰まった黒いバックが残る。
「そういう取引を行っている場所だったと言うことですね」
 確かにこのビルは金さえ払えば無干渉に放って置いてもらえる。
マフィアとかヤクザとか呼ばれる人種の人間が利用するのも珍しくないのだと感じさせた。
「どうしようか、これ」
「私が適当に処分しましょう」
 流河の言葉に頷く。流石にこういうことは流河に任せたほうが良いだろう。
僕の警察関係の伝手は父さんしかなく、こんな場所で見つけたなどと父親に言えるはずもない。
 しばらくすると妙にビルの中がざわめき始めた。
大勢の人の足音が聞こえる。そして怒鳴る男の声や女の悲鳴も。
 何事かと不審に思っていると、流河が床に耳を押し付けて階下の物音を聞き取ろうとしていた。
邪魔をしないように僕も息を潜める。
「警察ですね、コレ。ガサ入れの様だ」
 反射的にベッドの上に置かれた黒いバッグを見る。
これが原因ではないかという僕の考えを読み取ったのか流河が頷く。
「警察も意外と優秀ですね」
 流河は暢気にそうコメントしたが、警察が今の自分達にとってどれだけ危険かを僕はようやく思い至った。
今僕達はどこかの組か何かの麻薬を所持しているのだ。この状態では絶対に調書をとられる。
すると僕はすぐに警察庁局長の息子であると分かって父親に連絡される。
そんな事になれば父のこれからに多大な迷惑をかけるのは眼に見えていた。
そして流河も調書を取られるわけにはいかないだろう。なんと言っても全て偽りで構成された人間なのだから。
Lである事を明かすわけにはいかないのだろうから捕まれば最後だ。
「どうしましょうか?逃げるにしても鍵、壊れてるんですよね」
 流河の指摘どおり扉から出る事は出来ない。 
他に出られそうな場所といえば窓だがここは3階だ。
 それでも一応出る事が出来ないかと窓を開けて下を覗き込む。
すると都合よく小さいながらも足場に出来そうなでっぱりが壁にあって、そこを伝って端まで行けば雨樋を利用して何とか下に降りる事が出来そうだった。
 その事実を伝えようと振り返ると流河はごそごそと部屋の端で何かをしていた。
不審に思って見ていると流河が振り向く。
「何してた?」
「特に貴方が気にするような事は、何も」
 答えた流河はポケットの中に手を突っ込んでいて何かしていたのは明白だった。
問いただしたい気持ちは強かったが今は少し時間が足りなかった。
「流河、ここから下に下りよう」
 窓を指差すと流河は僕と同じ様に下を覗き込んだ。
ルートを確認すると躊躇もなく窓に足をかけて外に出ようとした。すごい度胸だ。
それを見てほんの空気を震わすくらいの小声で僕はリュークに呼びかける。
「僕らが落ちそうになったら、バレない様にさり気無く助けてくれないか?」
『えぇっ?』
「報酬にりんごやるからさ」
 死神を使うときはりんごを使え。リュークは予想通り渋りながらも分かったと頷いた。
『お前"ら"を助けるんだな』
 リュークらしくないしつこい確認だった。当然だと頷くとリュークはにやりと性質の悪そうな笑みを浮かべた。
『分かった。助ける』
 言って窓の外にふわりと飛び出す。
すると廊下のほうからどたどたという足音が聞こえてきた。もう時間がない。
僕も意を決して窓に足をかけた。リュークがいるから大丈夫だと言い聞かせて。
 落ちそうになるところをリュークに支えてもらいながら、僕達はなんとかビルの外に降りる事が叶った。
地上に降りた早々リュークが報酬を強請ったので、僕は小声で後でだと言い聞かせる。
「夜神くん。早くここを離れましょう」
「あぁ」
 その意見に同意して道を歩き出す。
 街中は突然の警察の来訪に随分とざわめきだっていた。
この様子なら気付かれずに抜け出すことも出来るだろう。
流河も同じように考えているだろうと盗み見てみれば珍しくあからさまに不機嫌であることを表情に映し出していた。
 何か嫌なことでもあったのだろうか?
こんな事態に陥ってしまったことか?
それともベッドの上であんな喜劇を演じてしまったことへの苦痛か。
 僕はその時やっとこの喜劇の脚本家の存在を思い出した。
あの好奇心旺盛な寺椅のこと。僕らの近くにいた可能性も否定できない。
そしてその場合あの部屋の鍵を持っていた寺椅は危険ではないだろうか?
もし警察に捕まっていたらどうするのだろう。
「寺椅は大丈夫かな?」
 少し不安になりこういう事態を僕よりは経験しているだろう流河に問いかけてみる。
しかし流河は何も答えず、代わりにぐっと僕の襟を掴んで抱き寄せた。
突然のそれに抵抗することも出来ず、僕は流河の胸の中に納まってしまう。
 こんな場所で何を考えているのか!
焦って抗議しようとする僕の口を流河は手で覆ってしまった。
ぎょろっとした暗い目が僕から道の方に向けられる。
「警察がいる」
 その言葉に僕もすぐに落ち着きを取り戻した。
流河の視線を追えば確かに制服姿の男たちが周囲の人間に話を聞いていた。
 僕は流河の手首を軽く叩いた。それが手を外せという合図だとすぐに流河は理解して、僕の口から手をゆっくりと外した。
「状況は分かったけどどうしてこんな事を……」
「私達どうも浮いてるので……周囲に溶け込んだほうが良いかと」
 確かに僕たちの組み合わせは普段の大学ですら目立っている。
しかしこの状態が溶け込めているのだろうか?
一瞬疑問に思ったが、周囲を見回してみれば似たような感じの二人組みが何組か確かにいた。
多少特殊な趣味を抱えてしまった中年の男と、小金を稼ぎに来たであろう僕とそう歳の変わらない男。
「流河は変態オヤジの役を買って出てくれたわけか」
 意地悪くマイナスイメージを強調して言ってやると流石の流河も表情を歪める。 
「変態もオヤジもなんとなく不快なフレーズですね。
そういう君は金を目当てに身体を売る浅ましい少年の役です」
 それは売り言葉に買い言葉とでも言うような反射的な冗談のような落とす言葉だったのだろう。
しかし僕はそれに笑った。「似合いの配役だよ」と。
 金を違うものに代えれば僕もその浅ましい少年となんら変わりない。
求めるものさえ手に入ればどうでも良いのだ。
 皮肉に笑い続ける僕を押さえ込むように流河の手が僕の頭を抱いた。
抑えられて肩口に顔を埋める形になる。
「何だよ、流河」
「いえ……君は暖かいですね」
 脈絡のない言葉だった。
流河はさらに僕を抱く力を強めた。密着する身体。
こんな誰かに誤解されそうな体勢は嫌だと思いながらも、この方がこの空間に溶け込むのには都合がいいのだと自分に言い聞かせた。
「暖かい……」
 まるで抱き枕にでもなったようだった。
掴んで抱きしめていれば安心するとでも言う様な流河の態度に僕はされるが侭に抱きしめられたままでいた。
触れた箇所から伝わる熱。
僕なんかより流河の身体の方が暖かいように思えた。
ザ・寸止め。
そして唐突な展開。
あー、こっからの話大まかにしか出来てません(駄目)
どうしよ。これだから見切り発車は。



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