ヴァニラ
最高級スイートに設置された捜査本部で、捜査員達は静かに各々の仕事をすすめていた。
月も手渡された資料を読み、捜査状況を頭に入れる。
静かな空気の中で、のっそりとL……竜崎が腰をあげ月の元に歩み寄った。
「月くん、アイス食べませんか?」
「いや、僕はいいよ……」
「暑い中来ていただいているので……」
「タクシーで来てるし……」
「おごりますよ」
さらに言いつのる竜崎に父さんが「折角なんだから御好意に甘えなさい」などと言う。
他の捜査員達もにこやかに頷いている。
なんとなく竜崎とセットで子供扱いされてる気がする……。
竜崎はそんな事気にせず、開かれたままのルームサービスのメニューを僕に渡した。
「私はストロベリーアイスにします」
相変わらずイチゴが好きなんだな……
「月くんにはバニラアイスをお勧めします」
竜崎の長い指がバニラアイスの欄を指差した。
だが僕の眼に入ったのはその指先が示す先の数個下の欄だった。
「いや、僕はレモンシャーベットにする」
アイスよりシャーベットの方が夏場には相応しい気がしたし、何より甘いものがあまり好きでない自分にはバニラよりはレモンの方が良い気がしたのだ。
「お勧めはバニラアイスですよ」
「僕はレモンシャーベットが食べたいんだ」
しばらくの沈黙。
「バニラアイス……」
「レモンシャーベット」
また沈黙。
「わかりました。妥協して私がバニラアイスを頼みますので月くんはストロベリーアイスを……」
「どの辺が妥協の結果なのかを詳しく教えてほしいな」
そしてまた元に戻る。
「バニラアイス……」
「レモンシャーベット」
くすり、と笑う声が聞こえた。笑ったのは松井さん(仮)だ。
そりゃあ笑うだろう。今の僕と竜崎のやり取り。小学生の喧嘩のようだ。
あぁ、やっぱり竜崎とセットで子供扱いを……
ここは僕が大人にならなくては……
「わかった。バニラアイスを頼もう」
妥協してやると竜崎は満足そうな笑みを漏らした。
結局竜崎の思った通りの展開と言うのが気に食わないが、仕方ない。
竜崎はニコニコしながら注文のために電話へと向かった。
アイスを食べる二人を、微笑ましく和やかに見る捜査本部の面々。
月はバニラアイスの甘さに少し辟易した表情だが、自分が折れた事に優位性を感じているのか機嫌は良さそうだ。
そして竜崎はストロベリーアイスに舌鼓をうちながら、じっと月の顔を観察していた。
月はその時唇についてしまった白い液体、溶けたバニラアイスを舌先でなめとっていた。
(やはり、バニラアイスが一番そそりますね)
そんな事を考えながら竜崎はストロベリーアイスをスプーンですくい取る。
(しかし私がバニラアイスを頼み、それを月くんに食べさせると言うのも良かったかもしれない……)
いや、月くんは食べてくれなそうだな。
それとも好感度上げのために食べてくれるだろうか?
口に入ったアイスと想像の甘さに小さく笑いを漏らす。
月だけがそれに気付き、不審そうに眉根を寄せた。
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タイトル直球勝負。
あほいL。