まぼろし
ジャラジャラと金属のすれる音がする。
夜神と私をつなぐ鎖が室内灯の光を受けてきらきらと光った。
夜神は私の数歩後ろに、手錠に引きずられるようについて来る。
それが私には違和感を伴ってならない。
いつも……少なくともあの長期にわたる監禁以前は、夜神は私の前を歩いていた。
ただひたすらに前だけを見て歩く彼の姿を、私は斜め後ろから観察しながらついて歩くのが常だった。
だが今は彼が私の後ろを伺うようについて来る。
変な気分だ。
監禁以前の夜神と今の夜神がつながらない。
この違和感に他の者達はまるで気づいていない様だった。
父親である夜神局長ならあるいはと考えたが、彼も夜神の変化に気付いている様子はない。
捜査員の待つ部屋に行くのが憂鬱に感じた。
私だけがただ一人夜神を夜神と見ることができない。
子供の駄々の様な感情にとらわれて、私は突然立ち止まった。
唐突なそれに戸惑ったように夜神が動く。気配を背後に感じた。
「どうしたんだ?」
問いかける夜神の声は穏やかだ。
以前なら「いきなり止まるな」などと悪態の一つでも付けただろう。
いや、それ以前に私の後について来ることをしないだろう。
きっと「さっさと移動しろよ」と言い、私の鎖を引っ張りながら歩く。
先に行きすぎて鎖が限界まで延びきったのに表情に出すことなくイライラしながら、ぴんと張った鎖がまた弛むまでじっと私を待つに違いない。
夜神は人にあわせることが出来るのに、私相手にだけはそうしない男だったのだから。
「竜崎?」
黙ったままの私に夜神が怪訝そうにした。
私の横に立ち、顔を伺う心配げな表情。
そんな顔をしないでくれ。
以前夜神が私の不調に気付いた時は、休んだ方が良いなどと労るような言葉を言っていても、少しも心配気ではなかった。
休めと勧めながら、休んでしまえばキラとの戦いから一時とはいえ逃げ出したことになるぞと、そう言っているかのような嘲るような表情で私を見ていた。
そうやって脅しているのに、誘惑するかの様な声音で「大丈夫か?休んだ方が良い」などと聞いてくる質の悪い男だった。
「月くんは本当に月くんですか?」
私の言葉に夜神は呆れたような声をだす。
「何を当たり前なことを言ってるんだ?」
その声音は間違いなく夜神のものだ。
私の突拍子のない言葉や行動に呆れたときとかに、彼はこんな声音で私に話した。
まるで違うのなら諦めも付いたのに、彼は今でも優秀な頭脳と並外れた美貌をもつ夜神月でしかなく。
私は隣の夜神を唐突に抱きしめた。腕の中に人の体積と体温を感じる。
夜神の体は一瞬強ばったが、やがて余分な力が抜けていき、その両腕は私の背を抱いた。
労るようなそれが、また私の中の夜神を崩す。
「月くんは変わりました。何故ですか」
「僕は何も変わってない」
「いいえ。少なくとも私の知るあなたではありません!」
いつになく強い口調の私に、夜神は私の肩を押さえて正面からじっと見た。
目をそらさない。
「竜崎。君は確かに、僕に以前とは違う印象を覚えるかも知れない。でもそれは僕が君にすべてを見せているという証拠だ。以前の僕はキラであるという疑いのために自分を多少なり隠していた。違和感はそのせいだ」
言い聞かせるような真摯な口調。
夜神の言い分は一理ある。
無実の罪で疑われた場合に、自分の印象を良くしようとするのは普通の行動だ。
だが、お前は違うだろう。
自分が疑われていることを知りながら、それでも真っ向から私と戦おうとした。
「やっぱり月くんは変わりました」
断言する私に夜神は肩をすくめた。少し大げさな仕草なのは変わらない。
「ほら、みんな待ってるんだから行くぞ」
「行きたくありません」
駄々をこねる私にいらいらしたのか、夜神の気配に怒りが感じられた。
空気に走る緊張が懐かしい。
私は再度夜神を抱きしめた。
ぐちゃぐちゃに握り潰したい。
そんな思いを込めて、強く抱く。
痛くしてるのに夜神は文句一つ言わない。
憐れんでいるのだ。
私はそんな夜神の表情から逃れるように、頭を夜神の肩に押し付けた。
それでも夜神は、その細い指で私の頭をやわらかく撫でる。
硬質の髪を解きほどくような優しい動きが、私の心をもほどこうとする。
「泣いてるのか」
「馬鹿にしないで下さい」
穏やかな声に本当に泣きたくなる。真横で夜神の苦笑する気配。
これは甘えだ。
以前と変わった夜神が、私を甘やかすと知っての行為。
そんな自分に吐き気を催しながら
それでも空虚な心は手の中の質量を求めている。
もしお前の主張が本当だったとして、私の知っていた夜神はなんだったのだ。
もともと幻でしかなかったとでも言うのか。
私だけがただひとり、幻影を追い掛けている。
夜神すら忘れてしまった夜神の幻影を……
私はさらに抱き締める腕に力を込めた。
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なんとか次のジャンプが出る前に更新できた……
へたれぎみL。
ピュアライトもキラライトも萌えだ……
Lもどっちも萌えられるようになれば良いよ。
(そしたらハーレムだよ。ひと粒で2度美味しいよ。)