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#01.不愉快な電車



ある日のこと。流河が僕の家まで来る事になった。
特に目的もない友情ごっこの延長線で。
移動には電車を使った。
住宅街にある僕の家までリムジンで来られるなどたまったものじゃない。
 流河は始め電車に乗るのを嫌がっていたが、いざ乗ってしまうと周囲をきょろきょろして、それなりに楽しんでるようだった。
 あまりにもその行動が目立つので叱ると、電車に乗るのは初めてだから物珍しいなどと言う。
「日本の電車は混んでいると聞いていましたがそこまででもないですね」
「帰宅にはまだ早い時間だからね。この時間だと座れないけど、立っている分には十分だよ」
 たわいない世間話。収穫としては流河が日本の電車に乗るのが初めてだと言う事だが、そんな些細な情報ではなんの役にも立たない。流河も役に立たないと分かって言っているのだろう。
もっと僕は流河の内面に踏み込めるくらい近い所にいかなければ……
 会話が止まってしまうと、また流河は周囲を観察しはじめた。
その姿は黒い死神が初めて電車に乗った時の事を思い出させた。リュークの時は馬鹿だと思いつつも微笑ましくあったのに、流河にはそんな気持ちが湧かない。
 何故だろう?電車という大して面白くないものを楽しげ見ている様子に腹がたった。

そんなに撲から目を放して、その隙に僕が誰か殺してたりしたらどうするんだ?流河。


 そんな思いが頭に浮かび、僕はため息をついた。
下らない。これじゃあ自分を見てくれないとごねる女みたいじゃないか。
 ため息をついたのが気になったのか、流河の目は僕の方に戻って来た。
それに少し安堵してしまった自分は、心のいら立ちはさらに増した。
不機嫌を少し気取られたようだから、僕はそれを立ったままは疲れるなどと言う世間話に置き換えた。
流河は表面上だけ納得して、僕の真意を探ろうとしているようだった。
もう意識は完全に僕の方を向いてる。
それが少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいのにはもうこのさい目をつぶってしまえと思った。




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電車ネタ。嫉妬する月。
うちのサイトでは珍しくL←月。




#02.噛み砕く



竜崎とともに行動している今は、休憩を取れば必ず甘い物がついてくる。
それはケーキだったりチョコレートだったりする訳だが、
もともと甘い物がそんなに好きなわけじゃないので結局竜崎の腹の中に収まるのがほとんどだった。
今現在も休憩をとっているが、その目の前には当然の様に甘いもの。
今日はガラスの器の上に大量の飴玉がのっかっていた。
個包装された飴玉は味ごとに様々な色で着色されていて、鮮やかな色合いは目を楽しませた。
しかし隣に座っている竜崎には色を楽しむという概念はないようだ。


ガラスの器から適当に一つ摘む。
包装のビニールを破り捨てる。
口に放り込んでほんの少しの間に舐める。
ガリガリと音をたてて噛み砕く。 
飲み込んでまた繰り返し。 


僕がひとつ嘗め終わる間に、確実に2、3個食べている。


「月くんは飴を食べるのが遅いですね」
 どう考えても竜崎が早いんだよと、訂正したくなったが口内にまだ飴が残っている。
口に物をいれたまま喋る事は出来ないため、半分以下の大きさになった飴玉を噛み砕いて飲み込む。
すると僕の咀嚼する音につられるように、竜崎の口も動いた。
真隣で響くガリガリと言う音がうるさい。
そもそも竜崎はさっき飴をなめはじめたばかりで、噛み砕かれたそれもそれなりに大きかな物だったはずだ。
「竜崎は飴をすぐに噛んじゃうんだな」
「あぁ……噛み癖があるんです。本当は長く嘗めていたいんですけど」
 竜崎はガラスの器からまたひとつ包装された飴玉を摘む。
薄いピンク色のそれはおそらくイチゴ味。
包装をやぶり、そのまま口に放り込まれるのが直前で止まる。
「今、長い時間飴を嘗めていられる画期的方法を思い付きました」
「へぇ。良かったね」
 大して興味がないのでおざなりな返事になった。
しかし竜崎の手が自分の口に伸びてきて、そのまま飴玉を口に入れられると状況は変わる。
なんだか知らないがやけに嫌な予感がする……!
 逃げようかととっさに思ったが、それも既に遅い。
竜崎が上にのしかかってきて強引に唇を奪う。
舌先が歯列を割り、口の中で転がるイチゴ味の飴玉を追い掛けた。
抵抗しようにもしっかりとソファの上に縫いとめられてしまっている。
普段ひきこもっている癖に、無駄な所で力のある奴だ。
長いキスにだんだんと飴玉が溶け始めて、口の中全体に甘い味が広がった。
そうなると竜崎の舌も飴玉を追う事をせず、口全体を蹂躙する。
僕は自分の舌で飴玉を転がして、無理矢理竜崎の口の中に押し込んでやった。
やっと竜崎の口が離れる。唇からもれただ液は飴玉のせいで甘く、少しべと付いていた。
 竜崎の口に移った飴玉は、しばらくしたあと大きな音を立てて噛み砕かれた。
「今までで一番長く嘗められました」
「当たり前だ。噛んだりしたら絶対許さないぞ!!」
 頬を紅潮させ激高する僕に、竜崎はきょとんとした顔を見せる。
「噛みませんよ。月くんを傷つける真似などしません」
 しごく大真面目な様子に結局呆れてため息が出る。
「ところで月くん。次はこの味が良いんですが、また口を貸して下さいますか?」
 竜崎の手の中には葡萄色の飴玉。
僕はそれを奪い取って口に放り込み、すぐさまガリガリと噛み砕いてやった。



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おそろしくありがちなネタ。



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