「温泉に行きましょう」
世界の名探偵L、こと竜崎の唐突かつ予想外の発言にその場は一瞬で静まり返った。
どう何を意見すれば良いのか判らない。
そんな空気の中で真っ先に口を開いたのは手錠で繋がれたキラ容疑者夜神月。
「何をふざけた事を言ってるんだ?さっさと仕事しろよ」
眉間に皺を寄せて文句を言う月。これが数日前ならばもう少し柔らかい諫める様な口調になるのだが、今の月は新世界の神ことキラだった。火口を追い詰めデスノートで記憶を取り戻した月は竜崎に気遣いを持ったりしない。
「しかし最近働きづめでしょう?仕事もひと段落つきましたし、タイミングとしてはまぁまぁかと。
それにこれを逃すとまた働きっぱなしになりますよ」
だから温泉に行きましょう。と竜崎はわざと松田に向けて言う。暢気な性質の松田なら賛成するだろうという意図があってのものだ。
「そりゃあ最近は大変だったし行きたいですよね。温泉」
案の定竜崎の思った通りの言葉を言う松田に竜崎が満足げに口を歪めるのを月は見逃さなかった。
何を考えているのか。不審を強めながら竜崎に反対する。
「竜崎、せっかくデスノートというキラの凶器が判り死神まで捜査本部にいるんだぞ」
月の言葉に他の捜査員たちも頷いた。確かに皆疲労を感じている。
だからとはいってせっかくキラへの道が拓けた捜査を中断するのも憚れたからだ。俄然不利になる竜崎だったがその時『神の声』がかけられた。
「行けばいいじゃないか」
その言葉の正体は死神のレム。まさに神の声のそれに竜崎は期待に顔を上げ、月はぎろりと死神を睨んだ。
「人間とやらは死神と違い疲れると死ぬのだろう?ならば身体を休めるがいい」
少しずれた発言だが死神だし人間に詳しくないのか?と総一郎以下捜査員達は思った。
その発言を信じられないような眼で見つめるのは月だ。
(リュークじゃあるまいし何馬鹿なこといってるんだレム。
第一疲れれば死ぬんなら疲れさせろよ。僕の味方だろう?)
月の鋭い視線と共に訴えられた言葉を忠実に読み取ったレムは小さくため息をついた。
(人間がこの程度で死ぬなどと私が思っているはずないだろう。この件は捜査を遅らせるのに丁度いいじゃないか)
さっさと捜査を進展させてミサを追い詰め、ひいては竜崎を殺したい月と飽くまでミサの容疑をそらしたいレムとの違いが生んだ差だった。あくまで共同戦線でしかない2人の意思の齟齬を見ながら竜崎は爪を噛む。
(あの死神、何故月くんと視線で会話してるんだ。あれが出来るのは私だけではなかったのか?)
おかしい。と月にとっては無駄に洞察力のある竜崎が不審がる。
だが他の者が聞いたらそもそも視線で会話などしてるかわからないじゃないかと思うこと間違いないだろう。
しかし妙に強引な論理を組み立てるのは竜崎の常だった。
「月君は温泉行きたくないんですか?」
上目遣いで覗き込む竜崎に月は呆れた声を出す。
実際策略として捜査を進めたい事を差し引いてもこの現状で温泉に行こうという竜崎には呆れる。
「そんな場合じゃないだろうと言いたいんだ」
「・・・はい、判りました」
月の強い言葉に珍しく――意外なほどに竜崎がしおらしい態度をとった、と思った矢先だった。
「今の言葉で行く事決定です」
「なんで!?」
当然皆が驚きの声を出す。
「私月くんをキラだと疑ってますから。キラに止められたら行くしかないでしょう?温泉」
「そんな馬鹿な理由があるか!」
「じゃあ実力行使です」
言うと同時に何処からともなく重厚なガスマスクを取り出す。大仰で場違いなそれに唖然とする皆をよそに、それを竜崎が身につけた瞬間から捜査本部のスプリンクラーが一気に作動した。しかし出るのは消火用の水ではない。催眠ガスだ。
なんのガスかは判らなくともそれが良い物でない事は判る。吸わないように皆口を押さえるが、そんな行為で防げる物ではない。ばたりばたりと床に倒れていく。
「何を考えている・・・竜崎」
一番最後まで耐えていた月もその言葉を最後に意識を失う。
他の者達は冷たい床に倒れて意識はないが痛い思いをしただろう。が、月に限っては別だった。
竜崎が倒れこんだ月をしっかり抱きとめたから。
そのまま月を横抱きにして立ち上がった竜崎は、さすがに化学兵器は効かないらしいある意味不幸な死神に声を掛けた。レムは呆れながら捜査本部の惨状を見ている。
「では他の人はレムさんお願いします」
「私か!?」
「私は月くんで手が塞がってます」
言いながら月の顔に嬉しそうに頬ずりしているミサ(と月)の敵をレムは月に似ているとしみじみと感じた。
特に死神使いが荒いところが。
竜崎は両腕で丁寧に月を抱え、レムは4人の男達を無理やり抱え込んで地下駐車場に向かった。そこにはワタリが特大リムジンで待機している。用意は万全だった。
「おい。あのミサと言う人間の娘は連れてかないのか?あの娘もお前達の仲間だろう?」
道すがら竜崎に尋ねる。ミサの事が大事なレムには当然の言葉だった。ミサがのけ者にされるなどレムが許せるはずもない。
「あぁご安心を。既に弥は車にいます。レムさんは知ってるか知りませんがアイバーとウエディの2人も」
竜崎の言葉がレムには意外に聞こえた。
竜崎が月以外に興味を抱いているように見えないし、ミサやアイバー達、自分が抱えている捜査員達を一緒に連れて行こうとするのが竜崎には似合わない。。
それだけ竜崎の月への執着は並々ならぬ物があった。
「しかし女性が温泉に行くかを気にするなんてレムさんは意外とむっつりですか?」
「私はメスだ。というかお前に言われたくない」
竜崎は眠ったままの月の尻を撫でながら歩いていた。
この男、真性だな。とレムは冷静に思いながら、対象がミサじゃなくて本当に良かったと犠牲者月に心の中で合掌した。
眼が覚めるとそこには真っ白な布。
自分はついさっきまで眠っていたのだからこれはシーツだと判断した月は、眠気に押されるようにその真っ白い布に自分の顔を押し付けた。眠たい目をこするように顔を摺り寄せる。
「あぁ〜っ!月ってば寝ぼけてるからって竜崎さんに近付かないで!!」
「ミサさん大声を上げないでください。月くんが起きてしまいますよ」
何処からともなく聞こえてくる雑談に月は眠気を堪えてまぶたを強引に開けた。
目の前に映る白いシーツ・・・ではない!
このよれよれ感には見覚えがあると月が顔を上げると、そこには予想通り見慣れた蛙系の顔。
驚いて後ずさると床の感触が気になった。久しぶりのそれは・・・・・・畳。
「なぜ捜査本部に畳が・・・」
「やだぁ、ライト。ここ捜査本部じゃないわよ」
扉ではなく襖の向こうからミサが声を掛けてくる。その声に釣られるように月はきょろきょろと辺りを見回した。
襖に畳、板の間には掛け軸。すぐそこには布団まで敷いてある。
「何なんだ?この純和風の空間は」
「もちろん温泉旅館です」
竜崎が何を言っているのかと当然のように答える。
「まさか本気で来たのか?捜査はどうするんだ竜崎!」
「そこはおいおい。大丈夫です」
「根拠ないだろうが」
「いいじゃん温泉のが捜査より楽しいし」
訴えてもまったく答えないのは竜崎だけだはなくミサも同じだった。月の元に駆け寄って手に抱えた浴用品を見せる。
「ライトも一緒にお風呂行こうよ〜。竜崎さんが旅館貸しきってくれたから混浴にしよっ!」
「私も行きますけどね」
言いながら竜崎が手錠をひけらかす。それに当然むっとしたように頬を膨らませるミサに月はため息をついた。ミサはこういう時なかなか言う事を聞いてくれない。竜崎と一緒でもいいから一緒にとかいいそうだった。それは遠慮したい月はミサの肩を軽く抱いた。
「ミサ、君の身体を他の人なんかに見せたくないんだ」
胡散臭い台詞をミサの目を見ずにさらりと言いのける月に竜崎は目を見開いた。この行動は月らしくない。
あのミサと共に加えていたセクハラ攻勢にうろたえていた月とはとても思えない。
大体くさい台詞を吐くのはいつもの事だが、目を見ていないのは明らかにおかしい。少なくとも監禁中妙に性格の変わった月はどんなに恥ずかしい台詞でもちゃんと目を見て話す。あのキラキラした目でキラじゃないと訴えられた竜崎は身に染みて知っていた。
「分かった。ライトvミサ先に行ってるね〜」
月の台詞に目を輝かせたミサはにこにこと上機嫌にしながら身を翻した。それに「あぁ」とそこはかとなく亭主関白な気配すら漂わせながら頷く月に竜崎は当惑と不審の目を送った。
「どうしたんだ、竜崎」
「月くん、また性格変わりました?」
月は内心どきりとしながらなんのことだとでも言うように微笑みながら首を傾げてみる。しかしそれが胡散臭いのだとでもいうような目つきで竜崎は月を見てきた。
「月くんがミサさんにあんな態度を取るとは思いませんでした」
「僕はこれでももてるんだ」
だから女性の扱いも慣れていると言う主張に竜崎は不審げに月を覗き込んだ。真正面からの視線にも月は堂々と対峙する。
「まぁそこは百歩譲って良しとしますがそれでも解せません」
「何がだ?」
「だって月くん、私のこと好きでしょう?」
「はぁ?」
思わず間抜けな声が出てしまったのも無理はない一言だろう。
なんなのか?その根拠のない言葉は。
疑問しか浮かんでこないがゆえに、そこから導かれる結論はこれがおそらくなんらかの策略であること。警戒する月にしかし竜崎は余裕の笑みで答えた。
「でも安心して下さい。私も好きですから」
違う!策略じゃなくて希望的観測だ!
開いた口が塞がらない月はどっと疲れが湧いてきた。
こいつにまともな態度を求める事が間違ってるのだろうか。打ちひしがれながら月は竜崎の手錠を引っ張った。振り返った竜崎に月は宣言する。
「風呂に行くぞ」
もう本当に普通に温泉にはいってゆっくりしよう。
そうでもしないととてもじゃないがこの歩く荒唐無稽とはやっていけない。
いきなり告白されたというのにそれに疑問も抱かない月も十分荒唐無稽に竜崎は思えたが、月自身はそうは思わないらしい。
諦念の感を漂わせる月の言葉に竜崎は頷いた。
道行く竜崎の中に「浴衣の月君」がいたことは言うまでもない。
ゆっくり温泉につかり芯まで暖かくなった身体に月は浴衣をまとった。
まだ湿り気を帯びた髪や軽く赤く染まった肌は扇情的だ。そんな月に向けて竜崎はしみじみとため息をつく。
「しかし月くんは無防備ですね」
「なんだよ、いきなり」
「好きだと告白した相手を前に裸になることを厭わないからです」
「一緒に風呂に入るなんていつもの事だろう」
手錠で繋いでいる間は風呂を共にするのも当然で。今までと今日の違いは場所の差でしかない。
事実入浴はいつもと変わらないものだった。そんな事を聞く竜崎もいつもと同じ入浴だった。
「私は告白された月くんの変化を楽しみたかったのですが・・・」
いつもと変わらない月の態度が竜崎には不満だったらしい。しかし月としてはそんなことを期待されても困る。
「お前が僕の事を好きだなんて言われるまでもなく知ってるからな」
「どうして」
「これでわからないはずないだろう」
竜崎は月に必要以上に引っ付く。
たった今も竜崎の腕は月の腰に回っていてぎゅっと抱きしめられている。
これで知りませんでしたとはいえないだろう。竜崎の言葉は『今更』だった。
呆れている月の言葉を少し不満に思っているらしい。いつも自分の思い通りに行かないと不機嫌になる探偵は、報復なのか何なのか手のひらをぎゅっと握った。月の尻の肉ごと。
「このお前の行為を前に何も思わないはずがないだろう」
「そうですね。というか月くん下着つけてますね?和服は下着つけないんじゃないんですか?」
「男のノーパンが嬉しいのか?」
恋愛じゃなくて性欲じゃないか?
そんな竜崎の態度に怒りより先に諦めがつくくらいには月は既に調教されている。
竜崎のセクハラは日常茶飯事。悲しいがなそれが現実だった。
「離してくれないか?」
といっても離さないんだろうなぁといつもの状態を思うが竜崎は意外なほどあっさりと、というか不気味なほど素直に手を離して月から離れた。
告白してからの方が聞き訳が良いとはどういうことか。
「竜崎?」
「月くん、他にして欲しい事ないですか?」
して欲しい事?
尻から手を離してもらうのがして欲しい事とはなんともいえないな。
そんなくだらない事を考えながら思う。
今日の竜崎は妙におかしい。
いつもはキラ捜査の鬼(というかそれしか興味がなさそう)な男の癖に捜査より良くわからない温泉に執着する。
(もう判りきっていることとはいえ)唐突に告白をする。
いつもは離さないくせに今日に限ってあっさり離す。
何か考えがあってのことなのだろうが、キラ捜査に結びつきそうもないのがおかしい。
「今日は月くんの我儘をきくと決めてるんです」
「それならなんで捜査してくれないんだよ」
そもそも月は温泉に行く事が反対だったのだから。
我儘を聞くというのならまず始めに月の要求を飲んで温泉になど来ていないだろう。
「それは月くんの本音ではないからです」
どういう意味だと問いかけようとした瞬間がらりと脱衣所の扉が開いた。
全員で来たようだから他の男性メンバーが来たのかと思ったが、そこにいたのはミサだった。
「ミサさん男湯に来ないでください」
セクハラですよ。と竜崎がもっともらしく言うがセクハラし放題の竜崎では説得力には欠けていた。
ミサは「貸切だしべつにいーじゃん」と堂々と男湯に乱入して月の腕に抱きついた。
「ライトってば浴衣も格好いい〜」
「ありがとう、ミサ。ミサも似合ってるよ」
月にとっては社交辞令の言葉にミサは嬉し〜と声を上げて更に抱きついてきた。
散々月に甘えるようにした挙句、隣に突っ立ている相変わらずの猫背でジーンズにシャツの温泉に似合わない男を不満げに見上げる。
「竜崎さんっていつもその格好だよね〜たまには違う格好でもしたら?」
「浴衣を着ろと?」
「だって一回くらい見てみたいもん。ミサもうすぐ竜崎さんとは会えなくなるんでしょ?」
流石にもう会えないとなるとちょっとくらいは寂しいかもね。と暢気に話すミサに月は軽く目を見張った。
何処でそんな話になったと問いただせば、情報ソースは松田らしい。
捜査をする気がないといってもルールくらいは既に見ているから、13日の嘘ルールでそういう判断を下しても無理はない。
犯人でないのならば一般人で部外者のミサを置いておくわけがないからだ。だからこそミサに死神の眼を取り戻させてもそれ自体で竜崎を殺せる確立は少ない。
「ミサの疑いも晴れたなら僕の疑いも晴れてるんだろう?」
同じ様に13日ルールで潔白が証明できるはずだ。月は自身の手首に掛かった手錠を見せて外してくれるんだろう?と眼で問いかけた。
「はい。捜査が始まったら手錠も外します。そして月くんには帰ってもらいます」
「は?」
「月くんは一般人ですから。ミサさんと同じ様に家に帰ってもらいます」
予想だにしない言葉に月は思わず固まった。
当の竜崎はミサと雑談をしている。結局浴衣をどうするんだとかもう食事だとか。
そんな話より理由を言えと強く言いたかったが月は声が出せなかった。それだけ動揺していた。
後の作戦も月は捜査本部にいることを前提にしている。たとえ容疑が外れても、いや容疑が外れたからこそ自分は捜査本部にいられると考えていた。
月は竜崎から信頼を得たはずだ。
手錠が外れるのだからそれは間違いないだろう。
完璧な協力者になれる時が来たというのにどうしてそれを否定するのか。
単純に『酷いな』と思った。
作戦が成功しないとかそんな事は後回しだった。
自分が竜崎にとってミサと同じ様な一般人のカテゴリでしかないことが苦しく辛い。
キラとしてではなく夜神月として辛かった。
記憶のないただの夜神月は誠心誠意、竜崎のために尽くしてきたのだから。
旅館の自慢らしい美味しい和食も気分が乗らないとそんなに美味しくは感じられない。
せっかくの旅行なのに不快な気分では台無しだ。
人数が少ないから小さめの宴会場を使って、皆での食事。
酒もずいぶんな量が出されてあの厳格な父、総一郎まで既に酔っ払いの様相を呈している。
月は酒を口にしなかった。未成年だからといった理由ではもちろんなくて酔った挙句に何か喋ってしまうのを恐れたからだ。
竜崎も飲まなかった。年齢や趣向の問題というよりはきっと月と同じで酔った挙句に前後不覚になるのを恐れたからだろう。
性格的に油断という物を極端に恐れているからだ。月も竜崎もそこは変わらない。
だが今はいっそどちらかが酔っ払いの方がよかったと月は思っていた。
不快な気分を考えなくて済むし、全員が楽しく酒を飲んでいる中2人っきりで素面というのは居心地が悪い。
「月くんどうしました?不機嫌ですね」
そんな月を察してか竜崎が声を掛けてくるが、不機嫌が判るくらいならその理由くらい判れと理不尽な事を考える。
「月くんもう一度、風呂に入りますか?」
風呂好きですよね。私は好きではありませんが、今日は月くんに付き合いますよ。
と柄でもない事を話している。一応不機嫌な月を気遣っているらしい。
らしくない行動にますます気分が悪くなる。
竜崎は月を立ち上がらせて、どうやら強制的に風呂に連れて行くつもりらしい。
なんとか月の気持ちを浮上させたいと考えているらしい。それもまた竜崎らしくない行動だった。
もう一度脱衣所まで連れてこられて、なかなか服を脱ごうとしない月を竜崎が自ら脱がせようとする。月は竜崎の手を払って自分で服を脱いだ。
結局入る事になってしまったがそれも無理やり、竜崎と手錠に引っ張られてという形になった。
だが白乳色のにごり湯に身体を沈めると程よい暖かさにさすがに心も静まってくる。
冷静になると思考もまとまるらしく、自分はキラなのだから完全に疑いが晴れた事を喜ぶべきだと考え直した。
「月くん、機嫌直りましたか」
月の変化を当然見切っているらしい竜崎が声を掛けてくる。見透かされている事は不愉快だったが、気分がよくなったのは事実だったので月は頷いた。
「そうですか。もうこれでお別れですから・・・・良かったです」
「・・・それ、どういう意味なんだ?」
ようやく問いただせる言葉を言えた月に竜崎はあっさりと言葉を返す。
「もちろん、月くんが一般人だからです。一般人を危険なキラ捜査に巻き込むわけには行きません」
「僕は捜査本部の誰よりも役立つぞ」
ともすれば傲慢にも聞こえそうな台詞だったがそれは事実だった。月はキラ捜査で戦力になる。
それを自ら手放そうだなんて竜崎らしくない。どんな物でも利用しつくすような性格なのだ。
「でも月君は一般人ですから。危険に晒し君をキラに殺されるわけには行きません」
「手錠ある限り命を共にするって言ったろう?そんな相手も締め出すのか?」
月は見せ付けるように手錠を前に出した。
温泉だと錆びるかもしれないな、と今更のように思った後どうせもうすぐ外すかと思い直す。
実際命を掛けていたのだから今更締め出すのは普通に酷い話だろう。
「手錠ある限りでしょう?手錠をなくした貴方に命は求めません・・・だからこれでお別れです」
「帰って手錠を外したら最後・・・か?」
「はい。だからこそ今日は月くんの為の旅行です。月くん言ってたでしょう?温泉行きたいって」
「言ったっけ?」
「火口を捕まえたら皆で温泉に行きたいと前話していました。だから今日は温泉です」
言われてみると雑談の中でそんな事も言っていた気がする。
しかし軽い冗談のような会話を覚えていて、しかも実行してしまう竜崎は変な意味で只者ではない。
「告白もそれで?」
「はい。最後ですから」
「お前らしくない」
「はい。それだけ月君が好きです」
「L失格だな」
策略でもなんでもなくただ別れを惜しむ行為だったとは、それに振り回されていたとなると酷く滑稽だった。
「お前らしくない。調子が狂う」
「私らしくない・・・・・・確かにそうかもしれませんね。月君は私が私らしいほうがいいですか?」
「あぁ・・・そっちの方が好きだな」
何より疲れないからな。と身も蓋もないことを考える。
非理論的な行動を取るから考えも読めなくなるし、自分も振り回されるし。
それに実際らしくない竜崎は見たくなかった。個人的な感情としてだ。
未だそんな物を持っているとはこれでは自分もキラ失格だ。
そこまで考えて、ふと竜崎に何も反応がないのが気にかかった。
黙り込んでじっとしている。いや、むしろ震えているといってもいい。
温泉の温かい湯の中でがたがたとしている。白い湯がゆらゆらと波紋を立て続けている。
「・・・どうした竜崎?」
「月くんが、私を好きって・・・・・!!」
感無量といったその声に月ははっとする。墓穴を掘った!
相手はセクハラばかりの竜崎だ。恋より性欲?の竜崎だ。
身の危険を感じ月は湯の中で後ずさりながら必死に叫ぶ。
「違うっ!そういう好きじゃない!」
「別れを決めた覚悟の日に両思いになるなんて運命的ですね」
「明日でお別れだろう!残念だったな」
「余裕で一日あるって証拠じゃないですか!月くん!好きです」
ばしゃんと湯を大仰に振りまきながら圧し掛かってくる男に月は必死の抵抗むなしく美味しくいただかれた。
翌朝、皆で仲良く――――といっても月だけは温泉での忌まわしき出来事のせいで打ちひしがれていたが、それなりに平穏な朝食を取っている時だった。
何故か正座をした竜崎が改まって皆の方に向き直った。ちなみにミサのリクエストに応えたのか浴衣だ。
「皆さんにお話があります」
手錠を外す件と自分の離脱を伝えるのかと月は考えた。
そうなっても遠隔で何とかレムを誘導すればなんとかなる。むしろ腰のことを考えれば好都合。
という月の考えは希望的観測でしかなかった。
「今から私と月くんで世界一周旅行に出て行きますので」
「はぁ!?」
予想だにしない言葉に声を上げたのは何も月だけではなかった。
竜崎の言葉にミサが声を荒上げる。
「何それ!どういう事よ!」
「もちろん婚前旅行です」
「手錠外すって!家に帰すって言ったじゃないか!」
月の反論の声にもむしろそれを待っていたとでも言うようににやりと笑う。
「やっぱり外しません。理由は私の私情」
自信満々に言い切ってから似合わなすぎる爽やかさで竜崎は笑った。
「だって私らしいほうがいいんでしょう?私らしく自分勝手に行動させてもらいます」
ひょいっと来た時と同じ様に(といっても月は知らなかったが)軽々と抱え上げた竜崎を唖然とした眼で見る捜査員一同。
この事態を打開できるのはやはりミサかと眼で探すがそのミサはレムに取り押さえられている。
いつの間に接触していたのか!暴れる月とミサをLとレムが強制的に押さえつけているという状況。
(くそっ!裏切ったな、レム!!)
月の怒りの視線をレムは真正面から受け止める。
(竜崎がミサの潔白を考えた上で捜査をしないのなら好都合だからな)
大切なミサの大切な月の命ならともかく貞操はどうでもいい。
レムは月を景気良く売り払った。ミサのためにならそのうち助けるかもしれないが今は月の貞操よりミサの容疑だ。
仲たがいする2人を眺めた竜崎はいらいらとレムをねめつけた。もちろんまた視線で会話しているからだが・・・・
(また夜神と死神が・・・・・・いや、しかし)
竜崎は既に知ってた。この死神が意外と自分の味方をしてくれる事を。
「では皆さん行って参ります」
「あぁ、さっさと行って来い」
ミサの口と身体を押さえつけながら悠然とレムが別れを述べる。
騒然とする捜査本部を抜けて月を抱きしめた竜崎は悲鳴を上げる月を無視してワタリの用意した車へと乗り込んだ。
キラ復活は当分先のようだった。
カウンタ40001リク。
温泉に行く捜査本部メンバーズでした。
すみません。あまりに遅い更新の上、変な話で申し訳なさの極みです。
ストーリーもギャグなんだか真面目なんだか中途半端だし。あんまり温泉じゃないですし。
考えてた部分も半分とはいいませんが3/1程度入れ損ねました。
ウエディ姉さんのえろい浴衣の着こなしとか。
アイバーと他メンバーの酔っ払い話。レムがミサに見えてるフォローとか・・・。
私の能力じゃ全員を満足に動かす事ができませんでした。
いや、本当に期待はずれで済みません。
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温泉に行く捜査本部メンバーズでした。
すみません。あまりに遅い更新の上、変な話で申し訳なさの極みです。
ストーリーもギャグなんだか真面目なんだか中途半端だし。あんまり温泉じゃないですし。
考えてた部分も半分とはいいませんが3/1程度入れ損ねました。
ウエディ姉さんのえろい浴衣の着こなしとか。
アイバーと他メンバーの酔っ払い話。レムがミサに見えてるフォローとか・・・。
私の能力じゃ全員を満足に動かす事ができませんでした。
いや、本当に期待はずれで済みません。
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