第三回絵チャログ


左上から、緋峰さん、水倉博介さん 真ん中、あいだ砂樹さん 右上、島崎さん、井上潤也さん

<<イラストに合わせてSS大会ーー!>>


(緋峰さん:宵宮さとる)
「で、それが?」
 そう言うと彼は俺の顔を見上げてきた。座っている彼の目線は俺よりも下、それなのにどうしてだろう。

見下ろされている気がする。

 どんな行動をとっても彼はその一挙手一投足に王者の風格を漂わせている。
「だから、もう」
 俺とは違うアイスブルーの瞳に気圧されて、言葉がうまく出てこなかった。けれど俯けば余計に彼と近い目線になって、
「とうとう口も利けなくなったか」
 失笑にビクリと震える俺はまるで蛇に睨まれたかえるだ。
「あ、あの」
 告げない言葉を必死でついで、それでも本音を言えない醜態をさらす。
「俺は、・・・君が・・・」
 どうしてもいえない拒絶の言葉、もうこんな関係はやめたいのだと切望しても叶わない。
「なんだ?」
 分かっていて聞き返すのは酷薄な唇。弱みを握っている以上俺が逆らうことなんてきっと考えられないのだろう。いや、それがなくても『彼』は自分の思惑が覆ることなんて考えもしない。けれど、だからこそ、
「もう、やめよう」
 俺にはそう口にするしかなかった。恥ずかしい秘密をばらされてもう、この学校にいられなくなるとしても。機嫌を損ねた彼に酷い仕打ちを受けるかもしれなくても。
「気でも違ったか」
 彼が言うとおり馬鹿な選択をしたとわかっていても。
「正気だ、もう君には抱かれたくない」
 この存在を刻み付けたくて、
 その他大勢みたいな存在になりたくなかった、体だけ繋がる関係に耐え切れなくなった。
 片眉を上げてみせる、その苛立たしそうな表情一つに足が震えて止まらない。けれど、謝りたくなる臆病な自分を必死で抑えて俺は吸い込まれそうな蒼を目に焼き付ける。
 この歪んだ関係に終わりを告げれば、こんな風に彼と話すこともなくなるだろう。
 社会的地位も名誉も失って、彼に近づける機会もきっと巡ってこない、それでも今のままより。

きっと、いい。

 叶うことのない片思いは距離が近づけば近づくほど、空しさを増していくから。 
「わかった」
 強気な支配者の笑み、決して甘い言葉も熱い視線もくれない非情の男は自分のうちの上にも気付かずに俺を陥れていくだろう。
 悪魔の様に策を弄することを愉しんで、でも。
「さよなら」
 敵でいる内は俺のことを一番沢山考えてくれる。
 背中にかけられる言葉はなかった、本当に俺のことなんてどうでも良かったんだろう。だから、

「馬鹿が」

 扉を閉めた後に聞こえた言葉はきっと、ただの空耳だ。





(水倉博介さん:花月梨依)
地下鉄の構内は酷く混雑している。
そんな中、一人の青年が立ち尽くしていた。
青年の格好は歳相応より若干若く、夏らしいハーフパンツで決めている。
「やぁ、待たせたね」
銀色のスーツケースを抱え駆け寄る杉本の姿を発見し、青年は一瞬顔を赤らめ、そのままふいと向こうを向いてしまった。
「別に、待ってねぇし」
青年の額はじっとりと濡れ、Tシャツは汗で所々色が変わっている。
こんな蒸し暑い中で待っていれば当然なのだが、それを隠そうとする青年が愛おしく、杉本は小さく笑みを浮かべた。
「それじゃあこの汗は、急いで走ってきたせいかな?」
「ち、違う…走ってねぇよ!別にお前に会いに来たわけじゃないんだからな。たまたま時間が空いてるから会ってやるってだけだからな」
言いながら耳を真っ赤にし視線をそらす青年に、杉本はふたたび口元を綻ばせた。
「それじゃあどうしてこんなに汗をかいてるの?」
「そ、それは…っ」
こうして少しからかえば、すぐに真っ赤になって閉口してしまうところが愛らしい。
青年との出会いは偶然だった。
駅で携帯をなくし、立ち往生しているところにちょうど通りがかって拾ってくれていたのが彼だった。
そこから話すようになり、アドレスを交換し仲良くなって、つい先日恋人同士になったばかりだ。
いい歳をして無職だという彼は、毎日こうやって杉本が帰る頃になると駅のホームで待ってくれている。
それを分かっていながら聞くのも愚問だけれど、こうして顔を真っ赤にしている彼を見ていると堪らない気持ちになるのだ。
エリート街道をひた走り、何にも脇目を振らず歩いてきた日々に、希望と喜びをくれたのは彼だった。
「今日はどこに行きましょうか?君が好きなラーメンでも食べに行きますか?」
問いかけに一瞬嬉しそうな顔をし、すぐさまいつもの仏頂面に戻ってしまう。
「別に、お前が行きたいところ行けばいいだろ」
これが彼の優しさだと分かっていても、少し可愛げのない言い方には少しからかいたくもなってしまう。
「僕は君とならどこへでも行きたいですよ」
「っ!」
そう、こうやって少しでも甘い言葉を囁けば、すぐに真っ赤になる顔がたまらなく愛しいのだ。
「君とならどこだって幸せですよ、僕は」
「か、勝手に言ってろっ!」
そうやってムキになって拗ねるところも、逸らした視線も。
この、すべてが愛おしい。




(あいだ砂樹さん:井上蛍さん)
見上げた蒼に、薄い白が溶けていく。
だがそれは雲だとか雪だとか、そういった自然的な優しいものじゃない。
むしろそういったものとは間逆に位置する粗悪品。(少なからず、俺はそう思う)
一言で簡単に言うなら、煙草の煙だ。
「未成年の喫煙は、法律で禁止されているだろう。」
「んー。」
聞いているのか居ないのか、判断しにくい和也の答えに息を吐かずにはいられない。
腐れ縁の幼馴染とはいえ、返事等はもう少し的確に言うべきだ。
注意されていることなら、尚更。
「和、」
「せっちんさぁ。」
再度名前を呼ぼうとすると、いつものようにどこか物足りなさそうな声色で、それを拒む。
和也にしては珍しく、言い訳でもするのだろうか。
「なんで幼馴染なんだろう、とか、思ったこと無ぇの?」
不意に吐かれたその言葉に、強張る自分がいる。
それはもちろん和也という存在に否定的な意味ではなく肯定的な意味。
悟られまいとあいつが咥えていた煙草を唇から抜き取り、後頭部に指を絡ませた。
陽色の柔らかい髪は暖かく、昔から変わらない。枷になっていた、この関係と同じように。
「・・・和也。」
「んー?」
たった一言伝えれば、どちらにしろ壊れていく関係に眉が寄る。
どうしてこんな厄介なものに囚われてしまったのだろうかと、誠二はただ俯いて。
灰はじりじりと燻りながら、やがて地へと堕ちていった。
薄く白濁したそれが口から漏れていく。
もっとも、漏らしているのはオレ自身で、回りには誰も居ない。
もちろん、幼馴染であるせっちんも居ない。
せっちんに隠れては咥える先端に火を点し、吸い込んだ分だけ口に苦味が広がる遊具を美味しく感じるようになったのは、いつからだろう?オレはせっちんと違って頭が良くないから、正確に覚えていない。
だからもう随分と昔の事のような気もするし、つい最近の事のようにも感じてしまう。
もどかしい、この状況を。

本当に、いつからこんながんじがらめになってたのか、わからない。
幼馴染みの枷を破れない自分。臆病なせっちん。
そして…一向に縮まることのない、近くて遠い、一つの年齢(とし)。
いっそこうして吸うたびに、その距離が、この状況が好転すれば良いのに。

「和也、」
そんなことある筈がないと知りながら、そう思ってしまう自分が、余りにも他力本願(おかしく)て。
正面から歩いてくる聞こえるせっちんの姿と声を目と耳に届かせないよう空を仰ぎながら、
口に広がる苦みに意識を寄せていた。





(島崎さん:花月梨依)
「遅かったじゃないか」
「ごめんなさい…だけど」
「言い訳は聞きたくないね」
言うなり、巧は机の上に書類を投げつけた。
受け取ろうとして失敗し、書類が床一面に散らばった。
それを掻き集めようとして座り込んだ夏樹を一瞥すると、巧は小さく笑みを零した。
「分かってるだろう、僕が時間に厳しいことは」
「ご、ごめんなさい」
夏樹は書類を拾い上げながら、懸命に巧に向かって謝罪の言葉を投げ掛けた。
けれど巧は表情も変えず、見下すようにして夏樹を見詰めている。
「会長、本当にごめんなさい」
何度目になるのか、謝罪の言葉と共に夏樹が立ち上がると、巧は酷く冷静な声で言った。
「ごめんじゃお前の誠意が伝わらないよ?」
「会長…っ」
「いつも教えてるだろう、お前なりの誠意の伝え方を」
僅かにずれた眼鏡のフレームを持ち上げ、巧はにやりと笑みを浮かべた。
「か、いちょ…っ」
今にも泣き出しそうな顔をして懇願する夏樹を尻目に、巧は生徒会会長専用の皮張りの椅子の上に座り込んだ。
「さぁ、してご覧?」
「…っ」
巧の言葉は有無を言わせない強さを孕んで、夏樹を攻め立てていく。
黒い下フレームの眼鏡から向けられる視線に晒されると、それだけで自身を裸にされているような気分になってしまう。
夏樹は小さく息を飲むと、そのまま巧の座る椅子へと近付き、膝間づいた。
肘掛に腕を乗せたまま、巧はさぞ嬉しいとばかりに笑った。
「そのまま何をすればいいか、分かっているだろう?」
言われるがまま、夏樹は巧のズボンのベルトを外し、そのままファスナーを下ろした。
そしてそのまま下着を剥ぎ、剥き出しになった彼をそっと掴んだ。
「そう。いい子だね、夏樹」
そっと頭を撫でられる。
その手つきに夏樹はある種のエクスタシーを感じてしまう。
数ヶ月前、生徒会に入ってすぐに押し倒され、それからは毎日のように奉仕させられている。
初めは無理矢理であったはずのその行為が、徐々に慣らされているのか、こんな風にして快感に変わってしまっていた。
恐ろしいと思う。
男同士でなんて、強制されてなんて。
けれど、それを止められはしなかった。
それは権力で、ではない。
そこに夏樹自身が快感を見出してしまったからだ。
「夏樹、上手くなったね」
口腔に受け入れたそれを、舌を使って丁寧に舐め上げていく。
そのまま先端を舌先で嬲るようにして突き、裏側をねっとりと舐め下げていく。
こうやって強制されることが、こうして奉仕させられることが、夏樹にとって快感になっていたのだ。
自分はノーマルであった、と思う。
けれどこんな性癖が隠れていたなんて。
「美味しそうに頬張るね。可愛いよ」
男に可愛いと言われて、喜んでいる自分がいる。
それは嫌悪を含んでいるはずなのに、気持ち良くて。
こうやってさせられることが、今はただ嬉しくて。
「さぁ、次はどんな風にすればいいか分かっているだろう?」
巧の言葉は、まるで魔術だ。
言われれば言われたままに動かなくてはいけない気持ちになってしまう。
「ほら、夏樹」
名前を呼ばれれば、それだけでもう巧の手中に収められてしまう。
「会長…っ」
恍惚とした表情で見上げる夏樹の姿に、巧はもう一度小さく笑った。
「本当に可愛いよ、夏樹」






(井上潤也さん:高将にぐんさん)
「何、すんだよっ!」
 俺が後ろに飛びすさっても、あいつはにやりと笑うだけで、全く気にした様子はなかった。心臓が口どころか、頭のてっぺんから飛び出しそうだ。俺は手の甲で自分の唇を抑えたまま、キッとあいつの顔を見上げた。
「何って、お前が言ったんだろう? 『眼鏡をかけたままキスはできるのか』、って。だから実践してやったのに」
 やったのに、って、何で恩着せられてるんだよ!
「なんなら、もう一度試そうか?」
「け、けけ結構です……」
 同級生相手に、何故か敬語が口をつく。俺はこくりと息を飲むと、一歩、じりと後じさった。それと同時に、あいつが一歩、前に詰める。じり、じり、右足と左足。遠くならない二人の距離。そうしてトンと、肩が壁にぶつかった。
「!」
 奴はふっと淡く笑うと、俺の肩の上、壁にダン! と両手をついた。逃げ場を奪われた俺はびくりと肩を竦ませて、一瞬きゅっと目を閉じた。
「傷つくなぁ、そんな怯えた顔されると」
「そんな事……!」
 ない、なんて言えなかった。きらり銀に光る奴の眼鏡のその中で、確かに泣きそうな顔の俺が映っていたからだ。
「……なんてね。ホントは、そそられる」
 アイツは中指でくっと眼鏡を押し上げると、さらりと前髪を軽く流した。そのまま流れるような所作で長い指が俺の頬を滑り、そうして、
「んぅ……っ!」
 有無を言わさず、二度目のキス。文句を言おうと開きかけた唇から、温かい舌が侵入する。
「……っ」
 ぎゅっと硬く握り締めていたこぶしが解けて、肩から徐々に力が抜ける。息苦しさにくらくらして、唇が離れた瞬間はあっと大きく息をついたら、アイツにくすりと笑われた。
「息は鼻でするんだよ」
「わ、わかってる!」
「眼鏡は邪魔にならなかったろ?」
「う、ん」
「気持ちよかっただろ?」
「う」
 ん、と言いかけて慌てて両手で口を覆った。が、時既に遅し。アイツはさも可笑しそうに、眼鏡の奥で目を細めていた。
「それじゃあ、アンコールに応えて、」
「アンコールて、」
 言い終わらないうち、三たび唇を塞がれる。今度はもっと深く、深く。頭の芯がぼおっとしてきて、俺は慌てて心の中で、鼻で息、鼻で息、と何度も何度も繰り返した。むさぼるように、交わされるキス。奴の前髪がさらりと俺の額をくすぐり、ひやり冷たい透明なレンズが、俺の頬にひたり、当たった。
 長い長いキスが終わると、俺はつま先を睨みつけて、思わず大きな息をついた。視界が淡くにじんでいる。
「……嘘つき。眼鏡、やっぱ邪魔じゃんか」
「じゃあ、外したらもう一度させてくれる?」
 びくっと顔を上げると奴は相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、カチャリ、銀の眼鏡を正した。
「嘘だよ」
 ほおっと胸をなでおろした俺に、間髪入れずトドメの言葉。
「眼鏡を外したら、お前の顔が見えないじゃないか」
「ッ!」
 真っ赤になって睨みつけても、奴はただ愉しそうに、くっくっと黒髪を揺らしていた。