「レッティ、これあげる」
そう言って目の前の机に置かれたのは、包装され、リボンが巻かれた箱。
中を開けると、柔らかな布に包まれた金色の懐中時計が出てくる。
繊細な彫り装飾が全体に散りばめられ、蓋は中央部分がくり抜かれていて、中で時を刻む針が見える。
蓋を開くと文字盤が更によく見え、詳細な時間が確認出来た。
「蓋開けなくてもチラッと確認できてレッティにはいいでしょ?」
「あぁ」
確かに、良い。
デザインも派手すぎないし、実用的で便利だ。
「どうしたんだ、これ」
一目見て、高価な物だと分かるそれ。
貴族の息子であるコイツが、紛い物など寄越すはずもないから、俺では到底手が出ない代物であるということは分かる。
しかし、こんな物を貰うような理由など、思いつかない。
「僕がデザインしたんだよ。
僕とお揃いでね。世界に一揃いしかないんだよ」
そういって彼は懐から同じような懐中時計を取り出す。
表は俺の手にもつものと違ってきちんと蓋になっていて、中をあけないと時間が確認できないタイプらしい。
裏は同じ模様のようだ。
どちらもセンスのいいデザインだ……が。
「いや、そうじゃなくて……」
言いよどむ俺に、不思議そうに首を傾げるこいつは、本気でわかっていないらしい。
俺は、ため息を吐いて言った。
「貰う理由がない」
「僕があげたいんだよ。誕生日、近いんでしょ?」
「誕生日……?」
育ての親である司祭には、この時期の生まれだろうとは言われた。たしか、そんな話をコイツにした覚えもある。
だが正確な誕生日はわからないし、孤児院では大仰に祝う習慣はないので、正直、喜びより戸惑いの方が大きい。
その事を伝えれば、目の前の親友はなんでもない事のように笑って言った。
「いつに生まれたかなんて、大したことじゃないよ。
君が生まれたこと、君に出会えたことのお祝いなんだから」
コイツは……わかって言ってるんだろうか。
そういうのは、意中の女に言え。
俺はあまりのクサイ台詞に赤くなる顔を背けて隠しながら、時計を握り締めた。
「……ありがとう」
嬉しい、とは、とても恥ずかしくて言えないが。
世界に一つしか……一揃いしかないという、時計。
親友の想いが篭った、『特別な時計』
「大事にしてね」
「あぁ」
コンスタンスの言葉通り。
一生、大切にしようと、俺は心に誓った。
end
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