聖職者が聖書を読み上げる。
教会に朗々と響く、弔いの詞。
聞こえるすすり泣き。
俺はただ、黙って一般列に参列している。
献花が始まる。
親族が終わり、次に親しい上官が続き、最後に一般の番がくる。
隣の席に座る参列者が立ち上がり、俺もそれに続く。
徐々に近づく棺桶。
進みたくない。見たくない。
前を進む見知らぬ背。
後ろに居るのが誰なのか、確認する勇気はない。
胸を締めるのは虚な不安。
やがて目の前に開いた棺桶が晒される。
嫌でも目に入る、白い衣装に身を包まれて眠る人物を確認して、俺は。
溢れる涙を止めることも出来ずに、その場に崩れ落ちた。
*******
「オーギー!!」
悲鳴をあげて目を覚ます。
周囲は真っ暗で何も見えない。
だが、自分が何も身につけて居ないこと、隣に息づく暖かな体温で、ここが自分のベッドで、今みたものは夢だった事がわかる。
そう、夢だ。
実際の葬儀では、友は……最愛の恋人は、自分の隣で式に参列していたのだから。
棺桶で眠っていたのは、古くからの友人であって、恋人ではない。
俺は遣る瀬無さと安堵のため息をついて、ベッドに横になる。
思い出すのは葬儀の事。
大教会の司教だけあって、葬儀は大規模なものだった。
裏方を取り仕切っていたのは、亡くなった司教の部下であり、親友でもあった司祭。
式の合間に少し言葉を交わしたが、恐ろしいくらい冷静で、それでいて心ここにあらずな空虚さが滲んでいた。
(俺も、あんな風になるんだろうか)
恋人と親友は違う。
彼らにそんな俗な話は聞いたことがないが、それでも夫婦のような息のあった連携を見せる強い絆は見えていた。
そんな相手を失って、正気で居られるとは思えない。
「ん〜」
隣で上がる寝言のような声に、笑みが漏れる。
擦り寄る体に愛しさがこみ上げて、思わず頭を撫でて、そっと口付ける。
騎士団の部隊長を務めるだけあって、顔は精悍で男前。俺以上の男らしい体つきをしている。
それでも、可愛くて仕方が無い。
純粋で真っ直ぐなその精神も、子供のように裏表のない性格も、無邪気な仕草も。
「……頼むから、お前はまだ逝くなよ」
呪文のように囁く。
武器を手に戦場へ向かう、優しい男。
その優しさが、命取りにならなければ良い。
あの友人のように、あんな風に眠る姿は、見たくない。
見たくないんだ。
「愛してる、オーギー」
俺の不安など何も知らないまま眠る恋人に、俺は願うように再度口付けた。
end
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