真白の色の百年の
それは、何気ない日常の一コマ。
「そういえば、地上では親しい者に本名とは別の呼び名を付ける事があるそうだ」
突然、アイゼイヤはそんな事を言い出した。
「呼び名?」
隣りで彼の話をニコニコと聞いていたユーデクスは、聞きなれない言葉に首をかしげる。容姿に反した幼い仕草だが、その澄んだ瞳のせいか、妙にしっくりとくる。
そんな友の様子に穏やかな笑顔を浮かべて、アイゼイヤは説明を加える。
「【愛称】というらしい。本名を短縮形にして略すことが多いだろうか」
「ふむ……君なら、アイ、かな?」
ニコニコと返すユーデクスに、アイゼイヤはふふ、と笑う。
「まるで熱い告白を受けている気分だよ、ユーデクス」
ふむ……と顎に手を当てて考えこんだ黒髪の天使は、再びぽつり、と一言。
「アイヤ?」
「……今度は、どこかの掛け声のようだ」
思わず漏れたといった苦笑に、ユーデクスも苦いものを含んだ笑みを返す。
「愛称というのは、案外と難しいものだね、アイゼイヤ」
「ふふ、何も名前から取らなくてはいけないというわけではない。その者の容姿、性格から連想される【愛称】というものもある」
「連想、か……ならば、君は『シロ』だね」
自信……否、確信を持った晴れやかな笑顔で、ユーデクスはそう断言する。
その笑顔に、アイゼイヤは楽しげに口端を上げた。
「おや、何故だい?」
「私は天界に存在する物しか見たことがない。けれども、生まれてこの方、君以上に美しい白を見たことがないからね。
私にとって、白とは君をあらわす言葉なのだよ」
穢れなき白を形象化したような、美しい天使。
その身に純白を宿した、唯一無二の愛しい友。
邪気のない満面の笑みで、黒髪の天使は語る。
その真っ直ぐな言葉に、白色の髪と瞳を持つ天使は何とも言えない笑みを浮かべて一言。
「貴方には参るよ、ユーデクス」
そう、呟いたのだった。
それは、何気ない日常の、何気ない会話。
白と黒。二人の天使が共有した、優しい時間。
end
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