いたずらに 腰にまとわりつく。 −キアランとサンダピリア−


「!?」
 突然後ろから抱きつかれ、キアランは息を呑む。
 反射的に筋肉が強張り、動かないままに神経を研ぎ澄まして臨戦態勢を取ったが、よくよく気配を感じ取れば、それは嫌というほど良く見知ったもので。
 首だけを回して見下ろした先、犯人を確認して思わず肩の力が抜けた。
「なんだよ、突然」
 驚いた自分の羞恥を誤魔化すように、彼は些か乱暴な口調で問う。

 銀色の髪を持つ、一見少女と見まごう程の、華奢で美しい少年。
 彼の肩どころか、肩甲骨にも届かない身長。
 出会った時から変わらない……成長していない体。
 だが、実際年齢は自分より百年単位で年上だという。最初はそんなわけあるかと馬鹿にしていたが、最近ではその疑いも何処かへいってしまった。

 問われた側……サンダピリアは、此方も納得いかないような、不満そうな声で、唸った。
「腕が回らん。またでかくなったのではないか?」
「さぁな。暫く身長なんざ測ってねぇし」
 悔しいのぅ……呻くように、彼は呟く。
 その声が何故か泣いてるように聞こえて、キアランは顔を顰めた。
「なんかあったのか?」
 問いかけると、彼は一瞬だけ驚いたような表情を浮かべて顔を上げ、直ぐに苦い笑みを浮かべた。
「いや……弟子が勝手にでかくなるのが気にいらんだけじゃよ」
 そう言って、教皇はその鮮やかな翡翠色の瞳を微笑ませたのだった。



 引き締まった体躯。
 すらりと伸びた手足。
 全てを見下ろせるような、高い目線。

 その全てが、羨んで諦めた憧憬。



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