冗談っぽく ひざまくら。 −ジュレクティオとコンスタンス−
殆どの学生が帰省や旅行に出かけ、僅かな教員と、帰省先や金のない学生が残っているばかりの学院。
その中でも、夏休みに入って人気がぐっと減った図書室に、ジュレクティオは連日入り浸っていた。
尤も、彼は休みであろうがなかろうが、時間さえあればここに篭っているのだが。
夏休みに入ってからは、比較的風通しの良い窓際に置かれた長ソファーが彼の特等席になっていた。
「いい風だねぇ……絶好の昼寝日和だ」
頭上から聞こえた、聞きなれた声。
顔を上げなくても誰か分かる。というより、自分にこんな風に気軽に声をかけてくる者など、この学院に一人しか居ない。
「終わったのか?」
視線を本に落としたまま、ジュレクティオは問う。
「うーん」
コンスタンスは曖昧な声を漏らして、友の隣りに腰を下ろした。
「休憩?」
悪びれもせず返って来た答えに、とうとうジュレクティオは呆れて顔を上げる。
「さっきもそう言ってなかったか? 写すだけに、一体どれだけ時間をかけるつもりだ」
「僕、向いてないんだよね。こういう作業」
なら、何が向いているんだ。そう問いかけようとして、やめる。
どうせ、碌な返事が返ってこないだろう。
代わりに溜息を一つ零し、ジュレクティオは再び本に視線を落とした。
「今日中に終わらせろよ」
「努力はするよ」
そう言いつつもコンスタンスは欠伸を漏らして、ことんとジュレクティオの肩に頭を預ける。
そして、そのままずるずると腕を辿るように、体を倒していく。
これでは、本を読むどころではない。
ジュレクティオが仕方なく本をどけると、頭はそのまま彼の膝におさまった。
「おい」
低い声で不満の声を上げると、返るのは生欠伸。
「その本が読み終わったら起こして」
苦情を受け付ける気はないらしい。
要望だけ告げて、彼は身じろぎ、そのまま夢の国へと落ちて行ってしまった。
最初は冗談のつもりだろうと暫くその顔を眺めていたが、起きる気配は全くない。
ジュレクティオは溜息と共に全てを諦め、再び本に視線を落としたのだった。
時折、庭の木々の青々とした葉と共に、ミルクティー色の柔らかな髪と、漆黒の艶やかな髪を風が揺らす。
そんな、穏やかな夏の昼下がりのお話。
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